作品一覧全6件
連載 完結済 3エピソード
「女の十手持ちで悪かったなぁ。だがよ、おいら、見逃しゃしねぇぜ!」 雨の振りそぼつ西亥堀河岸。女郎花に埋もれる娘の猟奇死体…………。 しかし、駒吉は、力なく小さな溜息を吐いて笑った後、自分から歩き始めた。 「やっぱり、なぁんにも、わかっちゃいない」  お静は思わず駒吉を追いかけた。 「でも、もう気が済んだだろう? あんたのことを慕ってる元半玉さんに会ってきたぜ。今じゃ押しも押されもしねぇ日本橋の芸者さんだそうだ。とっても感謝していたぜ。これを機会に千世に戻りな」 「おまえみたいな小娘が指図するんじゃないよ。わちきのことは、わちきで決めるさ」  駒吉がお静を鋭く睨んで顔を背けた。顎を少し上げて粋に遠い夜空を見上げたのは、最後の意地尽だったのかもしれない。 女岡っ引きの静。得意は捕物で命を落した母親ゆずりの百発百中簪投げ。病床の父親が推理し、正義感の強い娘が簪投げの秘技で悪を追い詰める。吾妻橋の文吉シリーズ姉妹編です。
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ノンジャンル[ノンジャンル] R15
最終更新日:2011年08月06日
仙台堀 金太郎 江戸時代 愛憎 隠し武器 恋愛 推理 美形 殺人 歴史 犯罪者 読了時間:約151分(75,211文字)
短編
 その声が聞こえたのか、唐突に建て付けの悪い戸が開けられて中から小さな娘が顔を出した。迷惑そうな顔をしている。 「お坊さん、中に入んなよ」  伊織の身につけている梵天袈裟も衣もぐっしょり濡れて体に纏わりついている。娘は一瞥して托鉢僧だとわかると先回りするように口を開いた。 「家にはお布施になる様なものはないけど、そのままじゃ風邪ひくよ。囲炉裏の火で着物、乾かすといい」  睨むような目をした娘は抑揚のない低い声でそう言うと中へ引っ込んだ。  伊織は自分の手に持っている鉢に目を落とし、苦笑した。最初から布施を期待してここに立っていた訳ではないのだ。それにしても七つか八つ程にしか見えないが、可愛げのないその娘の小生意気な態度に返す言葉が見つからなかった。 「それはありがたい。拙僧は、蓮虎と申す。急に強くなった雨足に難儀しておったのだ」 「朝からあんなに降ってたのに、出かけるかなぁ……」 托鉢修行に出た伊織はひょんなことから小生意気な娘を預かった。その娘を軸に老舗太物屋のお家騒動に巻き込まれていく。
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ノンジャンル[ノンジャンル]
最終更新日:2011年07月21日
剣豪 小生意気 岡っ引き 江戸時代 サスペンス 推理 親子 読了時間:約77分(38,236文字)
連載 完結済 2エピソード
 江戸物人情物に初めて挑戦いたしました。よろしくご購読願いします。 「何すんだよ!」  そう叫ぶと同時に志乃の右手が新之助の頬を張った。  新之助は能面のように表情を消して、志乃の上に覆いかぶさってきた。再び新之助の頬が激しい音を立てて鳴った。何度も何度も乾いた音が響いた。衿からぐっと差し込まれた新之助の手に志乃の乳房が鷲掴みにされる。 「まったく娘みてぇな身体をしてやがる。親父は、この身体を抱けなかったことにまだ後悔してるんだぜ」  逃げようとしても上に乗られた新之助から志乃の自由は奪われたままである。  裾を割られて新之助の腰が志乃の中へ落ちてきた。「やめな!」と強気に応戦していた志乃の声が「やめて……」と哀願するように変わった。  新之助が力を込めた。  志乃は息を強く吸い込み仰け反った。  抗うのに無我夢中で時間の経緯がわからなかった。ただ下腹に熱いものが注がれて、志乃の体を嵐が通り過ぎた。志乃の頭が混乱し、心を殺されて放り出された。 「赤ん坊から腰の曲がった年寄りまで、深川の女という女たちを全員取り込んじまうよ! 門仲に目障りで邪魔っけな小間物屋があるけど、潰しっちまうよっ!」  大広間に集めた八十名の男達を前に志乃が立ち上がった。茜屋の五つ紋をあしらった黒羽二重を着た志乃の勢いに、臙脂の鮮やかなお仕着せ半纏の男達が一斉に野太い気合の入った返事で座敷の空気を振るわせた。 --でも、覚えているだろ? あたしゃ容赦しないよ。約束だ。あんたのこの店を潰して見せるからね。悔しかったらかかっておいで。  茜屋は、浅草は花川戸にある呉服商である。志乃はそこのひとり娘である。  法師蝉が時雨れた夏の終わり、越後から出てきた仙吉が茜屋で奉公を始めたのは、志乃が十になった時だった。 そして二人の夢は茜屋を江戸一の大店へのしあげることと一緒だった。しかし、はからずも志乃の茜屋は総力を挙げて、仙吉の深川に出した小間物屋を潰しにかかった。 それは志乃の生きてきた証にほかならなかった。
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ノンジャンル[ノンジャンル] R15
最終更新日:2011年07月19日
花川戸 万年青 呉服屋 ロマンス 恋愛 陵辱 親子どんぶり 江戸時代 幼馴染 ビジネス/企業 友情 青春 読了時間:約167分(83,102文字)
短編
「自分が幸福だったなんて気づきもしませんでした。不運なんてものは、前触れもなく突然やって来て、そんなことを教えてくれるんですね」少し落ち着いてから太兵衛の女房は誰に言うともなく呟いた。  何を斬っているのだろうか?  ふいにそんな疑問が駒吉の頭に浮かんだ。何故あの男の考えていることを覗こうとしたのだろうか。いや、覗こうとしたのではない。あの男の体が訴えているのだ。余りにも強い怒り、怨嗟、慨嘆が入り混じった目の光は底が無いほど暗かった。きっとあの男は、この世にある全てのものを斬ってしまいたいに違いない。  この世を怨んでいる。そして、自分自身さえも憎んでいる。  岡っ引きであった父親の後を継いだ文吉の前に、連続辻斬り犯があらわれる。辻斬りの目は世の中に対して、そして自分自身に憤りを感じている悲しい光を放っていた。文吉の幼馴染芸者の駒吉が自ら囮となって辻斬りを呼び寄せる。しかし、伯耆流抜刀術の使い手である吉川八左衛門の殺戮はだれにもとめられない。吉川八左衛門の前に立ったのは同じ長屋に住む手習い指南所の師匠、竹光を腰に差した数馬であった。
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ノンジャンル[ノンジャンル]
最終更新日:2011年07月18日
岡っ引き 居合 芸者 江戸時代 幸福 サスペンス 女郎 岡場所 青春 読了時間:約96分(47,950文字)
連載 完結済 2エピソード
「うつされたって構いやしないさ。どこで死んだって誰も悲しんだりしない。ま、あたいは元気なだけが取り柄だから労咳だって尻尾をまいて逃げて行くさ」  捨て鉢には聞こえなかった。おろくの顔がひどく大人に見えた。二十四の亥之助よりも今は十六のおろくの方が年上に思える。  亥之助の首に手をかけたおろくはそのまま引き寄せて口を吸うと逃げ腰の亥之助に重なって布団の上へ倒れ込んだ。 「あたいの体の中からあの蛇男に汚されたところを綺麗に掃き出しとくれ……」 吾労咳の剣士が死を前にして幼馴染の恋人を捜しに江戸へ出た。しかし、抜荷一味とかかわるようになり、凄惨な剣をふるう。剣士亥之助を慕う天真爛漫な女おろくは、そんな彼を見て……… 吾妻橋の文吉と手習師範藤堂数馬の剣が悪を追い詰めていく。
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ノンジャンル[ノンジャンル] R15
最終更新日:2011年07月17日
江戸時代 岡っ引き 剣豪 女郎 労咳 花魁 恋愛 献身 吉原 お歯黒どぶ 読了時間:約92分(45,631文字)
短編
 身寄りのないお京が生きていくためには男達に身を売るより外なかったのだ。 ――夜鷹の花代二十四文、二八そばが十六文、三杯食べる分で夜鷹が二人抱けるだって? 笑わせるんじゃないよ。 捨て鉢になったお京のせいだと、自分でも承知している。ずっと流れに逆らわずに生きてきた。逆らったって自分の思う通りには転ばない。逆らった自分と逆らわなかった自分とどっちが幸せだったか考えてみても夜鷹蕎麦の代金ほど変わらない気がしていた。  だから好きでもなんでもない男から一緒に死のうと言われても逆らわなかったのだ。 ――死ぬのだって生きているより楽なもんさ。  楽な方がいい。つい最近までそう信じていたはずだった。 ――それなのに何で夢見ちまったんだろう。 時は田沼時代。ある日から隅田川沿いに公家の姫とその主従が出現するようになった。そして、打ち上げられた足の悪い老婆の水死体。首には絞められた跡が残っていた。吾妻橋の達磨横丁に住む岡っ引き文吉は下っ引きの佐平とともに老婆の持っていた寺の札を頼りに探索を開始した。そして、老婆の殺しを目撃していた夜鷹と客を見つけた。関係のない二つのことが繋がって、文吉は公卿の姫を追う。 降り終いの雪からお読みいただくと、主人公の性格がよくわかります。
作品情報
ノンジャンル[ノンジャンル]
最終更新日:2009年06月25日
侘助 サスペンス 推理 公家 大川 江戸時代 ほのぼの ハッピーエンド ミステリ エンターテイメント 美形 犯罪者 夜鷹 稚児 読了時間:約107分(53,370文字)