本作「切り札」は、開かれた扉、風の剣、少女の翼、の三篇で一つの物語を構成しています。共通のテーマは、世界変えた者たちの物語、です。
まず、開かれた扉は、主人公が乗り合わせた列車が突如として、駅のない線路を延々と走り続けることになります。他の乗客たちは、先頭車両でゲームを行い、勝者が列車から抜け出せると考えていきます。主人公は違う方法で脱出を図ります。その際、最後方車両で灰色のうさぎと出会います。彼らは力を合わせ、扉を開くことに成功します。しかし、走り続ける列車から脱出するには、飛び出さなければなりません。主人公は恐怖と闘いながら、自らの世界を変えていき、脱出に成功します。
次に、風の剣は、灰色のうさぎが創った物語です。七日間同じ夢を見た少年が村を出て行く決心をする物語です。彼の住む村は、一度村を出た者は二度と戻ることが出来ないという掟があります。後戻りが出来ない選択を少年は、苦しみながら決断します。村を出た彼は、街で魔法使いのおばあさんに出会います。ある洞窟へ行き、彼女の影を取り戻してくるように頼まれます。しかし、洞窟で彼女の影に出会い、彼女が悪い魔法使いだと聞かされます。影の開放は秩序の崩壊に繋がります。少年が洞窟を出るには、影を開放しなければいけません。そこで、彼は影交換を行います。彼女の影は洞窟に留めたままで、自らの影を彼女の元へ送ります。彼の行為は実を結び洞窟からの脱出に成功します。でも、彼には、もう戻るべき場所はありません。自らの居場所を求めて、歩き出します。
最後の少女の翼は、魔法が存在する世界の物語です。主人公の少女は幼き日に兄を原因不明の病で亡くします。そのことで、行き違いから家族の間に軋轢が生じます。一方、優秀な魔法使いのみが身に付けることの出来るシルバーリングを所持している彼女の両親の存在が彼女を他の学生から、やっかみという形で遠ざけます。孤立を深めていく彼女にある日、十七の誕生日の日に変化が訪れます。今まで飛べなかった彼女が飛べるようになります。魔法使いは箒という道具により飛んでいると思われていましたが、彼女は道具なしで飛ぶことが出来ます。そのことで、世界は驚き、混乱していきます。彼女は、混乱の中で、両親への誤解を解いていきます。また、兄が巻き込まれた物語にも触れていきます。そこで、彼女は自らの世界を確立していくことになります。