レビューした作品一覧全18件
自分を、憐れんではいけない。
投稿日:2017年10月3日
孤児兵サトウ、18歳、兵士歴18年。世界が孤児たちに戦争を押しつけた近未来、兵士として生きてきた主人公が、転移した異世界で「自分のための戦争」をはじめる物語。 キャラ良し、ストーリー良し、セリフ良し、と三拍子そろっているのに惜しくも打ち切られた未完の傑作。 作者のキャラ造形のセンスは別作品「魔人王ヴェルの転生嫁」を読めば明らかですが、こちらの作品も素晴らしいです。キャラに魅力があるからストーリーの山場で物語に没入できる、テーマが心を打つ。 キャラの動機に納得・共感できる作品ってのは本当にいいもんです。 いつか日の目をみてほしい、面白い作品です。 (WEB打ち切りを奇貨に書籍で続刊とかしてほしいなぁ)
SF(?)ボーイミーツガール
投稿日:2014年10月20日
 不本意ながら五年三組の栄えある生きもの係へと着任した史緒は、やたらと上から目線な少年と出会う。高遠光と名乗った少年は宇宙人を自称し、史緒を地球人類観察の助手に任命すると言い放つ。電波かオタクか本物か。史緒の受難の日々が始まる。  早熟な少女と知能は高いが常識知らずな少年のボーイミーツガール。  日常コメディーとして読むのも楽しいし、小学校あるあるな状況からの心に刺さる展開でハラハラするのも楽しい。  8万字強で小学生編が完結済み。中学生編、高校生編と続いていくとのことで、非常に楽しみにしてます。
 はるけき昔に富み栄えたオアシス、バスマ。いまや水も枯れつつあり、滅びゆく運命の小さなオアシスだが、砂漠の商人でその地を知らぬものはいない。商人たちは噂する。いわく、バスマの姫に魅入られた商人は帰らぬものとなる。  若き商人、ターリックの前にバスマの姫の使いが現れたとき、物語は始まる。  とにかく文章が美しい。丁寧な描写が織り成す繊細な雰囲気の文章に引き込まれます。  砂漠を舞台に繰り広げられる、オアシスの秘密を巡ってくりひろげられる争いと謎解きというストーリーも読者の興味をひきつけてくれて最後まで一気に読めます。  6万字強で完結済み。秋の夜長にどうぞ。
レビュー作品 砂の通い路
作品情報
オッサンマシマシ戦闘小説
投稿日:2014年9月25日
 転生先は剣と魔法と恋の学園モノ乙女ゲー世界。転生したのは女子力虚数、戦闘脳の益荒漢女。一度は手にした頂を再びその手に掴むため、主人公は往く。血風吹き荒ぶ修羅の道を。乙女ゲー要素は行方不明です。  貴公子然とした王子様も、堅物なイケメン騎士も、腹黒美形インテリも(今のところ)登場しません。   登場するのは筋肉ムキムキ、強面ゲキシブなおっさんばかり。曲者ぞろいのオッサン達を手本にますます戦闘方面に特化していく主人公の未来はどこに向かっているのか。  乙女ゲー世界が舞台である理由はいつ明らかになるのか。(なるのか?)  濃厚なオッサンの描写が楽しい、戦闘小説です。
 治安の良さだけが自慢の辺鄙な街に、小さな宝石店がある。その宝石店の看板娘クリューは、体の中で宝石がつくられるという不思議な体質の少女だ。暗い過去をのりこえ、健やかに育ちつつある彼女はしかし、その体質ゆえに不穏な影を否応なく招き寄せてしまう。これは“宝石に愛された少女”の物語。  ヒロインのクリューが最高に可愛いです。一話読んだだけで悶絶必至。  そんな可愛いクリューは、周囲の人に恵まれ、健やかに過ごしています。見てるだけで微笑ましい幸福な情景。  ところが「宝石を吐く」なんて体質の人間は、悪意を持つ人間からみればまさに金の卵。知られればうようよと不埒物が湧いてくること間違いなし。なのでクリューの体質は秘密です。  それでも嗅ぎ付けてくる奴はいるもので、クリューは常に危険にさらされています。  クリューが平穏に過ごせるか、ハラハラドキドキしながら見守るのが最高に楽しい。
 戦火を逃れて緊急避難した異世界。そこは、文明も社会も、言葉の通じる人類もいない原始的な世界だった。所持品はナイフと懐中電灯、わずかばかりの食料と救急セット。おそらく、私は生きて還れない――。  未知の世界を手探りで進む、原点的な意味での冒険小説です。  孤立無援、貧弱な装備、乏しいライフライン。有利な要素は一つもなし。  過酷というのも生温い状況に置かれた主人公がひたすらに生を求めて生き延びる様は壮絶で、読んでる間は息が詰まりっぱなし。  極限状況を克明に描写する技量はおそろしい程です。  なろうにあっては間違いなく異色作。ですがある意味これこそが冒険小説。  毛色の違う作品を探してる方におすすめします。
 二度目の異世界トリップ先は、かつての敵国だった。一年に渡る異世界での戦乱を支えあってきた恋人と結ばれる直前に元の世界へ戻されるわ、再び異世界に帰ってこれたと思いきゃ十年経過してるわ、神様、ちょっと私に手厳しすぎやしませんか? 底意地の悪い運命に翻弄される少女・カズキは今度こそ望む未来をつかみ取れるのか。  恋人との別離・再会という切ないストーリー、国家規模の謀略渦巻くスリリングな展開を、頓珍漢な主人公の言葉遣いで楽しく読ませる作品です。  主人公の言葉遣いの残念さと丁寧なストーリーラインのギャップがくせになる面白さ。  断続的に読むもよし、まとめて読むもよしでおススメです。
 ダイエットを成功させたことのない私に妹が体重計を贈ってくれた。 だが、この体重計、彼氏面をしてくる……!   キレッキレのギャグが冴え渡る、13000字の短編。  タイトルから笑わせに来てますが、本編ももちろん笑うこと必至。冒頭に書いたあらすじは小説情報からそのまま引用してますが、あらすじですでに笑えます。  一文ごとに笑いを取りにくるキレの良い語り口とテンポの良すぎる会話にハマります。  思わず二度読みしてしまう面白さ。超おススメです。  他の連載や短編も面白いので、読んだ人は是非。
 特異な怪力体質の女の子に転生し、齢十にして不老の魔女となり、『庭師』と呼称される冒険者の最上級まで上り詰め――。冒険も事件も戦乱もこなしてきた主人公は、安全な定職に就くことを決意した。昔馴染みの侯爵の斡旋で就いた先は、王城付きの侍女。波乱の人生を歩んできた主人公は、平和な職場を無難に勤め上げることができるのか。  一話8千字弱で各話完結のゆるーい日常コメディです。  胸躍る冒険も、血なまぐさい事件も、悲痛な戦乱もありません。そういうのは消化済み。  見た目幼女、実年齢はアラサー、前世は男、そんな主人公が平和で華やかな職場で、同僚の姦しさに翻弄されたり、国の重鎮を翻弄したりするだけ。  そんな日常が読んでて楽しい。息抜きにどうぞ。 
 世にも珍しい黒髪の姫として、隣国より献上品として差し出された『黒のお姫様』。王は予想と期待をことごとく裏切る彼女に一抹の興味を持つが、彼女はそんなもの知るかとばかりにマイペースに過ごすばかり。鉄面皮の王様が、マイペースな彼女に翻弄される日々のはじまりはじまり。  読んでも疲れない軽い読み物を、という作者さんのコンセプトどおり、さらさらと読みすすめられる作品です。  いい年をした大の男が、一人の女の子の動向に一喜一憂する姿や、心臓に毛でも生えてるのかってぐらいマイペースに過ごす主人公にくすりとさせられます。  何も考えずにお話を楽しみたいときにどうぞ。  45000字で完結済みですが、後日談や番外編、続編が豊富にあるので長く楽しめますよ。
 オークだけど人間みたい。人間みたいだけどオーク。そんな半端者なオーク・弥太郎はその半端さ故に定職にありつけずにいた。正社員になる日を夢見て派遣で生計を立てる弥太郎は、人間の分際で大魔導を目指すバカ・佐々木と知り合い、何の因果かその佐々木を相棒にドラゴン退治の旅に出る。俺、この仕事が終わったら就活するんだ!  タイトルで笑って、一話読んで笑って、ラストまで一気に読みました。8万字ちょっとで完結済み。息抜きに読むのにぴったりなコメディーです。  オーク、人間、エルフ、ダークエルフ、ついでに処女こじらせた姫騎士さま、と登場するのは誰も彼も種族や肩書きからすれば“らしくない”連中ばかり。マイノリティの悲哀と絆を描く深い作品、かも?  いや、何も考えずに読んで笑うのが一番、そんな作品です。頭のリフレッシュにどうぞ。
 脱・悪役令嬢!そんな目標を掲げたのも今は昔、リシェリア・ドッグワーズは怠惰に日々を過ごしていた。自分が転生したこの世界が、悪意と裏切り、謀略に満ち溢れた過酷な世界であることも忘れて。名門の子女が必ず行う“十の儀”を迎える日、逃れえぬ運命が彼女に牙をむく。    がっつり暴力描写が入るので無理な人は無理だと思いますが、これがあるからこそ怠惰なリシェリアの感情に火が点く場面が非常に燃える。パートナー役のナスティーの活躍も熱い。  恋愛ジャンルですけど、スリリングで熱い展開、想像が広がるファンタジー世界と、長編ファンタジー作品が好きな人にはおススメです。  一歩間違えるとダークシリアス一直線なのに、読後感をさっぱりといいものに変えてくれる二人の初々しい関係も素敵。  三万字弱で完結済み。なんですが、この二人の話をもっと読みたい!と思える作品です。
 父が遺したお守りの指輪。それは、72に分かたれた伝説のソロモンの指輪の一つだった。ちょっと悪魔に詳しいだけの普通の少年、黒乃がそのことを知った時、日常は姿を変えていき始める。全ての指輪を集めんとする契約者達と悪魔を祓うエクソシト、命のやり取りを当然のものとする戦いの中で、黒乃は何を見るのか。  読んでて懐かしい気分にすらなる、正統派なライトノベルです。  ラブコメでも恋愛物でもなく、主人公が否応なしに戦いに巻き込まれていく。果たして主人公はどうなってしまうのか、どんな結末を迎えるのか。少年少女の変化と成長が楽しみな王道ストーリー。  清楚系肉弾派ヒロイン凛々と実は良いヤツ系ヤンキー白雨と、物語を彩るキャラクターも魅力的。  応援したくなる、ド直球な作品です。
 希代の悪女(主人公談)に誑かされた自国の皇太子に見切りをつけ、隣国へと政略結婚のためやってきた貴族令嬢シェリア。ところがターゲットの王太子には既に意中の人がいて婚約間近だという。それでも諦めず、なんとしても王太子妃の座を射止めようとするシェリアだったが、王太子の従兄弟ヨルガスにあっさりと阻止され――。  目的(王太子ゲット!)のためには手段を選ばないと言って憚らないシェリアを見守るのが楽しくてたまらない作品です。言ってることは悪辣なのに、お人好しなライバル相手に悪に徹しきれない彼女もきっとお人好し。というか、他人の気持ちを慮ることが出来る彼女に悪辣な真似ができるわけがない。そんな彼女の葛藤が、丁寧な描写で手に取るように伝わってきます。  そしてそんなシェリアに徐々に惹かれていくヨルガスを見るのがまた楽しい。  反発しあう二人がいつの間にか――。というある意味王道な物語。おすすめです
 あまりにもあんまりな理由で封印された堕天使リーゼと、異世界に迷い込んだ少年タクヤ。二人の前に次から次へと現れる、一癖も二癖もあるヒロイン達。降りかかるトラブルを切り抜けるタクヤに平穏な日々は訪れるのか。  異世界×ハーレム×コメディー、という『なろう』らしい要素が良い方向に展開される作品。ストーリーとキャラをしっかりと構成しているからでしょうか、始まったばかりなのに、プロローグを読んで楽しめた人は続きも楽しめるだろう、というどっしりとした安定感があります。一読した人間を笑わせるギャグのキレもお見事。単純なギャグで終始するだけでは収まらなさそうな要素も垣間見えて、今後の更新に期待大です。  このジャンルは食傷気味、という人にこそおススメです。
 木も土も、たべものすらも作り物。街の中には誰も入ってはいけない塔がある。誰もがそれを当然のようにふるまうのは何故なのか。誰の同意も得られない疑問を一人抱えていたエイはある日、同じ疑問を持つ少女アイと出会い、二人でバベルの中に入ることを決意する。そこに答えがあると信じて。二人が塔の中で見るものとは。  淡々と綴られる情景の中で、生き生きとしたアイの描写が魅力的です。主人公にとって生まれてはじめてのアイという自分と疑問を同じくする存在がどれだけ鮮烈なものだったか伝わってきます。それはまるで、線画で描写される背景と人物の中、一人アイだけがカラフルな存在であるかのようです。アイから見た主人公も同じような存在であったのかもしれません。  そんな二人が迎えるラストシーンが鮮やかな、三万字ほどの中編です。  
 サクッと読めて面白いです。  「ピンク髪と羊みたいな角が似合いすぎる女の子」「オレンジ髪のクールぶった男の子」というキャラクターのヴィジュアルが想像しやすいのも読みやすさの一因でしょう。  連作短編ということなので、話ごとに主人公が変わっていくスタイルなんでしょうけれど、続きが見たくなるカップルでした。  ヒロイン苺ちゃんも可愛いですけど、「お揃い」とか言っちゃう林檎君も可愛いですね。好きな子との些細な共通点見つけて喜んじゃう辺り、彼はロマンチストに違いない。  そのくせ壁ドンみたいな強気な態度をとっちゃう。多分家に帰ってから赤面して悶えていることでしょう。  そんなふうに登場人物の心情を想像するのも楽しいこの作品、おすすめです。
 気丈で自分を偽ることを常としているけれど、芯は素直で可愛い女の子、流迦がとても魅力的な小説です。  それに、主人公の心の動きを読者に伝える表現がお見事!  たった一日のことだけど、流迦にとっては凄く印象に残る一日だったのだろうなぁ、というのがよく伝わってきます。  のどかな田舎で、朗らかな友達や純朴な少年との心温まる交流に、東京から来た青年という異物が投じられてどう変化していくのか、先を読むのが楽しみな小説です。