『私の短い人生は、なにもかも思い通りにいかず、なにものにもなれない、救いがたいものであった……』

　学校生活にも慣れてきた十二月のある日、繁華街の一角で智美を見かけた。本当に偶然だったんだ。智美は黒い背広を着た男と手をつないで歩いていた。この日は風邪で学校を休んでいたはずなのに。僕はすぐにそれを理解した。当時、僕の通う学校でも援助交際は話題になっていたから。『人魚』とかいう派手なホテルに智美と男が一緒に入るところを見た瞬間、僕の初恋は終わった。文字通り、なにもかも終わってしまったのだ。

『今夜は誰もこないだろう。僕は悟った。その瞬間、途方もない虚しさに襲われた……』

『あの男の言っていることがすべて真実なら、僕たちのいるこの世界を創り出した高次元の作者がどこかにいる、ということになる……』

『なになに……。面談カウンセリング、メンタルケア、出張サービス、事務手数料、その他諸経費、税込百万円。なにいいいいいいぃぃぃぃぃ。 ひゃ、ひゃ、百万？　なんなんだこの金額は！ というか、この金額の根拠は一体なんなんだ？ 車や時計じゃあるまいし、たかが無形のサービスに百万？ どうなってんだ、これは……』

『なにもかもあの頃のままで、過ぎ去ったはずの時間が降りしきる氷の結晶に反射して蘇り、たくさんの想い出が流星みたいに輝いては、静かに消えていった』

『そこにはいつもと同じ風景、何事も起こり得ない夜の街があった』

『午後、八時五十五分。対向車のヘッドライトが峰岸の歪んだ顔面を照らす』

『巨大な人工物についての説明が終わると、今度はいとこ星、AZ666についての説明がはじまった』

『これといった目的もなく、心地よい夏の夜風に吹かれながら、過ぎゆく時間をふたりで眺めた』