レビューした作品一覧全37件
文章で読む、映像と音声。
投稿日:2020年1月19日
芝居には芝居の、映画には映画の魅力がある。 小説にも、小説でしか感じ取れない魅力がある。 この作品からは、文章を通して映像や音声を感じることができる。 俳優の科白からではなく、戯曲や脚本に書き込まれた事柄からではなく、 小説として、会話文と地の文で見せる映像、聴かせる音声。 「別れ」というテーマ、雨の降る橋の上というシチュエーション。 これで舞台は整った。文字を通して見るがいい。聴くがいい。
日常の爽やかシュール体験。
投稿日:2019年12月22日 改稿日:2019年12月22日
非日常は、じつは日常の波間のふとしたところにあって、 カモメとなって現れる。 カモメは人と入れ替わり、それでもまだ、日常の喧騒を忘れさせる爽やかな空気がただよう。 なぜか? そこが「お洒落なカフェ」だからだ。 自然の景色を描いているように見えて、人為的な空想が紛れ込んでいる……そんなほどよくシンボリックな文章に、 日常の中の非日常、そのひとときを感じることができます。
レビュー作品 ホットミルク
作品情報
時こえて鳴る、ハーモニ
投稿日:2019年12月21日
オルフェウスの神話と、現代のひとりの女性の物語。 挿入される神話と、どこがどうつながるのか…… ぴたりとかさなるわけではない、神話と女性の物語。 時をこえて、人をまたいで、ふっと交錯する…… 琴線がゆれる…… その和音が、心地いい。 感動のヒューマンドラマ、そして、ミステリ。 神話好きもそうじゃない読者も楽しめる、優しい景色に彩られた、愛と和の物語です。
つづきはいらない(  ̄▽ ̄)
投稿日:2019年10月18日 改稿日:2019年10月18日
不良女子中学生がひょんなことから「先生」を得て、高校受験に成功するヒューマンドラマ……と、高校入学の日に異世界に召喚されて「聖女」として旅立つことになってしまった話……のセット。 ひとつの短編でふたつの味、お得です。 どちらも過程の話ですね。 高校生活も、異世界での冒険も描かれてはいません。過程だけでキャラクターやドラマを見せ、楽しませる。これ、すごいことです。 高校生活はそれなりにおもしろくなりそうですが、異世界での話のつづきは要らないでしょう。 なぜって…… 最強☆薫ちゃんの無双以外の展開なんてありえないですから(  ̄▽ ̄)
冒頭、リーフィーシードラゴンにしびれた。 待って、いきなり離陸ですか、リリックですかこれは。 読者のみなさん、ご安心を。短い中にたっぷりとガイドが詰まっております、放り出されることはありません。 上質なヒューマンドラマもございますが、ちょっと窓の外をご覧ください、お魚の美術館ですよ。フィッシュストーリーだなんて言わないで、ほらちょっと目を向けてご覧なさいな。 空想は海にとどまらず、その名のとおり空へいづ…… ということで、快適な空の旅をお楽しみください。
あるものを、「ある」と認めるのは大切なこと。 それの否定からは、ポジティブは生まれない。 認識された違和感に即対処するもよし、とりあえず保留するもよし。 なんだけど、はじめから見なかったことにするのは違う。その場のノリで乗りきろうとするのは違う。 ……はずなのに、世の中には間違った対処法が横行しているように思うんです。そして、それをよしとして、時には他人にも奨めようとしてしまっている。 作家の感じた「違和感」は、だれのものでもなく、作家自身の宝物です。気安く奪っていいものじゃないんですね。 ……すごく大切なことが、前向きな姿勢が、わかりやすく記されたエッセイ作品でございます。
おそるべし、裏の語り手
投稿日:2019年5月25日
ほんとは、このレビューを読む前にまっさらな状態で作品を読んでもらったほうがいいのかもしれませんが…… 小学生の娘を持った母親の苦悩のお話。 そして、この作品の語り手は、主人公である母親。 ……なんだけど、じつはその裏にほんとうの語り手がいて、冷たい眼差しが潜んでいることに、あなたはどこで気がつくだろうか…… 称賛も嫌悪もせず、客観的な視点で親子を見つめる作家の眼差しが浮かびます。
「ホラーである」ということを念頭に置かなければ、この作品は甘美な恋愛悲劇であり、情熱と栄光の物語なのです。 自分が女王に即位することによって、愛する夫ギルフォードを死に至らしめてしまったジェーン。そんな彼女に訪れた、人生をやり直すチャンス。 過去に戻って、運命を変えることができる…… 彼女の選択は甘美であり、人間味にあふれていて、切ないながらも温かであり…… 素直に受け取ると、これはヒューマンドラマであって、純情ラブストーリーなのです。 しかし……、 この物語を「ホラー」と定義することによって、見方が変わる…… 作品の本文がまるっきり同じであっても、たったひとつの定義だけで……、 情熱という病、その浅ましさを冷静に見つめた、皮肉に満ちた内容に……、 生まれ変わるのです……。
まるでファンタジーのような
投稿日:2019年3月18日
だれかをおもう心って、「思う」よりも、「想う」なのかもしれません。 意思ではなく、想念で、 本人ですらその正体に気づかない、ぼんやりと浮かんだ「想い」……それを相手に伝えるのは困難で。 夢とうつつとの狭間にあって、意図せず口をついた信実の言葉が、優しいイタズラっ子が運んでいくように、想いを伝える媒介となって…… 不思議なことはなにも起こらないけれど、不思議なお話です。
レビュー作品 十五分間
作品情報
日常のリアルな感情を描いた私小説のような雰囲気の作品です。 結婚して幸せな家庭をもった、語り手の女性。 でも、楽しかったのは、幸せをつかむ前の社会人だったころで。 そんな、日常のリアルな思考が、彼女を歪んだファンタジーの世界へと連れていく…… 安易なハッピーエンドにならないところが、同じような感情を抱く読者にとっては救いなのだと思う。 それは、「共感」という意味で。 共感することによる、「感動」という意味で。 シチュエーションが違ったとしても、 また、苦悩の度合いが違ったとしても、 忙しない現代を生きるすべての人へ、 私はこの作品を通じて、エールをおくりたい……
感想欄あるあるですね。 なろうにはなろうの、独特の空気というかそういうのがあるから、 そのあるあるをどう捉えるかは人それぞれだけど、 「それって普通?」 っていう疑問を持つことは大事なんだと思います。 そんな、慣れっこになっている現象を改めて考えるきっかけになる……かもしれないつぶやきエッセイ。 で、私が重要なことだと思うのは、 欲しいから書く、は違うんじゃないの……という主張。 それが正しいかどうかではなく、 それが当たり前だと思って疑わない人たちに、 考えるきっかけになってほしいなー……なんて思います。
和製ヒッチコック! ……とでももうしましょうか。 サスペンスではなく、ホラーなんですけど。 前半は人物と場所、状況の提示。あと、伏線。……怖がりの彼氏さんと、からかい好きの彼女さん。山奥で自動車を停めて会話してます。ほのぼのしてます。 で、後半。いよいよホラーです。和風のじわじわくるやつかと思いきや、一気にドガッ……でした。 この急展開……落差にドガッ。じつは前半に張られた伏線が、ここで回収されていくというある意味で構築された物語でもあるのですが、そんな仕掛けもこのドガッという衝撃、スリルの邪魔にはけっしてなりませんよ。 ……ええ、ぜひね、 前半思いっきりほのぼの楽しんでもらって、その代償……後半のドガッ、味わってもらえればと思います。
レビュー作品 小さな橋
作品情報
力強いメッセージをのせて
投稿日:2018年11月16日
不定形のものを、まるで形あるもののように それが人工物ということを忘れてしまい 無添加の自然と思いこむ 乳化剤に引きあわされたチーズ 強力な浸透圧にだまされなければついていけない ついていくための本能 自家製の道具をもってかくはんする 回転寿司のように流して、人を誘う 天然物のように、するすると喉越しよく 引っかけてしまえば血が出るから  ―― 誰が決めたか知らぬ、そういう布に包まれた世間に対する皮肉なメッセージを、ことばのリズムにのせて。
『漂泊の夜』、はじめて登場する「私」
投稿日:2018年11月9日 改稿日:2018年11月9日
夜の闇、孤独、倦怠をテーマにした詩の作品集。 作品集といえども、それぞれの詩を読むというより、全体でひとつの流れになっているので順に読んでもらいたい。 レビュータイトルに書いた『漂泊の夜』、このタイトルの詩が、作品を読むうえでのひとつのターニングポイントではないだろうか。 文語的な言葉、堅い表現の多い詩のなかで、私はこの詩が妙に柔らかく、それゆえの切なさ、感動があるように感じた。 それは、「私」という単語のせいかもしれない。 この詩集のなかで、一人称は「自分」「我」「己」などだが、この詩を契機に以降四度ほど「私」という人称が登場する。 言葉でうまく説明できるものではないが、この人称が繊細な詩の世界に与える影響は特筆すべきものだろう。 ってことで、オススメです^^
この作品、キーワードを見て興味をひかれるってかた、多いのではないでしょうか。 「ほのぼの」と「ディストピア」の共存作品、しかも読むのにお手頃な短編ときては、これはあなた、読まないわけにはまいりますまい。 なぜこの共存が成り立つか。 それはまあ、地球人の視点と異星人の視点というふたつがあるから……ともいえるのですが、もっといってしまえば、"ユーモアあふれる作者さんのコメディ的な客観視点があるから"これなんですよ、あなた。 いやこの作者さん、こういったブラックコメディがお得意でしてね、今作は、それが顕著に現れている作品でありました。
この手の童話を読むと、不思議な感覚になります。 大人向けの小説と違い、細かな描写があるわけではないけれど、 シンプルに、でもはっきりと、童話的なファンタジーの世界観が描かれていて、その世界にひきこまれるという…… たぶん、童話特有の優しい柔らかい語り口と、混じり気のない描き方によって、かえって深みが増すのかな……とも。 あたたかい、夢のような心地になれる童話です。 お疲れの方々、読んで、ひたっていかれては?
レビュー作品 僕の帰る場所
作品情報
「吸い込まれて、圧縮されて、解放されて、緩んで、それからバラバラになって、拡散して。」(本文より) こういうような、数々の詩的なことばによって「僕」の侵された内面が描かれます。 それはけっして、はっきりと肯《うなず》けるような綺麗なものではなくて…… なのに爽やかで、愛おしい。 屋上や青い空といった青春ものの王道ともいえるシチュエーションが、詩的な内面描写とちょうどいい具合に溶けあって、爽やかな青春ストーリーを彩ります。 空からはじまって空へと消えていく、 そんな、夢のような青春の一コマを、私たち読者はぼんやりと、愛情のこもった目で眺めることになるのです。
夢のなかに、たしかな魚。
投稿日:2018年6月14日
まるで夢、幻視、空想…… そんなアクアリウム、美の世界のなかに、 あるのはたしかな魚たち。 美しさを追いもとめ、夢に酔う、 けれどもそこには魚があって、ゆめうつつのなかに、詩人はただよう。 繊細な孤独と、アクアリウムの空想とを、魚という存在が、つなぐ。―― ……みたいな、カッコつけた宣伝文句をこしらえたくなるような、うっとりしてしまう散文詩集です。 そこのあなたさまも、ちょっぴりひたっていかれませんか?
レビュー作品 水中魚花園
作品情報
呪いの言葉へ、軽快な皮肉。
投稿日:2018年4月20日
前の方のレビューで踏み込まれていないところへ、あえて踏み込んでみます。 この作品、かなり深刻なものを扱っているにもかかわらず、同じフレーズの繰り返しによるおかしみの配合された、軽快な皮肉になっています。 なぜ、真剣なトーンで語らないのか。それは、 「実はさ……」と語られるより、「あ、そうそう……」と語られたほうが、人は耳を傾けるからです。 真剣に伝えたいことこそ、軽く茶化して表現する。そうすることで、強力な風刺になるのです。 この作品のラストを読んだあなたは、きっと「ははは」と笑うでしょう。でもそのあとに、ゆっくりと口角が下がってくる。 最後から二番目の連の言葉が、あなたの耳に残るはずです……
きっと作者さんは、丁寧に、この小学生の女の子に寄り添って書かれたのですね。 リアリティってよくわからないっていう書き手さんは、ぜひこの作品に触れてほしい。たぶんこれ、ほとんどすべてがつまってるんじゃないかなと思うのです。 動機づけがしっかりなされているということ、 その動機が、人物の性質……特に年齢……に合ったものであること。 タイトルになっているコンサートだけでなく、学校生活についても少し描写することで、人物がよりくっきりとしてくる。 ……シンプルに見えて、その実じっくりと、じんわりと愛情の注ぎ込まれた丁寧な作品です。 ですよね、作者さま♪
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