時は2055年。
貧困、内戦、あらゆる人的災害を経験した人間たちは世界政府を結成して世界中の国々を一つの国家とみなすことにした。世界政府の核を担うのは先進諸国。新自由主義とグローバル化の名のもとに進んだ経済は結果的に『世界』を潤した。しかし、先進諸国の人間は、失念していた。自分たちの利益の影には、利益を吸い上げられる人間が必ず存在していることを。
犯罪者増加率が過去最高を迎え、政府はある組織の存在を公にする。組織の名は『WILL』。世界中の大犯罪者達が集うこの組織は、いずれ世界政府を転覆させて自分たち以外の人間を滅ぼすつもりだという。
翡瀬唯翔は日々考えていた。
自分が発展途上国の人間なら何を考えるだろう。とりあえずは、生きることだろう。なら、何が必要か。金と、安全な水、食料。家。それらを手に入れるために邪魔なものは。
自分が世界政府の人間なら、給料は目を疑うほどの額なのだろう。聖人君子ならばそれを世の中に還元するだろうが、政治に関わる人間なんてほとんどが強欲だ。なら、強欲な人間が恐れることは?富を失い、地位を剥奪されること。ならば何が敵になると一番怖い?
もし自分が、犯罪者なら―――。
犯罪とは、なんだ?
世界政府の存在を疑った唯翔は、世界政府日本支部によって思想犯認定されて『犯罪者』となる。未来を奪われた唯翔に差し伸ばされた手は、『一般人』なら取るべきでない人間のものだった。