本作は「ジンニスタン」や「きつねよめ」の作者として知られる二宮酒匂氏が送る『狐と禁呪、恋とおまじないの青春オカルティックファンタジー』である。そう、少なくともあらすじにはそう記されている。しかし、この作品はそれだけで表現しつくせるものではない。
なぜならこの作品は、紛れもない和のファンタジーであり、呪いを生業とする血筋を背景としたホラーであり、少年のひと夏のビルドゥングスロマンであり、可憐で溌剌とした狐っ娘とのボーイミーツガールであり、細部に至るまで周到に組み上げられたミステリであり、のどかな夏休みからふっと闇へと転げ落ちるサスペンスであり、それら全てを高いレベルとバランスでまとめ上げた、極上のエンターテイメントなのだから。
読者として愉しむもよし、作家として作劇のお手本のごとき作品を堪能するもよし。読後の余韻もさわやかな本作は、きっと貴方にとって忘れられない作品になるだろう。