自己紹介
1928年 北海道の寒村にて生を受ける。ヒグマと近隣の村を襲い、狼と農場を襲撃する牧歌的な幼少期を送る。
1944年 村に現れた徴募官に〝戦士を待ち受ける処女のハーレム〟がどうのと吹き込まれて、年齢を偽り日本帝国陸軍に入隊。基礎教練ののち、過酷なトライアルをくぐり抜けて当時〝帝国軍随一の精鋭部隊〟と謳われたロイヤル・バレエ観劇連隊に配属される。配属に先立ち主任訓練教官は〝午後ティーの缶を開ける際のエレガントな仕草に特筆すべきものがある。逸材〟と人事考課に書き添えている。
1945年 沖縄戦で米軍の捕虜になる。捕虜収容キャンプにて「待遇を改善してほしけりゃおれと勝負しな、バンザイ野郎が」と米兵に競技カルタを挑まれ、あえなく敗退するも、全米大学カルタ・リーグ・チャンピオンに苦戦を強いたその鬼神の如き戦いぶりから〝BAD MOTHER〟なる綽名を頂戴し、以後、食事にコンビーフがつくようになる。
1945年 終戦を機に帰郷。大戦末期に一族郎党がパチンカスになってオランダの年間福祉事業予算並みの借金を作っていたり、いけ好かない肛門性格の同級生が最年少北海道知事になって山賊ばりにやりたい放題やっていたり、密かに憧れていた隣の家のお姉さんがとっくに嫁いで二児のヤンママになっていたりと、一年半ぶんのショッキングなニュースに触れて失意に沈む。「こうなったらもう革命を起こして俺がやりたい放題やるか、テロリストになって神を巡る論争に白黒つけるか、開拓移民になって過去と決別するしかない」と奮起。
1946年 医学部と法学部の学生二人と楽しくお喋りをしている現場に道警の機動隊が雪崩れ込む。『おれたちが人類の支配者になって楽勝ハーレム・ルート』なる題を冠されたノートを押収され、〝危険思想の疑い濃厚〟として裁判ののち投獄。
1947年 出所から二週間後、近所の雑貨屋にダイナマイト2トン、マッチひと箱、コーラン2万部を注文し、裁判長の失笑を買いながらふたたび投獄。
1948年 出所した足で第四次火星移民計画に志願。
1948~1952年 火星のテラフォーミング第3段階工事に従事。第4級市民に登録される。
1952~1977年 火星にて農夫、自動車修理工、中古車ディーラー、ファミリーマート・マーズ店の夜勤店員、高校教師、ポン引き、ヒモ、マーズ大学自然学部助教授、阿片窟経営者、宇宙刑事、マーズ銀行副頭取、マリファナ・パーティー・プランナーなど、様々な職を渡り歩く。また余暇には水泳、登山、狐狩り、銀行強盗、と各種スポーツにも親しむ。
1978年 第一二代宇宙大統領のスポークスマン兼補佐官に任命される。
1978~1982年 その激務からアルコールの問題を抱えて失言を連発。
「畜生、犯罪者と不法移民と同性愛者と別れた妻と肌の白くないやつは実弾訓練の的にすべきなんだ。ええ、もちろん本気ですとも。なんなら、連中を何人かここへ連れてきてください。わたしが護身用に持ち歩いているこのスウェディッシュKで片をつけて御覧にいれますよ」
「タイムズの記者さん、あんたはもう飲んだかい、このコーラ・ダイコン味とかいう小便を? コカ・コーラ・ボトリング・マーズの会議室ではコカインの白い嵐が舞っているんだろうぜ」
「いいえ、そうではありません。大統領と副大統領はこの問題に対処不能であるが故に公衆に姿を見せないのではなく、両名は単に、売春婦の一団と夜の冒険に繰り出して一時的に所在がわからなくなっているだけです」
「大統領は底なしのアホで、副大統領もアホで、火星はクソの塊で、人生もクソの塊で、つまり、おれたちは死の最後の瞬間まで天国を夢見るリンボーの住人なのさ」
1983年 補佐官の職を罷免されたのを機に北海道へ帰郷。以後、農場経営者として穏やかな生活を送る。
2020年 自分が生きてきた証を残したいと思い立ち、回想録『DIFFICULTY : VERY HARD』の執筆を開始。