レビューした作品一覧全7件
歴史上、暗君と評される君主と名君と賞賛される君主との違いは何なのであろうか? 主人公は、フランス革命前夜を思わせる異世界の王国、サンテネリ王国の若き君主グロワス13世として転生する。 しかし、現代社会で苦悩と諦観故に命を絶った主人公は、転生してもその苦悩と諦観から逃れることは出来なかった。 彼を巡る人々の、そして派閥の利害が絡み合い、国家運営は複雑を極める。 主人公は君主として、それらに向き合わざるを得ない。 確かに主人公は、快刀乱麻を断つがごとき明快さで国を立て直すことは出来ていない。 主人公も、自分の無力感を痛感している。 しかし、彼を優れた王だと思う者も王国には確かに存在するのだ。 一度は命を絶った彼が懸命に生き、そして残そうとしたものの軌跡が、ここにはある。 果たして彼はいかなる評価を下されるべき君主であったのか。 それは、あなた自身がこの物語を読み、判断してもらいたい。
我々の世界ではその後、不滅の栄光を打ち立てることになる英雄ナポレオンとその配下の伝説的な兵士たち。 だが1798年、英雄はその英雄たるの階段を上り始めた直後、異世界へと迷い込む。 エジプト遠征の途上にある、配下の兵約3万と共に。 そこで出会ったのは、「草長の国」の女王クルーミル。 自らの国を取り戻そうとする彼女と共に、ナポレオンは異世界で英雄としての道を歩み始める。 個性豊かな登場人物たち、綿密な調査に基づく軍事描写、そして深い考察に基づいたナポレオンの人物像。 異世界へと漂着したナポレオンは、まだ我々の世界のような栄光と栄華を極めてはいない。 コルシカ島出身の若き才能が、その出自故に苦悩しつつ、そして野望を抱きつつ、何かを掴み取ろうと必死に手を伸していた時期である。 だからこそ、読者はその征く道の先でこの英雄となるべき人物が何を掴み取ることになるのか、見届けてみたくなるのだ。
本作は、異世界戦記に分類される小説である。 作者様の軍事、特に兵站に関する知識が余すところなく活かされ、その描写は他の異世界戦記小説の追随を許さない。 しかし、本作は決してそれだけの作品ではない。 兵站の描写をどれほど緻密に描こうとも、その根底にある作中世界の世界観がしっかりしていなければ物語としての深みは生まれない。 自然の描写、都市の描写、市場の描写。 どれもが非常に作り込まれ、読者も一人の観光客のようにオルクセン王国の様子を見学しているような気になってくるのだ。 まるで登場人物たちの息遣いが聞こえてくるほどにその情景描写は鮮やかである。 そして、転生者の存在を匂わせる、神話と現実が混ざり合ったかのような世界の成り立ち。 複雑な国際関係を生み出すに至った、魔族と人族の歴史。 これを読む人たちには、是非とも軍事面だけでなく作品の世界観そのものも楽しんでもらいたい。
 商船改造の特設空母は、海軍にとって縁の下の力持ちだ。  たとえ海戦で華々しい戦果を挙げられずとも、航空機輸送や船団護衛といった任務で戦争を支えている。  だが、時に商船改造空母は思わぬ形で活躍することもある。  史実世界における空母「隼鷹」などは、正規空母に負けぬほど華々しい活躍を残した艦である。  では、この空母「天鷹」はどうだろうか?  個性豊かだが、海軍きっての問題児ばかりが集められた艦。だが、彼らの技量は正規空母に勝るとも劣らない。  だけれとも、どの作戦でも「天鷹」は脇役扱いされてしまう。  それなのに、彼女とその乗員たちが挙げる戦果は、どれも連合軍やその首脳陣にとって頭痛の種となるものばかり。  味方からの評価は芳しくないのに、敵からの評価はどんどん上がっていく。  これは、そんなちぐはぐさが魅力の空母「天鷹」とその乗員たちの物語。
 本作の魅力は、何と言っても個性的な登場人物たちと、彼らが繰り広げる機知に富んだ遣り取りです。  個性的なのは「あらすじ」に登場する少女・アーデルハイドだけではありません。主人公・五六渓も、彼のバイト仲間である「ソ連」と渾名される少女も、その他の登場人物たちも、誰も彼もが個性的でブッ飛んでいる上に、交わされる会話がとても面白い。  アニメネタから歴史ネタ、エスニックジョーク、さらには共産趣味者ネタまで、ありとあらゆるネタが会話の中に散りばめられています。  評者一番のお気に入りネタは、これ。 「ごめんで済んだら内務人民委員部は要らねえんですよ! 粛清しますよ!?」  そして、コメディに終始するだけでなく、思わずにやにやと微笑んでしまう、互いの会話の中に潜む相手への想い。  是非あなたもアーデルハイドたちの会話に笑い、アーデルハイドたちの想いにニヤついてみて下さい。
 本作品は、勇者と魔王の戦いのその後の世界を描いています。  しかし、主人公は勇者ではありません。秘密組織に属していた凄腕エージェントの少年です。  この設定が、まず面白い。  この物語は、そんな過去を持つ主人公が学園生活を営みつつ、様々な問題を解決していく痛快な作品です。  これまで戦いの中で過ごしてきた主人公が、平和な日常を謳歌しようとする。しかし魔王討伐が終わっても、人間社会は平穏ではありません。  そうした中で、主人公は平穏を求めて再び戦いに身を投じるという皮肉な状況に置かれていきます。  彼の周りにいる人物たちにもそれぞれの過去・事情があり、それらが絡み合いながら日常を演出していく。  友人たちとの交流と、平穏を守るための戦い。  相矛盾する状況の中で、主人公とその友人たちがどのような成長を遂げていくのか、今後の展開に目が離せない作品です。
 巷間で流布している戦史系歴史改変小説とは違う、医学系歴史改変小説が本作の魅力です。  この新たな切り口により、歴史というものの持っていた可能性を改めて読者に実感させてくれる、新時代の歴史改変小説といえるでしょう。  そして、改変の対象となっている時代は、大日本帝国憲法発布前の明治日本。  これまでの歴史改変小説の多くが昭和期を対象としているのに対し、この作品は明治中期をその対象とすることで、歴史改変小説の新たな可能性を示したといえます。  作者様は、非常に豊富な歴史知識と医学知識をお持ちの方です。  だからこそ物語は活き活きとしており、登場する歴史上の人物たちも、教科書的ではなく、一人一人が丁寧に描き込まれています。  転生した主人公も、現代知識に慢心することなく、逆に現代知識を有しながら明治時代を生きる一人の人間としての苦悩が描かれ、主人公の今後の成長にも目が離せません。