同じ国でありながら、崖の上と下で生活水準がまったく異なる国があった。
500mの高低差でそれぞれの住民が交わることはなく、互いにその存在もあいまいだった。
そこに、誤って落ちてしまった崖上の少年。
崖上のゴミとともに落ちた彼を救ったのは、異常な身体能力を持つ少年だった。
意識を取り戻した崖上の少年が見たのは、崖上のゴミを糧とする崖下の街。
けっして裕福な暮らしをしていたわけではなかった崖上の少年でも、その惨状に驚き、戸惑った。何より衝撃を受けたのは、そもそも崖下に街があり、人がいることを知らなかったことだった。
社会問題になってもおかしくない状況にも関わらず、何も知らないことに驚く崖上の少年をよそに、崖下の少年は崖下の住民にとっても崖上のことを知らないことを告げる。
見上げても、見えるのは岩肌の壁ばかり。
ゴミが落ちてくるので、何かあるだろうと思っている程度の認識しかない。そして、何があるのか確かめる術もない。
食糧難から、住民の盗みと暴力。
それを止め、取り締まる組織はない。
紙幣というものがなく、物々交換での取引。
それまでの常識が一切通じない崖上の少年は憤るが、崖下の少年はそれが普通だと答えた。
そんな中、なけなしの正義感を振るった崖上の少年を待っていたのは、容赦ない暴力。
崖下の少年によって、なんとか助かった崖上の少年。
ただ子どもを助けだけで、自らの命が危ぶまれるという状況にショックを受けずにはいられなかった。
そんな崖上の少年にたいして、崖下の少年は「余計なことをするな」と声を荒げた。
こんなの間違っている。
崖上の少年は思わずにいられなかった。
だから、崖下の少年に告げた。
―世界を変えて見せる―と。
ファンタジー 未来 シリアス
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