レビューした作品一覧全3件
 呪いによって引き裂かれた魔女と男の悲恋。  厚みのある世界設定。  歴史映画さながらの交渉に裏打ちされた戦闘シーン!  我名作を掘り当てり!  魔女と少年は、ある呪いによって引き裂かれた男女。  毎日会っていながら、永遠に会えない運命の二人(ネタバレになるので詳しくは本編へ)。  穏やかな日常の中に、それでもお互いを愛おしむ様子が緻密に描かれ、これだけでも素敵な小説だ。  しかし日常は終わりを告げ、魔女は古の契約のせいで、騎士たちと協力して飛竜との戦うことを余儀なくされる。  絶大な力を持つ魔女ですら竜と戦うのは一苦労、騎士たちは攻城兵器まで持ち出して竜と戦う。  よく取材され、練り上げられた圧巻の描写で描かれる戦闘シーン!  思わず感情移入して、騎士の一人として魔女と少年を応援してしている気分になれる。  この物語のクライマックスとエンディングは、ぜひ多くの人に読んでほしい。
妖精と心を通わせる人間のお話…… ……ですが、人間の方は純粋無垢な少年でも、夢見る少女でもなく、人と付き合うのを嫌う、リタイアした老紳士。 妖精のヒメとは言葉も通じません。 ヒメとの毎日は、穏やかでありながら、セイにとって(そして読者にとっても)好奇心をくすぐられ、ワクワクするものです。 文体は観察日記のようでもあり、未知の生物の生態を追っていくという点では、ファーブル昆虫記のようでもあります。 心を通わせる対象を少しずつ理解していくという点では、育児日記のようでもあります。 冒険や恋愛のドキドキはないけれどーーそう、センスオブワンダーがあります。 妖精ってどんな服を着ていて、どうやって作っているの? 妖精が人間と暮らすにはどうしたらいいの? なるほど、そうなのか……次は何を読ませてくれるんだろう。 この二人の毎日をずっと見ていたい、そう思わせる作品です。
アイデンティティが大きなテーマになっている作品です。 可愛らしい妖精の設定とは裏腹に、物語はお菓子のように甘くはありません。ちょっとビターな味がします。 私が私であるとはどういう事か、貴方が貴方であるとはどういう事かを、妖精同士の種族の差異として突きつけられます。 七日しか生きられない妖精たちのアイデンティティーーメンタリティは、主人公であるお菓子の妖精とは違いすぎます。 「共感を求めているわけではありません。ただ、理解してもらえれば結構ですから」 という七日妖精のセリフがありますが、主人公にとってはその理解すら追いつかない、それほどの差が彼らの間にはあります。 ところが同じ種族の中でも考え方の違いがあることを主人公は知り、主人公と共に読者も揺さぶられます。 答えの出ない問題だからこそ、考え続けなければならない。そう思わせてくれる作品です。