桜井架純(さくらい かすみ)は大学3年生の夏をもう乗り越えられそうにないと感じていた。
苦学生でバイトに明け暮れ、寝る間もない程頑張ってきた。でももうとっくにガタがきていたのだ。
もうこれ以上は続けられない。頭ではそうしようと思っても気持ちがもうこれ以上は絶対に無理だと赤信号を出している。どんどん抑えようもなく悲観的な考えが浮かんできて止められなくなってきている。
どんなに平静を装っても体にその拒否反応が出始めている。心身のコントロールを失いかけている。
全てが色あせて、力が失われていく感覚。夢や希望が音を立てて壊れていく感覚―。自分の健全な思考や感情が毒々しい絶望に飲み込まれすべてが蝕まれてしまいそうなのを今日も必死に何とか踏みとどまっている。
そんな矢先、元カレが家に押しかけて口論となり、やっと追い返した所で、身も心もぼろぼろでいよいよ精魂尽き果ててしまったらしい。
人生っていうのはなんでこんなに理不尽なんだろう。もう本当にもう限界だ。苦難はこっちの都合なんてお構いなしに容赦なくやってくる。
身動きが取れなくなり力なく座り込み、うずくまって声を上げて泣き叫びそうになった瞬間、大学の同級生で友人である川本亮二が偶然家にやってきたことを知り我に返った架純。
いつの間にかあれよあれよと押し込まれて太刀打ちできなくなった人生。無様に這いつくばる弱い姿をとうとう身近な人にさらしてしまいつつも、気丈に振る舞う架純に亮二は思いがけない言動を取る。