レビューした作品一覧全2件
個人的かつ大雑把な分類なのですが、小説には二つの種類があると思います。 一つ目は出来事の面白さを伝えるお話。二つ目は人間や世界の美しさや、あり方が書かれたお話。 この小説は、なろうでは珍しい後者だと思います。作中で起こった出来事は、端的に書き表せば四行くらいの些細なことです。 世界の危機も、戦いもありません。ですが、その中には時に残酷な世界の中で、それでも生きている人間の心が描かれています。生々しい心が。 そんな小説であるにも関わらず、一人称の瑞々しい筆致のためか、思わず笑ってしまうような会話劇のため、決して読みづらいということはなく、スッと心に沁みてくるようです。 これは仏頂面の少年が少女と出会い、何かを得て、失い、それでも生き続ける大人になるまでの物語。 「鯖の水煮は、飲み物ではありません」、味付け無しの素材の味だから、生臭くて、しょっぱい。 でも、栄養は、抜群。
この小説の登場人物はそれぞれ自分の力ではどうにもならない不幸を抱えていて、それゆえに願っている未来があります。それは世界的な非常事態だとか命に関わる戦いとかではないのですが、普通の高校生よりはちょっと特別なことなので、ただでさえ自分のことを増幅しがちな10代のそれはとても重大なこととして書かれています。  また、小説が主人公の一人称で書かれているため、読んでいてそうした不幸や夢の重大さを主人公と同じように感じることができて、私はちょっと懐かしく思いましたし、リアルに高校生の人が読めば共感できるような気がします。  モンスターも出てこないですし、超能力を使った戦いも出てこないですが、登場人物たちの考えていることや希望を追っていくのが面白い青春物です。  あ、あと人物描写がよくて、登場する美少女キャラも萌え萌えしくはないですが、ちゃんと可愛いので、全体的にオススメです。