レビューした作品一覧全16件
個性が否定され、全ての人類の容姿が均一化された未来。 遺伝子操作による能力の優劣で人々が階級化された未来。 荒廃した地球を捨て人々は月や火星へと移り住んだ未来。 人類は滅亡し、地上にはロボット達と最後の一人となった男のみが残された未来。 これは近未来、或いは遥かな未来、本当にあるかもしれない光景を描いた物語。 現代よりも科学が大きく進歩した時代を舞台としたSF短編集です。 科学技術そのものではなく、それが広く実用化されたことによる社会への影響や未来技術を前提とした人々の暮らしや価値観など、社会とそこに生きる人々にフォーカスを当てて描かれています。 それぞれの話は基本的に別の世界、または時代の物語となっており、短編としての纏まりも非常によいので、私達が生きている今とは異なった時代の風情を味わうことが出来るでしょう。
然る王国の辺境で生まれ育った女性。 娘となりある貴族へと嫁いだ彼女は、程なく夫を失うとその国の王に見初められ愛妾となるが、貴族社会に適応出来なかった彼女は様々な悪評を受ける。 やがて彼女が王の子を身籠ると、隣国から嫁いできた王妃は祖国に連絡を取りその軍勢を招き入れた。 王妃の兄である王の率いる軍勢が王都に入ると、愛妾は捕らえられ処刑されることとなる。 悪女と呼ばれた女性が、処刑前夜に自らの人生を振り返り語る形式の作品です。 国王、王妃、そして愛妾の三者が主要キャラであるものの、彼らの行動や情勢は全て貴族社会に疎い愛妾の視点で語られるため、必ずしも全てが真実であるとは限らない。 「読者がメタ的な視点から眺めた場合三者のうち誰が悪いのか」が作品のテーマであり、どのように読むかによりその答えは全く違うものとなるでしょう。 短編の中に無限の奥行きを与えられた、非常に完成度の高い作品です。
少女は激動の幕末を駆け抜ける
投稿日:2014年7月22日
剣道に精を出す蒼良は、師である祖父に連れられ幕末へタイムトラベルする。 祖父の目的は新撰組を救うことであり、彼女はそのために隊の内部に潜入するよう命じられる。 だが新撰組は女人禁制であるために男装していなければならず、女性であることが判明すれば死罪となってしまう。 彼女は男性の振りをしながら歴史に名を残す隊士達と共に過ごし、共に戦い、その中で仲間としての絆を深めていく。 現代人の少女が新撰組の一員として激動の幕末を生きていく物語です。 歴史を改変することが物語の主目的であるために、ストーリーはただ歴史をなぞるのではなく主人公の存在により少しずつ変化していき、徐々に史実とは異なっていくのが面白いです。 更新頻度が非常に高く、話のテンポもよい点も魅力的ですね。 登場人物の人格の描写が巧みでありますし、またそんな隊士達と主人公との関係もよく描かれているので、そういった方面でも楽しめるでしょう。
仲のいい少女への想いを、同性であるが故に押し殺す主人公。 親友という立場に身を委ねつつも、彼女はその立場故に想い人の恋愛話を聞くこととなり、嫉妬の炎を心に燃やす。 そして、彼女は今日も親友を手に掛ける想像をする。 描かれている女の子同士だからこその距離感や関係性にはとてもリアリティがあり、素晴らしかったです。 決して明かせない片想いに焦がれつつ、暗い感情に身を任せる少女。 いつかは本当に手に掛けるのではないかとさえ思わせるような淀んだ少女の心情が見事に表現されており、良質な文章と巧みな構成による物語は奥行きがある重厚なものとなっています。 作中では若い少女ならではの精神性が見事に描写されており、それに基いた悲恋の雰囲気に引き込まれました。 非常に完成度が高く、上手く一つの物語として纏まっているからこそこの先二人がどのような未来を辿るのかと想像させられる、文字数以上に世界が広がった傑作です。
下町で働く少女レティシアは雨の日の路地裏で怪我を負い倒れている少年を見つける。 身なりから近隣の住民ではない少年は厄介事に巻き込まれていることが明らかであり、彼女は躊躇しながらも少年を家へと連れ帰り治療を施す。 しかし目を醒ました少年は自分の名前や素性などの記憶を失っていた。 記憶喪失の少年を見捨てる訳にもいかず、レティシアはそのまま家で面倒を見ながらも、共に暮らすうちに互いの距離を縮めていく。 だが彼は本当はこの国の王子であり、彼女はかつて予期した通り厄介事に巻き込まれていくのだった。 平凡な少女が記憶喪失の王子を拾ったことから始まるラブファンタジーです。 本来ならば出会うことのない育ちも価値観も違う二人が紡ぐ物語は非常に魅力的ですし、全体を包む落ち着いた雰囲気は良質な文章に支えられてより作品の完成度を高めています。 じっくりと恋愛要素を楽しむことが出来る、とても上品で面白い作品です。
誰からも愛される、明るく輝いた人生を送る双子の姉。 そんな姉と比較され、常に蔑まれながら育った相馬絲は齢十五になると同時に家を出て一人で生活を始め、高校の中で自らのみを盲目的に愛する異性を集めていく。 そして汚泥のように暗い瞳をした者達からの愛を一身に受けながら、高い財力に優れた能力、そして容姿を持った者達から愛されることに優越感を覚えて口元を歪めさせる少女。 彼女は自らを取り囲む異性達へと愛を与えながら、なおも更なる愛を求めるのだった。 積極的に逆ハーレムを作っていく少女が主人公の物語です。 愛を知らずに育ち、故に愛を求めて自らを求める異性を侍らせる少女に魅了される者達もまた同じように歪み、心に暗いものを抱えた人物ばかりであり、澱みを共有する彼女らは特異な関係性を見出し、そして互いに愛を与え合う。 短編ではありますが、そうした暗い雰囲気や歪んだキャラ達が濃密に描かれた素敵な作品です。
後漢の名門袁家の嫡子として生まれた袁紹は、妾腹の生まれ故に悪意と劣等感に苛まれ、やがて本来の自分を切り捨て袁家の当主に相応しい人物を演じることとなった。 だが死を迎えた彼は、魂を二つに分かっていたために冥界へと行けず悪夢に囚われ続けることとなる。 彼が救われるためには誰かに全てを受け入れられなければならず、故に袁紹は悪夢の中へと三国志の武将達を招き入れる。 三国志の群雄、袁紹が主人公のホラー作品です。 彼は誼のある者達を悪夢へと招き、そして彼らの手によって救われることを願う。 悪夢の風景や現れる怪物は彼自身の記憶やトラウマを元にしており、招かれた人物はそれらを通して袁紹に触れていく。 ホラーではありますが、三国志が物語の主軸であるのでむしろ歴史ものに近い感覚で楽しめると思います。 受け取った情報をどう解釈するかにより異なる結末を迎える物語はあまりに面白く、夢中で読み耽ることが出来ました。
レビュー作品 袁紹的悪夢行
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気付くと魔法のある異世界の貴族、バウマイスター家の八男となっていた主人公。 しかし僻地に存在するその家はとても貧しく、しかも八男であるために彼の存在は然したる必要性を持たない。 だがそんな彼には魔法の才能があり、魔物の討伐で命を落とした魔法使いの亡霊と出会い教えを受けると、瞬く間に才能を開花させた。 圧倒的な力を得た彼は竜を倒した功績により国王から直々に爵位を与えられ、貴族社会に足を踏み入れることとなる。 これは、異世界で貴族として生きる男の物語。 貴族社会ならではの柵や政争といった要素が主な物語です。 一人の貴族として生きる主人公の姿が描かれた物語は非常に面白く、読み手に続きを心待ちにさせずにおきません。 また、そうした世界が舞台であるからこその描写が人間関係なども含めてしっかりとされており、それ故に世界観に厚みがある点も魅力的です。 一度読めば、きっと作中世界に引き込まれるでしょう。
誰よりも強く、望めば何でも叶えることが出来、それ故に愉悦を求める魔王ファノリール。 そして、そんな彼女に想いを寄せる臣下の魔族アーテント。 ある時、人間を虐殺し続ける魔王を殺そうと無謀にも挑み掛かった五人の少年を、彼女は気紛れにある呪いを掛けて解き放つ。 魔王への憎しみと復讐心を燃やして生き延びた彼らは、やがて勇者と呼ばれるまでの強さに成長する。 時が過ぎ、五人の勇者が魔王の城を目指していることを知り歓喜する彼女に対し、彼らへの嫉妬心を露わにするアーテント。 だがその嫉妬さえもファノリールにとっては愉悦であり、彼女はアーデントを誘惑するのだった。 欲望のままに生きる魔王が主人公の物語です。 題材や主人公の性格故の暗い世界観、そして彼女を囲む愛情の無い逆ハーレム。 それらは読んでいて非常に魅力的でした。 手軽に読める文字数でありながら短編としてしっかりと纏まっており、とても面白かったです。
レビュー作品 魔王様の遊戯
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ダブルヒロインのどちらか一人を選び、攻略対象達を奪い合う乙女ゲーム。 攻略対象達が全員ヤンデレのこのゲームには逆ハーエンドがあり、悪役ヒロインのそれは彼女が自らに狂愛を向ける攻略対象全員を周囲に侍らせ愛し合う通称「退廃エンド」だった。 そんなヒロインに転生した主人公は実家が名家故に両親達から捨てられ、攻略対象な兄以外から愛されずに育つ。 そうした生い立ち故に孤独を嫌い愛を求める彼女は、ゲームの舞台である学園に入学すると、ヒーロー達から愛されるために退廃エンドを目指す。 非常に魅力的な設定を持った作品であり、ダークながらも陰鬱ではない雰囲気が素敵です。 世界観の根幹であるゲームの設定やシステムがとても面白そうですし、もし可能ならプレイしたいと感じる程です。 退廃エンドを迎えるために様々な画策をしながらも普遍的な魅力を持ったキャラとして主人公を描いている点に、作者さまの技量の高さが窺えます。
完全攻略すれば何でも願いが叶うダンジョンが存在する迷宮世界。 この世界へと召喚された人間達は願いを叶えるためその一つであるゼーレ金貨に入るが、その難易度はあまりに高く、かつて英雄と呼ばれた者さえ為す術も無く命を落としていく。 召喚と同時に不死となった彼らは何度も甦生して挑戦を続けるが、何十年が過ぎても一層すら突破出来なかった。 科学が進歩し、死後の魂の行方が観測出来る世界から召喚された主人公は、魂が地獄に落ちた妹を救うためそれでも強大な敵が跋扈するダンジョンに挑み続ける。 多数の要素が絡む壮大な謎に、あまりに強大なモンスターの目を掻い潜りながら進むダンジョン攻略。 複雑に入り組み予想すら許さぬストーリー展開、それぞれの思惑を心に秘めた人間味のあり魅力的なキャラクター。 気を抜けばすぐ死に直結するような過酷な世界は読者に緊迫感を覚えさせ、次にどう物語が動くかを心待ちにさせずにはおきません。
時は一五六五年、かの織田信長の統べる尾張へとトリップした一人の少女は信長に仕えるや、戦国時代という過酷な世界の中でその才覚を瞬く間に開花させる。 非常に高い能力と知識を持った主人公は、現代から持ち込んだ植物や知識を活用して信長から任された村を瞬く間に発展させ、主に内政面において次々と顕著な功績を挙げる。 しかし僅かな期間で膨大な収穫量をもたらした彼女が持つ知識は農業のみに限られず、クロスボウを再現したり孫子を諳んじてみせるなど軍事面でも優れた才覚を見せ、信長を感嘆させた彼女はやがて確たる血筋を持たぬ身でありながら織田家臣団の中で自らの立場を高めていく。 非常にテンポのよい内政パートはもちろん、有名な武将の多い織田家臣団との関わりや、少しずつ重ねられていく歴史改変など、続きを心待ちにさせる魅力に満ち溢れています。 淡々とした三人称視点の文章の雰囲気も作品に合っており、非常に面白い作品です。
塩の砂漠に侵食され滅びかけた世界で、生きるために残された水場を巡り争う二つの民族のうちの一つに召喚され、破壊と殺戮の神ンディアナガルの力を得た主人公。 戦場に出て、無敵にも近いような戦闘力のおかげで敵を一方的に虐殺し続ける彼は、しかしただの高校生であり、召喚によって得た神としての力を振るうことしか出来ない。 広がっていく誤解や悪意に対処することは出来ず、ひたすらに勝利を重ねているにもかかわらず時に起こる悲劇は防げない。 圧倒的な力により敵を一方的に蹂躙する戦闘と、そうでありながらも主人公を襲う苦難や悲劇。 過酷かつダークな世界観の下で紡がれる両者のバランスはまさしく絶妙であり、上手く両立された主人公最強とストーリー性が作品の魅力として昇華されています。 勝ち続けながらも何も手にすることが出来ず、悲惨な結末へと向けて突き進んでいく物語はとても完成度が高く面白いので、ぜひ一読をお勧めします。
裏現実と呼ばれる、裏側の世界に堕ちた少女。 やがて紅色の黒猫と呼ばれることになった殺戮中毒の彼女は、新しい日常と戦いの中を生き抜いていく。 彼女の目に映る裏現実の暗くも魅惑的な世界を描いた物語。 恐ろしいまでの技巧によって描かれる、魅力的で本当に生きているかのようなキャラ達。 起伏に富み、読んでいると時間を忘れてしまうほどに面白いストーリー。 少しダークな作品の雰囲気をより引き立てる優れた言葉選びのセンス。 それらはどれも超一流の域にあり、一度読み始めれば寝食も忘れて読み耽ってしまうことは間違いありません。 圧倒的な面白さを誇る、小説家になろう最高の作品です。 名作と表現しても決して過言ではないほど完成度が高く読み応えのある作品ですので、このレビューを目にされた方はぜひお読みになられることを強くお勧めします。 そうすれば、きっとこの作品の虜になるでしょう。
レビュー作品 裏現実紅殺戮
作品情報
智によって紡がれる激しい戦い
投稿日:2013年9月26日
 時は慶長十二年。  徳川家康と結城秀康の親子間の怨念をきっかけに始まった、天下を揺るがしかねない陰謀。  秀康の怨念に従い行動する者、それを阻止すべく行動する者、或いは主家を守ることだけに心を傾ける者。  様々な思惑を秘めた者達の目線から紡がれる、知略戦と心理戦をメインにした小説です。  江戸時代初期を舞台とした、武ではなく智をメインにした重厚で激しい暗闘。  戦国の世を生き抜いた大名やその家臣などが、自らの信条を胸に己の経験を尽くして交える心理戦。  妥協することなくきっちりと描写されたそれはとても完成度が高く魅力的であり、一度読み始めればきっと引き込まれるように続きを読み進めてしまうことは間違いありません。
レビュー作品 残された禍根
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真実の愛がここにある
投稿日:2013年8月14日
突如として異世界に召喚された主人公、クロノ。 凄惨な実験を受けた彼は皮肉にもそれにより力を手にし、残酷に蹂躙を続ける十字教、そして白の神を弑すためにヒロイン達と力を合わせて試練を乗り越えていく。 繊細に壮大に作り込まれた世界観と、徹底されたアンチ王道のストーリー。 圧倒的な描写力によって綴られるそれらはとても完成度が高く、読んでいると作中世界に引き込まれてしまいます。 戦闘シーンは臨場感と迫力に満ち、瞼の裏に情景が思い浮かぶよう。 物語を彩るヒロイン達も魅力に溢れており、クロノに対して一途で純粋な想いを抱き、それ故に彼の役に立とうと懸命に努力する彼女達の健気で可憐な姿を見れば、人はこれほどまでに誰かを愛することが出来るのかと大きな感動を覚えることでしょう。 全ての要素においてずば抜けている作品であり、面白さにおいてこのサイトの最高峰に位置していると言っても決して過言ではない作品です。
レビュー作品 黒の魔王
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