レビューした作品一覧全11件
人と自然との関わりを描いた壮大なる叙事詩
投稿日:2017年8月1日 改稿日:2017年8月1日
 シベリア風の世界を舞台に、異なる文化・価値観を持つ二つの民族が出会い、衝突し、どうしようもない状況に陥りながらも、それでもより良き未来を求めて足掻く人々の物語です。  森を敬い、森を構成する一員として大自然に寄り添うようにして生きる森の民に対して、比較的温暖な南方出身の、森を切り拓き大地を耕し、大自然をも征服しようとする開拓者達。王の使者として少し遅れて開拓団に合流したマシゥは、森の民の狩人ビーヴァと親交を結び、彼らの生きざまを理解してゆく……のです、が。  丁寧な筆致が、人々の生活や文化、信仰をあますところなく描き出すと同時に、血なまぐさい民族間の対立を容赦なく眼前に突きつけてくれます。寒冷地の厳しくも豊かな森の景色も、まるで目に見えるよう。  深い知識に裏打ちされた、読み応え抜群のシャーマニズム・ファンタジーです。
レビュー作品 EARTH FANG
作品情報
 故郷の地に眠っていた呪いをその身に引き受けて生まれた少年ロクドと、あまり他人と深く関わろうとしない魔術師カレドアが、ひょんなことから結んだ師弟の縁。光纏う不思議な少女との邂逅を経て、そこにもう一組の魔術師師弟の軌跡が重なり、やがて呪いの謎は、五百年前に葬り去られた悲劇を炙り出す。  瘴気の大平原、光の神の加護を受け何百年と回り続ける風車、ひたひたと近づいてくる恐るべき奇病、悲劇、そして破滅。  物語そのものもとても好みですが、それを支える世界観にも興味を惹かれました。カレドアが魔術についてロクドに語る場面の、なんとわくわくすることか!  それに加えて、登場人物達がまた魅力的で。師弟コンビのなんとなく血圧低めな関係は言わずもがな、例の魔術師の兄弟弟子コンビのバディっぷりにも心臓を射抜かれました。  光と闇がせめぎ合う、読み応えたっぷりの正統派ファンタジーです。
〈悪魔の音楽〉を奏でるというジャズバンド・オーリム。 機会を得てオーリムの末席に加わることになった伊達は、彼らの音楽への情熱にあてられながら、才能を開花させてゆく……のだが。 時に激しく、時にひそやかに、端正に、狂おしく、恍惚と歓喜の声を上げる楽の音。ひたひたと足元に忍び寄る不穏な気配。「全ては音楽のために」との囁きとともに伊達に突きつけられた、恐るべき選択肢。 バンドメンバーの過去を、オーリムの真実を知った伊達が、おのれの道を見出し、真っ直ぐに進んでいく姿に胸が熱くなりました。 物語そのものにも心が惹かれましたが、それと同じぐらい文章にも心を揺り動かされました。 まるで本当に音が聞こえてきそうな演奏の描写。音を読み手の脳内に呼び覚ますように描き出すばかりか、音楽に対する想いや思想をも含めた「音」の一切合財を、これでもか、と読み手に突きつけてくるがごとき文章は、鳥肌ものです。
レビュー作品 白痴のダンテ
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 一度は滅びかけた「人間」が再び甦りつつある世界、「機械」の領域に立つ「脊柱」という名の塔に挑む少年と少女の物語です。 「精神」を持ち得ないがゆえに「精神」を持つ人間に執着し、「精神」を奪い取る「機械」達。「精神」を奪われた「人間」は、不可解なちからで肌を剥ぎ取られて死んでゆく。  そんな理不尽で恐ろしい敵でしかなかった「機械」ですが、謎が明かされてゆくにつれ、恐怖はその矛先を変え、容赦のない現実がじわじわと腹の底を冷やしてゆきます。  精神とは、意思とは何なのか。何が人間を人間たらしめるのか。  砂嵐の中にそびえ立つ、緩やかなS字を描いて天と地を繋ぐ塔、の映像がとにかく印象的です。  センスオブワンダー、たっぷりと堪能させていただきました!
レビュー作品 王たちの機械
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 師である西の大魔女を追って旅に出た、「愛弟子」ルンペルシュティルツヒェン、通称ペル。  名に縛られ、役目に縛られ、一心に師を追い求めるばかりのペルが、色んな人々の「依頼」に触れるうちに、少しずつ人の想いを、そして自分の想いを知ってゆく。そのたどたどしい足取りを、応援せずにはいられません。  旅の道連れとなった東の大魔女ゴルテンとの、どこか危なっかしいやりとりにも、目を引き付けられました。  貴石のちからを持つ「魔女」、愛弟子の元に届けられる「依頼」、読み取られる運命の縮図、道を踏み外した「闇」、そして――「世界」の秘密。  幻想的な物語に加えて、肌で感じるがごとき魔法の描写がたまりません。  人々の生活感あふれる町々の様子も読み応えたっぷりです。
レビュー作品 魔女の愛弟子
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少女に愛を、語り部に喝采を
投稿日:2016年12月1日
恐怖と絶望に蹂躙された少女は、狂気を供に魔の森へと迷い込む。 「語り部」の穏やかな語り口とは裏腹に、物語の始まりはあまりにも衝撃的です。控えめな描写にもかかわらず、なまじ文章が流麗なだけに、おぞましい出来事はするすると脳内に注ぎ込まれ、脳裏に結ばれる情景は目を背けてしまいたくなるほど。 ですが、仄かな明かりがひとつ、ふたつ、と地下迷宮の中に灯り始めるにつれ、みるみるこの物語の虜となってしまいました。 闇は光に、不幸は幸せに、恐怖は愛に。白虎や山羊頭といった魔物達が本当に素敵で。いわゆる冒険者として相対したらば、死ぬほど恐ろしい敵のはずなのに。 人間と魔物、異なる二つの価値観のはざまで穏やかな日々を送る「雑種の少女」の可愛いこと。 やがて運命の歯車が軋みながら回り、物語は容赦なく終焉を迎え、そうして気づくのです。誰もが――読者であるはずの自分さえもが――物語の登場人物となっていたことに。
 物語好き、本好きならば、喰いつかずにはいられない、ストーリーテリングという魔法。その威力たるや、物語の外側にいるはずの我々読み手すら、虜にしてしまうほど。複数の時間軸を自在に行き来する語りに、心地よく踊らされます。  少女の姿に身をやつした火竜と、その「親友」である比類なき語り部の、絆の深さに何度も泣かされたかと思えば、因縁の宿敵「左利き」のアンビバレンスに萌えいやむしろ燃え、「相棒」の空気を読まないハイテンションっぷりに癒やされ(ええ、大いに癒やされ)、そして何より端正な文章そのものにも酔いしれました。 『それでは、説話を司る神の忘れられた御名において――はじめましょう。』  胸の奥の本棚に大切に並べるだけでなく、何度も噛み締めるように読み返したい物語です。
 地球外惑星への移民、超能力者、そして冒頭から天地《あめつち》を揺るがす流星の災禍。実にSFらしい超現実的な世界を舞台に描かれているのは、しっかりと地に足をつけた人々の姿です。  三百年に亘って、ちから持たざる者と隔絶して暮らしてきた孤島コラム・ソルの住民達の、独自の価値観や暮らしぶりにとても興味が惹かれました。同時に、そこから足を踏み出そうとする少年サッタールの姿にも。  幾つもの思惑が入り乱れる中、サッタールに忍び寄る魔の手とは。ちからの有無は勿論、歴史や文化、立場の違いを超えて、彼らは互いを受け入れることができるのか。読み応えたっぷりな物語です。
北の大地に咲く花は
投稿日:2015年9月19日
 ファンタジーはファンタジーでも、魔法などの超常的なものは殆ど出てこない、どちらかといえば架空の国を舞台とした、ヒストリカル・ロマンスに近い物語です。  数奇な運命に翻弄された者と、凄惨な過去を背負った者が、出会い、心を通わせてゆく様子を縦糸に、人々の生きざまや隣国との戦争が織り込まれて、見事なタペストリーを作り上げています。北の大地とそこに暮らす人々の様子が筆致豊かに描かれていて、物語世界そのものにも引き込まれました。  個人的に、歳の差ロマンスの他、主従関係とか、暑苦しい男の友情とか、手に汗握る剣戟とか、萌えドコロいっぱいです。
行きつけのカフェのような物語
投稿日:2015年9月19日 改稿日:2022年5月2日
 軍人で先輩遭難者の「フライディ」と、高校生の「ロビン」。運命的な出会いを経てバディとなった二人と、彼らを取り巻く愛すべき人々の物語です。  勝気で何事にも真っ直ぐなロビンと、彼女に頭の上がらない(という状況を楽しんでさえいる)フライディのやり取りが楽しくて仕方ありません。  端正でどこか懐かしい、翻訳小説のような文章が描き出す、時に甘々で、時にほろ苦く、そしてここぞという時にピリッとスパイスのきいたラブストーリー。読めば読むほど幸せな気分になれること請け合いです。
一粒で何度もおいしい物語
投稿日:2013年6月21日
「元気で威勢のいい女子」萌えとともに、戦う組織萌え、謎解き萌えのど真ん中を見事に射抜かれてしまいました。とにかく登場人物達が魅力的で、主人公リーファは勿論のこと、彼女に振り回される王達が愛しくて仕方ありません。彼らが繰り出す軽妙なやりとりに、バディ萌えまで刺激される始末です。  そして、生き生きと描かれているのは人物だけではないのです。街角の景色は勿論、辺りを渡る風のにおいさえも紡ぎだすのは、癖の無い、でも味のある文章。するすると頭の中に入り込んできて、読み始めたら止まらなくなること必至です。
レビュー作品 王都警備隊
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