女の子扱いを極端に嫌う女性、横峰千春。千春は幼い頃は周りからちーちゃんと呼ばれていた。千春はそれに違和感を感じていたが、周りの女の子たちもみんなそんな風に呼ばれていたのでその時は気にすることはなかった。千春は女の子がするような遊びは好まず、よく男の子と遊んでいた。そんな生活の中で、小学四年までは特に悩みもなく暮らすことができていたが、五年生になると、千春の身体に“胸が出てくる"という異変が現れ、千春は自分の身体を少し嫌悪するようになる。その年の夏のプールで、更衣室が男女別に分けられ、女子更衣室の風景を見て千春は「自分のいる場所は、ここじゃない」と感じ、男子更衣室に行こうかと考えるがそれにも違和感を感じ、自分の本当の性別について悩むようになる。中学ではその悩みを紛らわすために陸上に熱中したが、二年の終わり頃に男子部員と性別に関することで喧嘩して辞めてしまう。
三年の春に、川上葵という女の子が転校してきて、千春の隣の席に座ることになる。葵が千春に話しかけ、すぐに二人は打ち解け、千春は葵に自分の目指す、この辺りでは最難関の高校を目指すよう勧める。あまり勉強してこなかった葵は一旦拒むが、千春の説得に負けて渋々承諾する。ある日千春の家で、千春と共に勉強していた葵が横峰家の温かさに触れて、今まで隠してきた自分の家の事情を話し、そんな葵に千春は愛情を抱く。しかし、千春は本当の自分を大切な人に見せることができず、罪悪感をも抱くようになり、時と共に膨張していく愛情と罪悪の板挟みに耐え兼ね、葵に黙ってアメリカに留学することを決意する。順調に事は進んでいたが、出発前に葵に知られ、やむなく千春は自分の気持ちを伝えるが、葵の返事を待つことなくその場から立ち去る。アメリカに渡って一年が経った頃、千春の家に葵から手紙が届き、千春はそれを読んで涙を流す。
文学フリマ短編小説賞
読了時間:約39分(19,251文字)