彼女との交際を始めて半年。幸せを満喫していた主人公・駆の前に、見知らぬ少女が現れる。記憶を失いながらも、なぜか駆の名前だけは覚えていた少女。
この日を境に、運命の歯車が軋み始める。ときに迷い、傷つきながら、彼が見出した答えとはーー。
純文学からコメディー、ファンタジー、ヒューマンドラマ、SFまで幅広いジャンルに通じる作者ならではの、大人の恋愛小説です。
洗練された筆致と丹念な描写が、読者を作品の世界に引き込みます。駆と経験を共有しているかのような没入感も、大きな魅力です。
出会い、別れ、喜び、悲しみ。全ては、人生という物語のプロットであり、様々な人生が奏でる旋律と重なり響き合って、かけがえのない時間を紡ぐもの。そんなふうに感じさせてくれる作品でした。
今年の春の毎日を豊かに彩ってくれた、珠玉の中編です。丹精を込めた一粒のショコラのように、甘さと苦さが溶け合い、深い余韻を残します。