昔々、小さな村にそれはそれは美しい娘が住んでいました。
娘の瞳は大きく栗色をしており、それは娘の美しさを際立たせていました。
誰からも好かれた娘は数多くの求婚を受けましたが、決して承諾しません。
「心の綺麗な人に私はお会いしたい。」
その村の外れにはそれはそれは醜い怪物が住んでいました。
村へ出るたびに疎まれ、酷い仕打ちを受けました。
そんな怪物でさえ、美しい娘のことを知っていました。
「一度でいいから会ってみたい。」
ある日、娘は怪物が村人に囲まれているのを見つけました。
どうにか村人を怪物から離れさせると、そっと傷だらけの怪物に寄り添います。
「どうしたのですか。」
「あの人たちが花を踏みつけたので注意したのです。」
そういう怪物に娘はぽろりと惚れてしまいました。
怪物もまた、娘の美しさに胸を高鳴らせました。
一緒にいるうちに何時しか恋仲になりました。
「綺麗なひと。」
「あなたこそ、こんな奴には勿体無い。」
すると、怪物は自分を見つめる美しい瞳に耐えかねて、
その両目を食べてしまいました。
娘は痛みと悲しみで怪物との記憶を失いました。
「それみたことか。」
村人は怪物の家を焼き、村から追い出しました。
怪物は何も言わずに出ていきました。
やがて、娘は村で一番の富豪に嫁入りしました。
怪物はそれを聞いて、泣きました。
たった一人で泣きました。
三日三晩泣き続け、やがて大きな岩になりました。
その岩は怪鳴岩《かいめいいわ》と呼ばれ、今もまだ怪物の泣き声が聞こえるそうです。