突然ミルガイの宇宙服が赤く点灯し、アラートが船内に響いた。
既に水の惑星の重力圏内です、帯水機構のみでは自重を抑えきれません、保重機構のスイッチを入れてください、既に水の惑星の重力圏内です…… 船載知性が簡潔な警告文を繰り返し、長短短のビープ音を鳴らし続けている。
「着水する前に体が潰れたら意味ないですよ。早くこのうるさいアラートを止めてください」
ムールガイは八本の腕のうち半分を使ってわざとらしく耳のあたりを塞ぎながら、警告音に負けないように大きく声を上げた。すまない、と落ち着いたふうに保重機構を起動しようとしたミルガイだったが、今度は逆に狭い船内をプカプカと浮き始めた。
「何やってんですか!それは反重力保身機構でしょう……」
ムールガイは耳を塞いでいた四本腕を組みかえ、視界を塞ぎながら落胆の声を漏らす。騒がしく鳴り続ける警告音にはもう慣れたようだった。
「すまない。気を引き締めるから」
「お願いしますよ。積年の夢だってのになんでそんなに気が緩いんだか……」
ムールガイの小言にミルガイは心のなかで、積年の夢だからこそ浮足立ってしまうのだ、とささやかに反論した。ムールが鈍感すぎるだけだ、とも付け加えた。
彼らは五百年のあいだ夢に見た理想郷――私たちの言葉で言えば地球――に降り立とうとしていた。