作品一覧全2件
連載 2エピソード
ゆらゆらと、カップから沸き上がる湯気が揺れる。 「…にっが。」 カップに口をつけていた人物はポツリと零した。 音を立てながら椅子を引き、立ち上がると、入れ忘れていたミルクと砂糖を取りにキッチンへ向かう。 ブラックコーヒーは苦手で、いつもミルクと砂糖は絶対に欠かさないのに。 少し自嘲しながら砂糖の瓶とミルクのパックを持って机に戻り、その2つを置くと椅子に腰掛けた。 少し軋んだ、乾いたような音に、普段は気にしないくせに今はわずかに不愉快そうに眉を寄せた。 まるで覇気のない表情のその人物は、するりと目元を触り、小さく溜息をついた。 少し腫れている目元を優しく撫でたり強く押したり。 元に戻そうと努力してみるが、腫れは冷やさないことには中々戻らないと分かっている。 それでも、この寒さだ。 布団から出ても床に足をつけると、あまりもの冷たさに布団に引っ込んでしまうというのに、冷やすためとはいえ冷たいものなんて触りたくない。 全てが億劫になり、気が滅入る。 でも、たぶんきっと、理由は寒さだけじゃない。 人物は目元を触っていた手を離し、今度は大きく溜息を吐いた。 カップに口をつける。 「…にがい。」 机の上に置いただけで、砂糖とミルクを入れていないことを思い出す。 カップからは、もう、湯気は出ていなかった。
作品情報
純文学[文芸]
最終更新日:2018年02月06日
恋愛 読了時間:約5分(2,335文字)
短編
あなたは私の何ですか。 この気持ちは何ですか。
作品情報
ノンジャンル[ノンジャンル]
最終更新日:2015年03月11日
恋愛? 短編 初作品 読了時間:約12分(5,511文字)