一言でいうなら「惚れた」、この言葉に尽きるだろう。天下の傾奇者こと前田慶次郎利益がいるのだ。腕っぷしが強い?偉丈夫?確かにそれは要素として魅力の一つとは言える。しかし、そんな些細な事ではないのだ。在り方に、存在に、生き様に、男が男に惚れ女も男に惚れる、原作「一夢庵風流記」の彼が確かにいるのだ。時代物としての風味を損なわず恋姫をブレンドした結果(というより慶次が恋姫の世界に入り込む訳だが)、本格的な歴史小説には向かないが、それでも慶次郎を中心に影響を受けた恋姫原作の人物達の成長と葛藤を描き、対立を図る構図は何一つ損なわず各々の立場を魅せた。その、隆慶一郎氏の作風を彷彿させる展開はファンなら間違いなくお勧めできる一作。恋姫の人物も心の機微という意味ではより人間性を増しているので、情緒的に愉しめる辺りは見事としかいいようがない。