レビューした作品一覧全21件
古より、人の道と何らかの道は交わりを続けてきた。それが顕著になる頃合いを、人は「誰そ彼刻」と名付けたのだったか。 ページを捲るごとにはっとさせられるのは、文字を追っているうちに「間」の領域に跳びそうになっている心で──美しき綴りながらも切迫してくるものの優美さと迫力に、未央という人のなんたるかを知らされる。 例えばセーマンドーマン、史実とはかけ離れれど趣ある物語として記される二者の得手が、今は命の護りとして並んで刺繍されているように──この物語でも様々な歌人の在り方が、ある種独立し、ある種重なり合って描かれている。その多様さと各々の放つ個性に、世界の在り方すら考えさせられる気がしなくもない。 未央たちの時代をも、いつか歴史は歌い出すだろうか──律され研ぎ清まされた力と「言」と、やわらかで独特な「歌」たちの織り成す、動の中の静であった時代があったのだと。 「今」の甘美さを継ぎつつ──。
鉱石に惹かれ、ページを捲る。 描かれていたものはあまりにも透明な人の想い、人の願い。 幾重にも重なりあい絡み合う人間模様の中、次第に解き明かされてゆく真実の欠片たちが、読み手を深い深い洞察へと誘っていく。 物語という枠だけでは括れないであろう本作が語る様々な事象に、読者としても──日常を生きる一個人としても、希望を見出ださずにはいられなくなる。 この物語の彼ら彼女らと、この物語の読み手をはじめすべての人、全てのものたちが、各々何らかの安堵に辿り着くことを願ってやまない。
レビュー作品 鉱石家の人々
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Beautiful!!
投稿日:2019年7月15日
素晴らしい!! この一言に尽きます。 自分自身、創作作品広告をリアルの場でも出してきた身としても、共感する部分がたくさんあります。 こちらに書かれていた可能性の実践には、二つの素晴らしいポイントがあると感じます。 ひとつは、作者様がワクワクできることであること、ドリームがあること。手軽さを度外視して、実現の難儀なことを叶えられたこと。 もうひとつは、読み手の心の奥にある「芯」をゆさぶり、眠っていた可能性をぐんぐん引き出してくれるあけと。それがトゲトゲせず、まろやかであること、しなやかであること。 ──忘れかけていた大切なこと、それを思い出させてくれたこの筆跡に、心からの敬意と感謝を捧げます。 ありがとう。
不意にやってきた空虚の中、漂流するようにこの作品を知り、あらすじにふらりと導かれ、気づけば既に本作の語るところの「円環」の先に居た。 ──抗い難い呪いを身に宿す主人公の一人、ハルの想いは、切なさと儚さと覚悟を伴い、読み手の心に深く深く刻まれてゆく。 周りを呪いに巻き込みたくないという「経験からの離別の決意」と、あたたかな場所と人に囲まれ徐々に解れていく心、一所に留まりすぎて生じる揺らぎ、生まれ来てしまった「小さな願い」。 相反する二つの想いの重なりと「もう一人の主人公」の想いの幾重もの重なり、そして廻る「円環」。 呼応し合う人と人の想いが、情緒豊かに綴られた物語が辿る「物語を超えた先にある何か」は、必見だ。 願わくは、今後の彼らに、心からの安堵と安息を──
歯車は軋む、時を奏でながら。
投稿日:2018年11月24日
それは、純粋な想いが発端となる狂気の音色。 歯車は軋む、時を奏でながら、ゆっくりと。 抗えない血の流れを受けつつも、社交界に立ち、真摯に生きる一族に、集う歪みは容赦なく襲いかかる。 プラリネの甘美な余韻が消えてゆくように、儚さは世界に広がって。 相容れぬものと相容れるもの、世の不条理と世の条理は、欺きの呪によりていびつに交差し──歯車に、爪痕を刻む。 抗えないものは人の集団心理か、人の性か。 今はただ、行方の知れぬ彼らが、安息の地に至ったことを願うばかりだ。
レビュー作品 プラリネ
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ほどかれてゆく心の氷
投稿日:2018年10月16日
凍った記憶がほどかれてゆくような感覚で、読み進められるお話。 自閉症スペクトラムにある彼の精一杯の生き様は、同じ自閉症スペクトラムにある者の心を、掬い上げるかのようにほどいてくれる。 彼の見る世界、ゆっくりながらも知覚してゆく人の感情や心。そこに立ったならきっと、当たり前という意識は一変する──あまりにも速く、この世界は動くから。 音、光、色の洪水の中、彼の手繰るささやかな安堵が、広がることを願うばかり。 葉月さんの「普通」に対するスタンスや、向き合い方へも好感が持てます。全てにおいて普通などなく、あるのは当人の普通、のみ。そんな世界で私達は生きている、のだと。 葉月さんの器の広さに、もしこんな人が周りにいたなら、様々な生きづらさを抱える人たちがどんなにほっとするだろう、どんなに希望が持てるだろうと、少しだけ、彼に妬いてしまう気もする。 彼らの旅路を、そっと見守りたくなります。
想いは人か、天の悪戯か。
投稿日:2018年3月9日
臨場感溢れる描写から始まり、息をつく暇もなく激動の展開へと走り出す物語。 己は何者なのか、何のために生まれたのか問いかける少女へ、容赦ない現実は突き刺さる。やがて彼女は知っていく……選択肢は、多くはないことを。 然れど少女は、前を向く。幾度地に叩きつけられようとも舞い上がる天使の如く、硬質な翼で柔らかな意思を抱いて。 この物語には、お決まりの救いは少ないかもしれない。 そのことがかえって、読者を鮮やかなファンタジーの世界へとぐいぐい引き込んでゆく。 闇が覆うたびひとひらの光が降る、作者の人間愛が籠められた作品。 希望を求める者にも、優しく語りかけてくる。 様々な意思、遺志。心。 それらを宿したものは、すべて人なのだと。 否、人であろうとなかろうと、すべての意思あるものが、意思それなのだと。 命の葛藤を描きながらも、大切な何かを伝えてくれる、読めば読むほど味わい深い良作だ。
想いは求める、安らぎを。
投稿日:2018年3月8日
偶然、見てしまった。読んでしまった。 しかし、レビューを書かずにはいられなかった。 この世に、畳の上で安らかに世を去れる者はどのくらいいるだろう。 この世に、誰にも知られず逝かねばならなかった者は、一体どのくらいいるだろう。 この作品は、とある事実をありのままに伝えていた。無駄な装飾は何一つ為されていない。 それは亡き者たちへの、一番の手向けになっているのではなかろうか。 願わくは、全ての命の安寧を。 願わくは、去った者たちへの、永久の安らぎを。 未だ姿を現さぬ静かな亡骸たちが、一刻も早く見つけてもらえるように、陽の光降り注ぐ場所で、安心できるように。 哀しき魂たちが、新たな魂たちを手繰らぬことをも、強く強く、祈る。 両手の平を合わせて、レビューとさせていただく。
レビュー作品 早く見つけて
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とある任務から始まる物語は、やがて想像を超える遥かな時間へと、読み手を誘う。 繰り返されるは人の業か、天より降った宿命か。 重なり螺旋のように出口なき迷路と化した各々の想いは、小さく見える光に向かい動き出す。 人間の愚かさ、弱さ、芯の強さと揺るぎない優しさが描かれたこの物語には、どんな読み手とて、希望を見ずにはいられないだろう。 壮絶に積み上げられた歴史が辿り着く先を、静かに見守りたくなる作品。迷える道にある人にも、目指す方向を向く人にもご覧いただきたい。 きっと、標を得るはずだ。
読み進めれば進めるほどに、現実というものの不確かさが鮮やかになる。しかしどこまでも謎めいたもうひとつの世界が、不確かゆえの刹那を語る。 作中に描かれるフィジカルとアストラル。折り合わぬようで隣り合わせのふたつの世界は、紐解かれてゆくでもなく、ただその相互性を手渡してくれた。 すれ違う魂たちが辿る行き先、その終着点はまだ見えないが、幾度も幾度も呼び合うソウルは何かを手繰り寄せるように、既に各々の終わりを語る準備をしているかのようだ。そして、それはきっと、はじまりでもあるのだろう。 もしこんなことがあったなら--この作品は、読者に今一度足元を見直すよう促しているようにも思えて。 ただ固唾を飲んで彼らを見守りたいと、願ってしまうのだ--わけもなく、魅入るように。 この世界、今に生まれた奇跡を思わずにはいられなくなるような一作に、感嘆の息を吐いた。
狂いの発露は刹那的な
投稿日:2017年6月17日
しっとりとした余韻を持たせる文体で描かれた本作は、徐々にとある衝動の発露へと導かれるかのようで。それが夢まぼろしと知れどなお、胸中に燻る何か見てはならないような想いを疼かせる。 やがて辿り着く瞬間--作品の終わりに、言い知れぬ何らかの表現が隠されているような気がして、何度か読み返してしまった。 一度読めば狂おしい余韻に浸り、二度読めば語られぬ行間を解き明かしたくなる。緩やかな耽美さを孕んだ良作、ご一読あれ。
レビュー作品 MODEL
作品情報
それは、とてもありふれたもの。 何気なく私たちが使うもの。 --コトノハ。それらには、魂や力が宿ると、古代からいわれている。 この作品には、コトノハの力に翻弄されながらも、ひたむきに模索を続ける一族たちの姿が鮮やかに描かれていた。息を飲むほどに流麗な一音一音が紡ぐ言語の力が次第に色濃くなるストーリーは、コトノハとともに読者をも飲み込むだろう。 時に癒しとなり、時に時代の扇動の火種にもなる人の言葉。すべての根幹たるものを見せつけられるかのような圧倒的な描写力は、筆者に宿るコトノハの力であろうか。 人間の業、闇、そして優しい願い。 想いを孕み流れ行く先に、穏やかな未来を願わずにはいられない。 読めば読むほど酔いしれる美酒のような一作です。
レビュー作品 コトノハ薬局
作品情報
極上のひと時をともに。
投稿日:2017年6月10日
これを記す現在は夏。されど確かに伝わる冬の凛とした空気が、雪を踏みしめた感覚が、読み手を錯覚させるほどの臨場感。 一行一行が語るものはどこか懐かしい、幼き日のようで。 ティーカップを片手に味わえば、より深きを眺められる気がするのは、重ねた年のせいだろうか。ストウブのように灯った少年の淡い想いに、頬が緩んでゆく。 輝いていた時間、人生の、或いは自然の不思議にそっと触れられる、極上の一作です。
息を飲んだ。 それ以外に、どう表現したら良かろうか。 この作品は、読者に休む暇を決して与えはしない。 前方を、左右を確認してなお、背にした壁にさえ安堵出来ないような緊迫感。ふと息を吐こうものなら、次の行の衝撃の展開に足場が落下してしまう。 さて、読者たる私は果たしてページをめくるごとに緊迫感から解放されるのか--否、既に馴染んだこのスリリングな作風には、浸っていたい気さえする。 残酷なまでの非日常の中に時折見える「人間像」が、懐古が、読者の心を緩やかに縛る感覚に、僅かに口角が上がる。どうなるか全く予測のつかないエンドまで、心地よい冷たさに包まれるのだろう。 ハードボイルドな世界観やスリル、ひとしずくの感情や人間味。ミステリ要素もあるこの作品は、迷宮へ挑む者にオススメだ。
考えさせられる言葉たち
投稿日:2017年6月9日
ああ、そうだよね、って。 思わず頷いてしまう、心を浚ってくれる風のような言葉たち。 空さえも見上げられない時も、花の優しささえ味わえない時にも、ここに記された言葉たちは、すっと胸に吹き込んでくれる気がします。 流れるように足早に去る日々に、ふと振り返ってページをめくってみませんか? きっと何かが、目の前のあなたの心に響くはずです。
綿密に組み込まれた世界観と、明かされゆく事実。 読み手を導くスピードは緩やかながら、ページは読み手を捕らえて離さない。 リズミカルな会話に隠されたそれぞれの登場人物の抱える想いが、地の文により鮮やかに吐露される様は圧巻です。 水が大地に染み渡るように自然に読者の心に染み入るストーリーは、登場人物の葛藤を孕みながら、次第に深い場所へと向かうようで--。 普段考えないようにしてきたものやこと、様々な人間社会の現象をも、考えさせられるようなお話。 オススメな一作です。
断り下手さんはどう歩む
投稿日:2017年5月30日
柔らかな語り口で紡がれる文章に、読むペースが徐々に上がって。気付けば、目の前に世界が広がっているようでした。 断るのが苦手な主人公は、それが苦手だからこそ成長の機会を逃さない。 頼りなさげに見えて、登場当初から芯の強さを発揮している主人公の姿に、読み手であるこちらまで勇気を貰います。 しっかりと構築された世界観は読者に安心感を与え、程よく紐解かれる秘密と、生まれ来る懐疑へと自然に視点を置かせてくれて。これから明かされる真実が主人公をどう揺さぶるのかを、見守っていきたくなる物語です。 描写力と物語性のどちらも安定感のある、読み手の心に何かを訴えかけてくるストーリーは必見です。
忘れがちな、そばにあるもの。
投稿日:2017年5月27日
早歩きをしていると見えなくなるもの、そばにあるもの。ふと立ち止まって見上げた空は、どんな色をしていますか? と、そんな言葉を語りたくなるような、「懐しい」エッセイ。 風が運ぶあの日の時間。雨が降れば香る、自然のアロマ。大地に立っているだけでもうそばにある「それ」は、大人になると少しばかり遠ざかるものかもしれません。 今一度、心の中で眠る五感に会いたいと思った、素敵な文章です。
歴史の知り得ぬ物語
投稿日:2013年3月12日
一気に読んで目頭があつくなりました。 現代と遥か古の邂逅がもたらした小さな奇跡の種が芽吹く日は、きっと遠からず…カイを受けとったフィルとサマンチャミンを受けとったロドリゲスのタッグでいつか歴史が語らなかった「絆の物語」が語られるのだろうな、と、じんわり思います。 巫女、ソルエが遺したかった「もの」は確かに遺され、これからも語り継がれてゆくのでしょう。 まるでその場にいるかのような体感を味わえる物語、オススメです。
キラーオブクイーンを拝読してまず最初に思ったのは、まるでその場にいるかのような錯覚。 緻密な描写はレオンとレナに迫るクリーチャーたちの吐息までも読み手に伝えて。 コートの火山に向かう二人の疾走感と臨場感、心臓がバクバクいうような切迫感にただただ圧巻です。 ストーリーとしても今後が気になるところ。 火山での部隊の合流と、その先に起こるであろう緊張感のないやり取りを想像すると頬が緩みます。 今後もスリル満点なお話を期待します。
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