この話の一番の魅力は、登場人物の奥行きと世界の分厚さである。
この物語のキャラクターは皆生きている。一人の人間が紡ぎ出した架空の人物だとは信じられないほどに。
世界観の厚みはまさに、世界の観方だ。その立体感は、文字によって編まれた世界だとは思えないほどに。
本当に真摯に、丁寧に紡がれたのだろうと容易に想像できる質の高さ。言葉一つ、読点一つ、漢字か平仮名か──すべてに頭を悩ませているはずだ。
人によっては、話がなかなか進まずもどかしく感じるかもしれないが、それは世界が生きているからこそであり、それを示す一因である。だからどうか、物語の行き着く先を見届けてほしい。
まこと一読の価値があるものだ。いや一読と言わず、何度も何度も読み返してほしい。かつて、そうして読みふけった物語と同じように──。
物語の、懐かしく、薫り高いしらべに。
胸を震わせる喜びをぜひ、共にしたい。