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あいつがこちらに向かって手を振ったので、僕も手を上げて、それに答えてやった。
手を振りはしなかったけれど、それでもあいつは嬉しそうにこちらへ駆け寄る。
多分、別にどっちでも良かったんだと思う_____僕が手を振ったって振らなくたって。
そんなことは彼には関係なかったらしい。
あぁそうですか。
あいつは僕のそばに駆け寄り、にぱっと顔の筋肉を全部使うような笑みで僕に語り掛ける。
「良かった、お前いっつも歩くの早いんだもんな…追いつくのにも時間かかっちゃうわ」
あー疲れた、なんて言いながら僕の肩に手を回し、さりげなく僕との歩調を合わせようとしているあいつに。
僕は変わりなく、ただの脇役のようにあいつを安心させるためだけに答えた。
「早くなんてないよ、大丈夫さ。お前の方が、早いだろ?」
_______追いつくのも、抜かすのも。