ムラ社会と異界としての雪山を舞台に、哀しき化け物を巡る恐怖話……そう耳にすると「なんだ、よくあるホラーじゃないか」と思いがちかもしれません。しかし王道とは、誰が読んでも面白いから「王道」と呼ばれるのであり、ホラー小説における王道とは「誰が読んでも怖いと感じるエッセンス」で満たされているのです。
このホラー小説は間違いなく「王道」のホラーです。骨太でありながら、しかし淡々としたキレ味の文章で描かれているので読み応えがありますし、なにより、作者様が「山の怪異」について詳しくなければ書けない小説です。
スルメのように、何度も何度も繰り返し繰り返し読むほど、倍増していく恐怖。そして一抹の悲哀。どうか多くの人の目に触れてほしいと思います。