ラグーン大陸は永い戦乱の時代へと突入していた。
隆盛を極めた国が次の瞬間には隣の国に滅ぼされ、滅ぼした国も別の国に滅ぼされるという終わりのない戦国時代。
平和という言葉は死に絶え、暴力と欲望が蔓延る現世に現れた地獄。
力無き者は悪であり、力こそが正義の弱肉強食の時代である。
そのいつ果てるとも知れぬ、戦乱は数々の英雄を生み出し続けた。
一人で千人の兵に勝ると言われた豪傑。
本営にいながら、千里も離れた戦場で味方に勝利を呼び込む軍師。
傲慢な他国の王を前に一歩も引かずに自国の益を守った外交官。
己の信義を曲げずに最後まで騎士道に殉じた騎士。
あらゆる外敵から国を守った将軍。
弱小の国家を一代で強国へと生まれ変わらせた名君。
その他ありとあらゆる英雄が誕生しては消え、誕生しては消えていく、幾千もの英雄を生み出した時代である。
そんな、戦乱渦巻くラグーン大陸の南に位置するドライグ帝国は圧倒的な軍事力で他国を睥睨する大陸有数の大国である。
そんなドライグ帝国に一人の皇女がいた。
彼女の名はティア
邪邪竜のティアの異名を持ち、一部の人間に恐怖と嫌悪を撒き散らす彼女がこの戦乱の大陸に一石を投じる存在となる者である。
その彼女と生真面目な青年が出会う時、戦乱の世が大きく動き始めることになる。
異世界 戦記
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