時間を少しだけ頂こう。大して時間はかからないよ。ただ一つだけ、お話を聞いてほしいだけだからね。
その少年の名は佐更木セン、その少女の名は片霧シズハ、二人は互いに信頼し合って生きている。平穏な日々を生きている。──と、彼らはそう思い込んでいる。
彼らは何も知らない。いや、知っているとしても思い出せないか、或いは思い出したくないか。
でもね……彼らは私達にとって、とても重要な存在なんだ。彼らには真実を、運命を知ってもらわなければならない。まだうら若き彼らにとっては、とても残酷な事なのだけれども。そうしなければならない。
「天災(テイロス)は必ず、その原初から全て除かなければならない。例えそれが、数多の犠牲を伴うとて、そうせねば、平穏は訪れないのだ。天災を除き、我等人類は何者にも脅かされる事の無い理想郷(アルカディア)を築かねばならない」
なんて、いつか誰かが掲げた理想郷のイデア。いつからか、私はそれを「アルカディア=コード」と呼んでいる。
あの二人は、それを遂行させるに足る力がある。だから、彼等はこちら側に引き込まなればならない。
……私は、あの二人に纏わるあらゆる事を知っている。この眼で見てきた。だから──
引き込む前に、どうか一度だけ、あの子達を抱き締めてから──