レビューした作品一覧全7件
火事と喧嘩は江戸の花―― かつてそんな言葉が生まれるほどに火事が多かった江戸の町。 中でも今作は、三大火事の1つと言われる「目黒行人坂の大火」を舞台にした、一町民の一コマです。 主人公は火消しの八郎兵衛。 後輩に尊敬されるほど仕事ができるのに、お酒と女房にはてんで弱い。 そんな彼が楽しくお酒を飲んでいた晩に事件は起こります。 向こうの空に見える煙。それは我が家の方向に間違いありません。 妻子の無事を祈って走る八郎兵衛。 4000文字程度の掌編でありながら、これは実際にあったかもしれない。そんなことを思わせる、生き生きとしたキャラ達が心に残る時代小説です。
梓は小さいころ当たり前に一緒に過ごしていた幼馴染の女の子。 ずっと一緒で、だからこそ思春期の恥ずかしさで距離を置いてしまい、高校卒業式の前日になって「好きだったんだ」と気づいた潤。 卒業式の直後に遠くに行ってしまう彼女を引き留めたい。気持ちを伝えたい。 刻々とリミットが迫る中、彼が起こした行動とは……? ドラマのようにうまくいかなくて、もどかしくて、愛しくて切ない。 これはあなたのクラスの中にもあったかもしれない、あなた自身だったかもしれない、そんなごく普通の物語です。
火の国に滅ぼされた水の国の王女であり、水神の加護を受ける巫女フェン。彼女は男の姿で火の国の騎士団に入り、銀の騎士と呼ばれています。 ある日彼女は、報奨金目当てで第二王太子・アッシュに仕えることに。 フェンは凛々しい騎士の顔の裏で、誰よりも優しく、誰の心にも寄り添おうと考える女の子です。 そう。本当なら憎いはずの第二王太子の心にさえ寄り添おうとするほどに。 一方かたくなになった心を持ちながら、フェンの正体を知り、彼女を守りたいと思うアッシュ。 最初は反発しあいながらも徐々に惹かれあう二人は、複雑に絡み合う陰謀に巻き込まれて行きます。 二人の心の奥底に共通するもの。 そして、このタイトルの意味するものは――。 それはぜひ、ご自身の目でお確かめください。 男装の騎士・戦記・陰謀・王宮・巫女姫。 そしてジレジレな恋。 これらの単語が刺さる方、絶対読んで損はないですよ。
自動車がまだ珍しいころの、架空の欧米風の国の物語です。 国軍大佐である父親がある秘密を知ってしまったため、一人娘であるシェリルは人質として、初対面の青年軍人と形だけの結婚をすることになってしまいます。 外に出ても見張られる窮屈な日々。 それでもシェリルは「譲れないもの」のために頑張ります。 タイトルが示す「ドリームガーデン」とはいったい――。 おとなしく見えて、実は相当肝っ玉の据わったヒロイン。 熊のような見た目でじつは……な父親。 そして、冷たく見えていた青年軍人の真実。 たった6話なのに濃厚でしっかりまとめられ、時間をおいて何度も読みたくなります。 各登場人物の思いやりが愛おしい、優しく素敵な物語です。
物語の舞台を歩いてみたくなる
投稿日:2019年5月13日
同棲していた社内恋愛の彼氏に振られ、発作的に会社に辞表を出した美雪。 これは、そんな短慮でヒステリーともとれる行動から始まる物語です。 美雪が新しく見つけた仕事は、同じ不動産業なのに全然違っていました。 新しい職場、新しい仕事、新しい人たちとの出会い。 仕事のモチベーションってどこから来るのでしょう。 そのまま結婚していたら決して見ることのなかった世界で、美雪は仲間たちに刺激を受けながら、自分らしく輝くために頑張りはじめます。 地方から東京に出てきた1人の女性の成長と、新しい恋の物語に加え、都内のあちこちの描写が楽しいのも特徴です。 個人的に、もし本屋さんにこれが文庫本で置いてあったら絶対手に取るし、買うなと思った作品です。 そして本を片手に、物語の舞台になった場所を歩いてみたら楽しいだろうな。
そいつは月夜の晩に現れる。 見た目はよれよれのカンガルーの着ぐるみらしく、もしかしたら複数いるらしい。 「アキカン、フソクチュウ」 そいつのなぞの呟きは何を表しているのか。 ★★★ 特に意味はないお話らしいですが、その分、ついつい色々な意味を考えてしまい、その想像の余地がとても楽しいです。 その不思議なカンガルーもどきは、都内のいたるところで目撃されているとか。 月夜の晩、そのうち地方でも出現し始めるかも? ほら、あなたの町にも……(ホラーではありません)。
二十歳になったらタイムカプセルを掘り起こそう! 小学六年生の時に交わした約束を果たしに集まった同級生の遥、光、草太、麻衣、美里、圭介の六人。 懐かしい話に花を咲かせるも、なぜか光は遥のことだけ覚えておらず……。 お互いが初恋の相手のはずの遥と光。 なぜ私の事だけ忘れてしまったの? 忘れないでねと言ったのは君なのに、忘れてしまったのはなぜ? 切ない余韻を残す初恋の物語です。