レビューした作品一覧全3件
不思議とSF感がある
投稿日:2024年12月26日
永遠に動かない体に閉じ込められた意識はどうなるだろうか。ほとんどの人は耐えられないと感じるのではないか。 映画『ジョニーは戦争に行った』で取り上げられた題材であり、また、医療が発展した結果、ALSなどの看護の現場で起きていることでもある。 この作品のヒロインは、祈りの姿勢のまま意識を残して時間を凍結される。そしてその身を嘆かず、己の行いを自省し、淡々とその場を訪れる人々を見つめるようになる。 生前の美しい姿で祈りの姿勢をとったまま静止している彼女を、人々は祈りの対象とするようになり、勝手に懺悔を始める。懺悔の内容を聞いても、彼女は怒りもせず、悲しみもせず、哀れみもしない。 凍結の最中、長い時間をかけて彼女は己の魂を浄化する。そして人々の間で彼女の悪行の記憶は薄れ、祈りの対象となっていく。 悪女から聖女への緩やかな昇華を突き放すような文章で描く愛すべき掌編。
緻密に張られた伏線を味わう
投稿日:2024年10月3日
(ネタバレ) 名人戦の将棋を見ているような複雑に張られた伏線が支えるどんでん返し。それも2度! 文章の質が非常に高いのがこの作者の持ち味。話の運びも、その表現もロジカルですんなり頭に入る。たまに小さな瑕があるとそこがものすごく目立つくらい全体の文章の質が高い。 貴族同士の二人称や会話もすんなり頭に入ってきて、物語に没頭できる。 そして物語を支える精緻な論理と伏線。ヒロインは王の前で余計なことを言わない程度の謙虚さと、王室に揺さぶりをかけて自分の立場を強くする程度の賢さを備えている。 謎が解明され、善き人がハッピーになっていく爽快さがよかった。 ヒロインが単なる賢女ではなく、口に出さない程度に底意地の悪く描かれている点も面白い。
清い行いの裏に隠された思惑
投稿日:2024年9月18日
華やかな貴族社会。親のあてがった婚約者を素直に受け入れ淡い恋心を抱いた令嬢。 好きになった令嬢を紙一重の差で逃してしまった王子。 何一つやましい所のない、潔白な二人に降りかかった突然の出来事。 正しい人たちの黒々とした思いがどろりと零れ落ちる良作。 王族貴族の子女子弟同士の言葉遣いや呼称に違和感だらけの作品がひしめく中、この作品はそのへんがちゃんとしていて気持ちよく読めた。