レビューした作品一覧全8件
読めば読むほど味が出る
投稿日:2020年12月18日
ムラ社会と異界としての雪山を舞台に、哀しき化け物を巡る恐怖話……そう耳にすると「なんだ、よくあるホラーじゃないか」と思いがちかもしれません。しかし王道とは、誰が読んでも面白いから「王道」と呼ばれるのであり、ホラー小説における王道とは「誰が読んでも怖いと感じるエッセンス」で満たされているのです。 このホラー小説は間違いなく「王道」のホラーです。骨太でありながら、しかし淡々としたキレ味の文章で描かれているので読み応えがありますし、なにより、作者様が「山の怪異」について詳しくなければ書けない小説です。 スルメのように、何度も何度も繰り返し繰り返し読むほど、倍増していく恐怖。そして一抹の悲哀。どうか多くの人の目に触れてほしいと思います。
レビュー作品 冬の谷底から
作品情報
この作品は短編であり、また字数も1万字に達しない短いお話ではありますが、不思議と心地よいノスタルジーを感じさせてくれます。 ジャンルは恋愛小説。高校二年生になる男子生徒の一人称で進むのですが、この語り口が等身大の高校生の感情で描かれていて、気恥ずかしいんだけど、どこか懐かしさを覚える巧みな比喩で表現されています。 高校生というモラトリアム一歩手前の青春時代。肥大する自意識ゆえに、好きな女の子がいかに素晴らしいかを大袈裟に表現しがちな主人公。そんな彼の、どこか痛々しさを感じる語り口に、不思議と己の過去を振り返って甘酸っぱさを感じてしまうのは、それだけ自分が年を取ったからなのか……短編にしとくにはもったいない作品です。気になった方は、ぜひ読んでみてくださいな。
レビュー作品 神の微笑
作品情報
まず、タイトルからして惹かれてしまうッッッ!!!なぜこんなにも『ッ』と『!』が多いのかッッッ!!!刃牙のフォロワーさんなのかッッッ!!!?そうなのかッッッ!!!?と思いつつ読んでみれば、意外や意外ッッッ!!!そういったパロディー的側面もさることながら、一つの『なろう小説』として、凄まじく面白いッッッ!!! 主人公は、超武闘派高校生のワタルッッッ!!!だが、ただの暴力野郎ではないッッッ!!!女の子には優しくッ!悪に対しても思うところがあれば手を差し伸べるッ!心が紳士的なので、まず好感しか抱かないッ! 脇役もサイコーだッ!自らを清純派と言いつつ、素手でドラムセットを破壊するアリアッ!  料理対決を持ち込んだり、小説のレビュー対決で白黒つけようとする魔王の手下たちッ! いい意味で頭おかしいッ! 百聞は一見にしかずッ!ぜひ食わず嫌いせずご賞味あれッッ! 味は、この私が保障するッッッ!!!
プロ・アマ問わず、色々な作品を読んでいると、ごく稀にではあるが『これは!』という作品に出会うことがある。 それは端的に言えば、引力を放つ物語だ。 つまりは、読者を否応なく物語世界に引き込むだけの、『凄まじいエネルギーを秘めた作品』ということだ。 この物語には、引力がある。 過去にSFを齧った人や、洋画の科白回しを好む人は、まず間違いなく御作の引力に絡め取られ、喜々として次のページを捲る事だろう。 そして驚嘆するのだ。中村尚裕氏が構築する、この分類不能なSFの世界観に。そこで様々な思惑の下に動く登場人物たちに。彼らの一挙手一投足に息を呑み、『え!?』と驚かせられること数知れず。謎が明かされる度にまた謎が生まれ、物語は加速を止めることを放棄する! さぁ!貴方も『新たなるSFの世界』へ飛び込もう! きっと、あなたの言語背景を豊かにしてくれること、間違いなしだ!
チートもなければ、ハーレムもない。 ここにあるのは、たった一つの生き方。『人の間』を外れた者の生き方だ。 人間にとって最大の敵とは何か。それは『理不尽』であると私は思う。 現実世界でも、理不尽は限りなく、我々の前に立ちはだかる。 果たして、それに勇気を以て立ち向かえる者がどれだけいるのか。そもそも、理不尽に対してどのように向き合えばよいのだろうか。 のっぴきならない苦境に立たされ、転がり落ちる己の運命に、しかし人はいずれ、決着をつけなければならない。 どんな形でも、決着をつける。それって、悲しくも素晴らしいことなんじゃないだろうか。 つまりなにが言いたいかと言うと、この作品は傑作であるということだ。 あらゆる異世界転移物が蔓延する中で、胸を張って断じようではないか。 これは、傑作である。
まず、あらすじからして惹かれる内容です。通っている学校も違う、互いの家もそれなりに離れている初対面の主人公とヒロインが、通学時の電車の中で、少しずつ、少しづつ互いの気持ちを通じ合わせていく……その時間は、たったの15分間。 大人になると、とにかく『時間』の流れる速さに愕然としてしまうことがしばしばあります。15分なんて、それこそあっという間に過ぎてしまうものです。たかが15分で何が出来るんだ……そう思ってしまうこともあるでしょう。 でも、高校生という青春真っ盛りの若人にとって、時間というのは無限の可能性を秘めているもの。しかも好きな人と一緒に過ごせる時間というのは、それがたとえ1分であろうと、幸福なものではないでしょうか。 本作は、そんな好きな人と過ごせる時間の大切さを気づかせてくれる恋愛小説です。実に甘酸っぱい。オススメです。
ロマンが貴方の心を熱くする
投稿日:2015年9月13日
まず一言。 この小説を一度読み始めると、途中でページを捲るのが止まらなくなります。ですので、深夜に読むのは禁物です。休日、たっぷりと時間がある時に読むのをお勧めします。本当に読むのが止まらなくなっちゃいますから。 物語は、実にシンプルな古き良き冒険小説を匂わせる内容ながら、決して古臭さは感じません。本作は冒険小説でありながら、ミステリー要素やオカルト要素を多分に含んでおり、それが絶妙なスパイスとなって本作の完成度を高めているのです。 そして何より魅力的なのは、主人公のラシェットを初めとする個性豊かなキャラクター達! 実に最高な奴らが、生き生きと物語世界を彩っています。 ロマンを忘れた全ての人類に捧げる空の物語。本作を一言で表すなら、そんなお話です。是非、ご一読下さい。
すべてのなろう作家へ
投稿日:2015年4月15日
本作は、エッセイの皮を被った"物語"である。 ささやかな勇気と希望を与えてくれる道標のような作品だ。 この作品では、『魔王』という名の一人のなろう作家が、複垢による水増しにより日刊ランキングのトップに躍り出てからの、仮初の栄光、挫折、後悔、そして再起までが描かれている。 なろう界隈を大海に例え、登場人物の多くを魚になぞらえている辺りに、作者の個性とセンスの良さを感じさせる。 特に、龍へ至る前の稚魚が評価やポイントを貰えずとも、せっせと小説を描き続ける姿勢には、思わず目頭が熱くなった。 本作は、水増しの恐ろしさに警鐘を鳴らすのと同時、直向きに小説を描き続ける事の意義や大切さを問うた、応援歌なのだ。