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「海賊狩り」の海賊による物語
投稿日:2018年5月15日
■国に雇われ、裏切られた測量船  海賊・メイナード一家は一般人を襲わない。  彼らは海賊と呼ばれながらも、同じ海賊だけを獲物する海賊狩りの海賊である。  元々彼らは国に雇われ、大海原を航海して新たな島の発見、海図の製作を行う測量船だったが、同国の私掠船に襲われた事を一つの契機として「海賊」に転じた者達だった。  そんなメイナード一家が「訳あり漂流者」を拾った事から宝探しをする物語。
レビュー作品 海底楽土
作品情報
■ミステリー×ファンタジー  この作品は殺人事件ミステリーだが、「死者を蘇生出来る」という特殊ギミックが存在している。  死者蘇生どころか欠損激しい遺体を修復する魔法、病を治す回復魔法、未来に希望を託すための冷凍保存技術といったファンタジーの産物が登場する。  ただ、これらは事件の推理には関わらないギミックである。  犯人は魔法を使っておらず、誰が殺したかに関しては現実の推理で突き止める事が出来る。だが魔法は設定として存在しているだけではなく、物語に重く関わるものとなっている ■事件と物語の両輪  この作品は「事件」と「物語」の二つの謎に関して推理する事が出来る。  5話目で事件の犯人は判明するので、ぜひ「犯人当て」に挑戦してほしい。  真実の先に残っていたのは、彼女にとっては知りたく無かったものかもしれないが。
■世界観:勇者Vs魔王の「その後」  勇者に討たれた魔王は死後、異世界の剣客に「10人の戦士の殺害」を依頼する。  その10人には生前の魔王が敵対していた者も含まれていたが、目的は復讐では無かった。  殺害対象の大半は元部下であり、魔王が死した事で戦乱の世が終わったものの、戦士である事を止められずにいる「生ける亡霊達」に引導を渡してほしいというものだった。  剣客は単身、異世界に渡り、死闘を繰り広げる。  彼自身もまた、生ける亡霊であるがゆえに。
 竜。この世全ての魔物の中で最も強く、速く、残忍な存在。  その中でも殊更猛き一匹の黒竜が、人々を滅びに追いやろうとしていた。  滅びを招くのは灼熱の息で村落を焼き、精鋭の竜狩り部隊ですら赤児の手をひねるように片付ける黒竜だけではない。竜の圧倒的な力を「黒き太陽」と畏れ敬う邪悪な集団の助力もあった。  ゴブリン、オーガ、痛みも恐れも知らぬ死人の軍勢が残虐な黒竜の下に集い、街も砦も陥落せしめ、人が安息に暮らしていける領域を蹂躙していく。  それに対するは、旗手・ケルライン。  黒竜に屠られた竜狩り部隊ただ一人の生き残りであり、瀕死の重症を負いながらも黒竜に逆襲するため紋章旗を手に再起する。  同じく立ち向かう事を決めた仲間達は一人、また一人と散っていくが、それはしかし、無為な死では無かった。その魂は消えず、ケルラインが握る竜狩りの旗の下へ集い、死してなお戦い続けるがゆえに。
 先住の民と侵略してきた帝国が争った島があった。  長きに渡る戦いの末、帝国は南側への入植を成功させたが、それ以上の野心は持たず、お互いに境界を侵さないという約定を結んで平和な時を過ごしていた。  だが、先住の民に属する少女が境界を跨ぎ、帝国側に踏み入ってしまう。  これはやむなき事情があったのだが、帝国側は「子供がした事」と見逃さず、少女を拘束する。  それほど身構えた理由は過去の事件にあった。  別の地域で蛮族の子供が境界をまたぎ、帝国の領域に入ってきた事を「子供のしている事」と見逃した結果、その子の手引きにより武装勢力が帝国に夜襲をかけた事があり、少女の行動はそれに重ね見られていた。  少女が罰せられ、南北の緊張が高まりかねないという状況の中、期せずして彼女に越境させてしまった少年が弁護を開始する。  これはその弁護に至るまでと、つたない弁護の結果についての物語。
■非戦闘機乗りの「お仕事物」  この作品は飛行機乗りが主人公だが、その仕事は戦闘ではない。  戦場に麦酒を空輸、要人輸送、飛行機乗りの知識も活かした遺跡調査貢献、気のいい兄ちゃんの接待、荒れ地を緑豊かな地に戻すための調査など、航空戦とは殆ど無縁の飛行機乗りの話。いわゆるお仕事物だ。 ■胸躍る会社の成長「飛行機無き航空会社」へ  鮮烈な派手さは無いが、淡々と進むわけではない。  「国防を担う魔女」「会社の成長」といったワクワクする要素にも触れられている。 ■更新はスローペース  正直、更新速度は遅いが、各章をまとめて投稿されているので中途半端にお預けを食らう事はない。  飛行機知識に関する描写も丁寧ながら、マニアック過ぎず読みやすいものなので、季刊の短編小説のように楽しみつつ、合間に同作者様が完結させている20作近い作品群を読む事をオススメしたい。
 異世界(日本含む)から人を呼び寄せる術のあるファンタジー世界。  ただ、ヒロイックな物語が展開されていく夢のある召喚ではなく、希少な知識を引き出すための召喚が行われている。極端な話、召喚されたものは現地人の道具のようにされてしまっている厳しい世界である。  召喚されているのは一人二人だけの話ではなく、かなりの人数が無理矢理(?)呼び出されている。得るものがない被召喚者――異界人は本人の意思に関係なく、奴隷の身に落とされるほど扱いが悪い。  奴隷化に関し、当然、異界人達は反抗しており、異界人解放戦線という組織も結成されている。  主人公が最初から無双する物語ではなく、厳しい世界の中で失敗と窮地を経験しつつも、それでも諦めず一歩一歩進んでいく丁寧なファンタジー異世界物語を欲している方にオススメの作品です。