小説というのは作詞とは違い、情景をいちいち説明的に描写せねばならない。そうするといくら叙情的に描きたくても中々ままならない。説明を省き過ぎればポエムになりかねないし、入れすぎても崩れてしまう。だから小説で表す叙情は非常に難しい。この作品はそういう面から見れば秀作とは言い難い。しかし、熟していないとはいえ“叙情的な一つの結末”を見据えて描かれた文章の一つ一つはとても輝いて見える。星をキーワードとした主人公の心の“やりとり”は最後の一文で結ばれ、そしてそれまでの説明くさい経過が一瞬にして叙情にまとまる。これを呆気ないと切ってしまうのも良いだろう。だが少し思考してほしい。小説という文章で描く“美しさ”とは何だろうか? きっとその答えを「私の手の中で星が死んだ」という作品の中で見出だせる読者もいるだろう。