レビューした作品一覧全49件
「ほら、怖くないから、こっちおいで。ぎゅーってしよう!」「ふざけんなー!」 リニの婚約者は性格が悪い。今日も今日とて、少しでも友好的な関係を築こうと会いに行っては、時間の無駄だと邪険に追い払われる日々。ちっとも歩み寄る気のない男に怒りを募らせるリニだったが、ある日、呼び出しに応じて訪ねて行った屋敷にいた彼は、なにやら可愛らしい姿になっていて…!? 少しでも明るい将来のため、めげずに関係改善を目指すお嬢さんと、そんなものは一切眼中にない仕事の鬼。家庭を持つ前から家庭を顧みない男を突然襲った椿事の顛末が、微笑ましくコミカルな筆致で描かれていて、ちょっと気の毒ながら思わずくすりと笑ってしまう。 前向きで可愛いもの好きなお嬢さんと一緒に、可愛さの対極にいるような男の可愛げを是非発見してほしい。 仲の悪い婚約者同士が、とある災難をきっかけにお互いを見つめなおすラブコメディ。
「次にため息をつく場合は、是非教えてください。美しい男のため息は、薬の材料になりますから」「絶対に言うものか!」 人々に恐れられながら、森の中の湖の小島でひっそりと暮らしている魔女のロゼ。あるとき、人目を忍んで魔女の庵を訪ねてきたのは美しく高貴な騎士様で――四年前、ロゼが街でひそかに一目惚れした相手だった! 思わぬ訪問者に動揺する彼女に騎士が告げた依頼は、なんと「惚れ薬を作って欲しい」というもので…!? 長年片想いをしている相手から惚れ薬を依頼されてしまった魔女が、ちょっぴりやさぐれたりしつつも、ささやかな交流に孤独な心を解かれていく姿が、切なくもあたたかく胸に迫ってくる。一方、得体の知れない魔女のただの少女のような素顔を知ってしまい、世話を焼いているうちにどんどん深みにはまっていく騎士の想いの行方は――? 生きる世界の違う騎士と魔女が、人として向き合っていこうとする恋物語。
急遽きまった婚姻で、新月山のお狐さまのもとへと輿入れしてきた莵道の末姫・かさね。しかし狐神への嫁入りとは、贄として喰われることを意味していた! 偶然盗み聞いた会話からそれを知ってしまい、逃げ出そうとしたかさねの前に現れたのは、金の目を持つうつくしい青年・イチ。今ここで狐に喰われるか、自分に盗まれるか選べとかさねに迫る男の目的は――!? 他者を、自分を、信じる意思。ゆくべき道をみずから選び取る矜持。大切な誰かを想うひたむきさ。そして、分かちあい満たされる愛おしさ。 濁りがなく真っ直ぐなひとの思いが、つよく、ふかく、胸を打ってやまず、気づけば彼らから目が離せなくなっている。 迷い傷つきながら進んでいく二人が、何と出会い、何を望んで、何処へ向かうのか。心揺さぶられずにはいられないその旅路をどうか見届けて欲しい。 大らかで前向きな姫君と、口が悪くて無愛想な青年の道行きを辿る、和風幻想浪漫譚。
レビュー作品 白兎と金烏
作品情報
狂おしくもうつくしい青春小説
投稿日:2021年4月1日
――もっとちゃんと、生きられますように。 美術教師である沖澄の手元には、彼が描いたものではない一枚の絵がある。『ここではない何処かへ(サムヒア・ノーヒア)』。沖澄の個展の片隅で異様な存在感を放つその絵を描いたのは、かつての彼の幼馴染み――えぐいような化け物じみた絵を描く一方で、どうしようもなく弱くて脆い、生きることが下手な女だった。 高校時代の夏の色が、音が、匂いが、まざまざと蘇るような鮮やかな情景描写と、それが過ぎ去った出来事として語られる構成に、痛みにも似たノスタルジーがこみ上げる。 人とは違って上手く生きることの出来ない少女のくるしみと、すぐ隣でそれを克明に見つめる少年のやりきれなさが、ままならなくて、息苦しくて、痛々しくも凄絶にうつくしい。 同じように育ってきたはずなのに全く違う世界を見ていたふたりの、心を削るような痛切な希求と、かけがえのない痛みの物語。
「さやはへーぞーのさやがみなの。さやがへーぞーをさむらいにするの」 江渡城下でその日暮らしをしている浪人の平蔵は、ある夜、酒に酔った帰り道に美しい拵えの刀を一振り手に入れる。翌朝、長屋で目覚めた平蔵の傍らに刀とともにちんまりと座っていたのは、ひとりの美しい童女だった。 心の虚に入り込み、人の精気を食らう“虚神”を断つことの出来る唯一の存在である“鞘神”――人の姿をとり自ら抜き手を選ぶという鞘神様に、何故だか見初められてしまった平蔵は、お江渡を騒がす怪事件に巻き込まれていくが…!? あるじとさだめた男を一途に慕う幼い鞘神様と、自堕落に暮らしながらも心に抜き身の刃をいだく男。 たがいに心を預け合うようになっていく二人の軌跡と、面倒くせぇなとぼやきつつ決して折れない刀を抜く男の背中に、たまらなく胸が熱くなる。 世を拗ねたおっさんと内気でひたむきな幼女が魍魎退治に奔走する和風怪奇活劇譚!
森の奥のそのまた奥の、薄暗く陰鬱な洞窟に住みついて、黒いローブで日がな一日怪しげな鍋の中身をかき混ぜてみたりなぞしている、しわしわの老婆――そんないかにもな魔女さんには、ここ最近大いに頭を悩ませていることがあった。地方一帯を治める領主家の三男坊である見目麗しい若君が、この恐ろしげな魔女さんのもとへと足繁く訪ねて来ては、切々と悩み事を訴えるのだが――? 忌避されるべき無法者であるはぐれ魔女に怯むことなく、薄暗い森の奥の洞窟に通いつめては能天気にお喋りをする若君と、そんな彼の振る舞いに頭を痛める魔女さんの奇妙な関係性はやがて、さらに奇妙奇天烈な方向性へと進んでいく…。 すっとぼけた美男子に懐かれてしまった、へそ曲がりだけどお人よしな魔女さんに、平穏気ままな魔女暮らしの日々は戻って来るのか!? 魔女として生きることを選んだ女と、ひたむきで人たらしなぼんぼんの、「答え」をつかまえるまでのお話。
レビュー作品 魔女問答
作品情報
誰かを愛して、誰かに愛されている奴で、どうしてそんな奴が、誰かに必要とされる人間が、理不尽に奪われなければならない――? 十五の頃に魔物の討伐隊に入り、仲間たちが次々と斃れていく中、とりわけ秀でた能力があるわけでもないのに十年間も無事に生き残ってきた若者・ユーグ。今日もまた、愛する息子を喪って慟哭する母親の傍ら、悪運強く生きのびてしまった彼は呟く。―――これだから神様は、節穴なんだ。 未来に希望を持っていたはずの仲間たちの無念の死と、彼らを愛する人々の悲痛な嘆き。そんなものを数えきれないほどたくさん間近で見て来たユーグが、これまで生きのびてこられたのは、ただひたすらに幸運だったというだけのこと。 ………だけど、その幸運が限られたものであったのなら、それを手にするべき人間はもっと他にいたはずだった。 傷つき摩耗しきった心を抱えながら死を見つめる討伐隊の青年の、痛みとぬくもりの物語。
レビュー作品 節穴の末路
作品情報
「やぁ可愛いシエーナ、君の執事を連れてきたよ」「ちょっと待ってお父様。正気? ねぇ正気なの?」 誰もがごく自然に使えるようになるはずの魔法の力を、八歳になっても一切使えないガイダン侯爵家のご令嬢・シエーナ。魔法適性がないため学園に通うことも出来ない彼女のために、父親が教師兼執事として連れてきたのはクマだった。真っ黒な毛皮に覆われた体を執事服に押し込めた、とっても大きなヒグマだった。 中学に上がる直前に病死して異世界に転生した少女。使えて当然の魔法を使えないことで「ガイダン侯爵家の無能な一人娘」と誹られながら、どこか現実感の乏しいまま異世界を生きる彼女は、執事として侯爵家にやって来た先祖返りの亜人であるアルクトスと出会い、いつ食われるかと怯えながらも少しずつ心を開いていく。 魔法の使えない少女が異世界で前を向いて生き始めるまでの、切なくも心温まるハートフルファンタジー。
中央神殿に仕える聖女であった母の身に巣くっていた呪いの残滓を宿して生まれてきた少女・アリーサは、聖女の力を持たない只人の目には世にもおぞましい化け物にしか見えないらしい。娘を傷つけられることを恐れた母親によって、僻地の屋敷の奥で大切に守られて育った無垢な少女に初めて出来た友達は、ちょっと気難しいけれど真面目で頼もしい男の子だった。 聖女である母親の守護の力が内側から浄化の力を拒んでしまうために呪いを解くことができず、長く囚われたままの少女。大人になれば呪いの浄化を拒む力も消えるはずだったが、外界に触れることなくぬくぬくと守られて育った少女は、このままでは精神的に「成人」を迎えることが出来ないと言われてしまい…!? 少女を縛り、分厚い殻の中に閉じ込めるもの――それは愛という名の。 純粋培養の素直なお嬢さんが、あたたかな庇護の手を離れて自分の意志で歩きはじめるまでの物語。
物心つく前から薄暗い地下室に閉じ込められて育った少女・ディー。そんな彼女を、ある時たまたまうっかり見つけてしまったのは、屋敷に忍び込んで来た盗人稼業の青年だった。 監禁された子どもを捨て置けなかったお人よしな泥棒さんによって地下室の外へと連れ出され、まっさらだった少女の世界は、ひとつひとつ色づきだす。 「仕方なく保護しただけの厄介者」だったはずの子どものことで、あれこれ心配してはやきもきする青年と、たどたどしくも生きることを覚えていく子どもの、ちょっとおかしな共同生活。「さみしい」だとか、「うれしい」だとか、そういう感覚自体を生まれてはじめておぼえる女の子が、その「よくわからない変な感じ」をつたなくたぐっていく姿が、いとけなくて胸がつまる。 寄り添い合って見上げる星空の美しさを知った少女はやがて、その感情の呼び名を知る――。 運命に翻弄された少女が幸福の在り処を見つける物語。
レビュー作品 楽土
作品情報
高校を卒業してからずっと、バイトをかけもちして家族三人の生活を支えてきた大神さん。そんな彼女の新しいバイト先は、とある会社の倉庫管理のお手伝い。 初日にひとりで職場にやって来た大神さんを出迎えた倉庫主任の冴木さんは、がっしりとした長身に顔中もじゃもじゃの髭に覆われた、熊みたいな男の人だった。 人に頼ることなく逞しく生きてきた、ちょっと能天気で直情径行な大神さんと、人を傷つけることが怖くて内に篭もりがちの、優しくて臆病な冴木さん。 あまり他人と深く関わることなく生きてきたふたりだけれど、狼さんが気になってそろそろと森から顔を出す熊さんと、それが気になってついつい見守ってしまう狼さんの、ちょっとずつ心と心で寄り添っていくような関係性に、ぽかぽかと心があたたかくなる。 忙しい日々のふとした余白の時間、一息ついて「ああ幸せだな」って言ってみたくなるような、幸福な陽だまりを見つける物語。
二年近く付き合った恋人から突然別れを切り出された二十七歳のOL・凪子。妊娠したという浮気相手は、彼と付き合っていることを社内で唯一打ち明けていた同期の友人だった。 二人の結婚式が終わり、駅のホームでぼんやりと座っていた凪子は、人のよさそうな笑顔の駅員さんに声をかけられる。にこにことマイペースにお喋りする男に面食らった彼女だったが…。 消耗しきって動けない凪子さんにココアを差し出してくれた駅員の仁科さんは、のほほんとしてとぼけた印象ながら、ちょっと底が見えないところのある不思議なひと。 大事な人たちに裏切られて、腹が立って悲しくて、どこまでも落ち込んでいってしまいそうなときに、あたたかいものに触れて心が緩んだり、思わず笑わされてしまったり。徐々に癒されて前向きになっていく心情が丁寧に描かれていて、清々しくあたたかな読み心地。 疲れた心を休め、しっかり整備して、再び走り出すための物語。
レビュー作品 最終列車
作品情報
いくらでも傷ついたって、いいんだ。――今度こそ、後悔しない恋をしよう。 友人から結婚の報告を受けた日――長い片想いの終わりが確定して落ち込んでいた和佳子は、妙な成り行きからものすごいイケメンと知り合う。しかし、一方的に和佳子を「失恋仲間」に認定し、彼女にフラれたと言ってウーロン茶でくだを巻くイケメンは、ちょっとアホな人だった…。 悪気なく無神経な発言をするところも、押しが強くて躊躇なく他人を巻きこむくせに打たれ弱いところも、何も言わずにちょっとズレた気遣いをしてくるところも、全体的に残念なイケメンの残念っぷりが愛おしい。 異性というには色気がないし、友達というにも疑問符がつく、それでいてごく近い距離の奇妙な交友関係は、果たしてどこに行きつくのか――? ちょっと臆病で自己完結しがちなところのあるお人よしなOLが、変なイケメンに振り回されながら失恋を乗り越え、前へと進んでいくお話。
「この世界のリア充はすべて不幸になるといい」「可愛いピンクのウサギが呪いの言葉を吐くのはやめましょうよ」 元彼との別れ話がこじれ、毎週末自宅まで訪ねて来る男を避けるため、休日はちょっとした町興しイベントで賑わう古戦場跡で時間をつぶしている小夜。そんな彼女にあるとき話しかけてきたのは、ふてぶてしくてわがままで態度の悪い、ショッキングピンクのウサギさんだった。 自分の価値観にいまいち自信が持てない小夜さんの前に現れたのは、自由奔放で傍若無人なマスコットキャラクターのにょん吉くん(の中の人)。 自分にとって大事なものは、欲しかったものは何なのか。態度は横柄だし素直じゃないけど、不器用ながら自分の気持ちに寄り添ってくれようとする男と関わるうち、少しずつ定まっていく心の向かう先は――? ちょっとだけ人間関係に疲れた女が、反抗期の中学生みたいなウサギさんと出会って、心のままに歩きはじめるお話。
けれどおまえが望むなら、わたしはやさしい獣になってもよいと思う。そんな戯言ひとつでおまえがわらってくれるのならば。東雲。 小さな島国の東西にそれぞれ帝が立ち、国を二分して相争う動乱の時代。西方帝が第五皇子・東雲が花嵐のなか拾い上げたのは、腹を空かせて泣きわめく赤子だった。 変わり者の皇子が「はな」と名付けて愛した娘はやがて刀をとり、戦乱の世を駆けぬける。 男も女も容赦なく切り裂き噛み殺す、血に飢えた獣のような気性の娘。――だけど、おまえがわたしを呼ぶから。わたしは。 乱れ咲く満開の花群れの下、一心に駆けてゆく少女。狂おしいほどの情を知った獣は、ただひとりのために牙を剥き、息の根がとまるその瞬間まで、はしってはしってはしりつづける。たとえ、同じところへはゆけないのだとしても。 咲き狂う花と屍の山。荒々しくもうつくしく鮮烈な女の生き様を描く、愛おしく清々しい架空伝記譚。
レビュー作品 花と獣
作品情報
「気をつけろ、人間は人魚を裏切るものだ。だから心をゆるすな」 人魚姫が恋した男に秘密を明かしてしまったことで、人間たちに攻め入られた海底の豊かな王国は今はなく、陸にあがって生きのびた人魚たちは人に紛れてひっそりと暮らしている。 小さな漁村で生まれ育ったメリッサは、あるとき人魚であることがばれて故郷から逃げ出し、たどり着いた港町で身なりの良い若い男に拾われた。しかし彼は、「人魚に呪われた一族」と言われる商家の当主で…!? 世間知らずで能天気な人魚の少女は、悪意には鈍感だけど善意や優しさはすぐに汲みとってしまう、ばかみたいに素直なお人よし。騙されやすい自覚の足りない危なっかしい少女を保護したのは、ちょっと意地悪で口の悪い商人。純粋無垢な人魚は、腹が立つ物言いをするけれどとても優しい男に少しずつ惹かれていくが…。 悲劇に終わった御伽噺のその先で、人間に恋した人魚の新たなフェアリーテイル。
長いあいだ諍いを繰り返してきた天界と人間界。天人に両親を殺された幼い王子は人間たちの悲願を背負い、人としての命と引き換えに天人と成って天界へと降り立つ。しかし憎むべき親の仇である天人の女は、雌伏すべく弟子入りを願い出た少年を愛し慈しんで育てた。 そうして因果は巡り廻る――。 師であった女を殺し、天界を滅ぼして人間界に安寧を齎した男、最古の王にして最後の天人となった彼は、それから一千年もの長い長い余生を静かに過ごしていた。そんな彼の前にある日現れた少女は、かつて天人として生きた記憶を持っていて…!? 人間として生まれ変わり、千年の時を越えて再び巡り会った、仇敵にして最愛の弟子。長い時間をひとりぼっちで生き続けてきた最古の王を幸せにするべく奮闘する元師匠の話。愛が憎しみにストレート勝ちしてて、単純で強く優しい情愛が胸に刺さる。 千年を生きた孤独な王の置き去りにされた心を取り戻すための物語。
レビュー作品 師弟失格
作品情報
強欲、色欲、憤怒、暴食、嫉妬、傲慢、そして怠惰――己が渇望を遂げることによって悪魔としての格を上げることが出来る世界で、悠久の時をただ無為に過ごしてきた堕落の王、レイジィ・スロータードールズ。ただ寝ていただけでいつの間にやら「怠惰」を極め、望んでもないのに魔王にまで昇りつめてしまった男は、今日も今日とて周囲の騒動をものともせずに、ふかふかベッドで惰眠をむさぼる。 弱肉強食、裏切り上等、日々熾烈な争いが繰り広げられる魔界において、ひとり我関せずのスタンスを貫く自堕落魔王を取り巻く、頽廃的で物騒な日常。ある種のゲーム的法則に則ったナンセンスな世界観に、独自の行動理念をもって各々の渇望を貪欲に満たそうとする悪魔たち、それぞれに視点を移しながら展開するストーリーテリングが非常に巧みで、常に面白さが全てを上回ってくる。 勝手な連中が好き勝手に生きる魔界を舞台にしたノワールファンタジー。
あの負け犬殿下も、上手く焚き付けてやれば持ち駒に変わるかもしれない。――駒にされる前に、逆に駒にしてやるわよ。 爵位目当てで近づいてきた中流階級の男に両親を篭絡され、借金のかたに結婚を迫られる崖っぷちの男爵令嬢・ステラ。起死回生をはかるべく、王太子の公妾の地位を狙って王都へとやって来た彼女が出会ったのは、王太子の従兄であり王太子妃の元婚約者でもある曰くつきの青年公爵だった。互いに相手を利用するべく、打算ずくの契約を結んだふたりだったが…!? 失恋の痛手を引きずり人生を諦めている破滅型の腹黒公爵と、絶望的な状況に追い詰められながら幸せをもぎ取るべく全身全力で上を目指す野心家の男爵令嬢。正反対を向いている計算高い二人が、相手の思惑を読みながら上手をとるべく駆け引きをするうち、少しずつ互いに対する見方を変えていく。 バイタリティ溢れる少女と優しい拗らせ男が、未来を掴み取る物語。
菅本雛子の兄・日向は、昔から可哀想な生き物を放っておけない子どもで、すぐに動物を拾ってくる癖があった。そんな兄があるとき拾ってきたのは、プールに落ちてびしょ濡れになった男の子。しかもよく見るとあちこちにピアスの穴が開いていて…!? 日向に引っ張られてちょくちょく菅本家にやって来るようになった稲倉君は、日向と同じ男子校に通う特待生で、女の子が苦手らしく女子と話すときはちょっとどもりがち。ちょっとお馬鹿であっけらかんとした気性の女子高生・雛子とは、顔を合わせるうちに口喧嘩をしたりするようになるけれど、ふたりはあくまでも「日向の後輩」と「日向先輩の妹」という関係性でしかなく…。 高校生活の空気感や、思春期特有の面白おかしさと憂鬱さ、友達未満の繋がりしかない相手に対するもどかしいような情が丁寧に描かれていて、心が引きこまれる。 不器用に手を伸ばし合う等身大の高校生たちの瑞々しい青春小説。
前へ 123 次へ