レビューした作品一覧全23件
 ファンタジー小説のジャンルとして、西洋風や和風ファンタジーと並んで人気のあるものに、中華風ファンタジーがあります。文字通り、『西遊記』や『水滸伝』といった中国の幻想文学を元にした作品です。  その魅力の源泉は漢字表記の固有名詞にあり、我々にとり親しみやすさとエキゾティシズムが同居する形になります。本文にある通りです。  万仙陣。これ何か分かりますか? 一種の魔法陣です。  天羅地網宮。中国占星術における天球上の一定範囲をいいます。  そしてこの文章は、中国の神話などから「武器」に着目して、日本人の読者向けに紹介するものです。作者は台湾にお住まいらしく、レビュアも初めて目にするアイテムが盛りだくさんでした。言語はもちろん日本語。  物書きさん目線からすれば、中国神話はまだ誰の唾も付いていない、未知の道具や魔法や幻獣の宝庫です。そこから素材を自作品に迎えたいかたに、この文章を薦めます。
 我が国の神話にこんなエピソードがあります。  アマテラス大御神の孫に山の神の2人の娘が嫁いだところ、醜いという理由で姉イワナガ姫だけが送り返された、と。  一方、スサノオの命からオオクニヌシの命へと至る系譜に、同じく山の神の娘でコノハナノチル姫という女神が登場するのですが、一説には彼女はイワナガ姫の別名と言われています。  さて、この短編は以上の神話を下敷きにして、イワナガ姫の物語を誰もが幸せになるようにアレンジしたものです。  正直、元のお話をご存知でないと、作品の良さがいまいちよく分からないと思います。が、原作にすでに親しんでいらっしゃるかたには、強くお薦めします。ほっこりします。  加えて、もしあなたが、小顔でスレンダーで目がぱっちりしていて血色よく日焼けしたスポーティな女の子がお好きならば、この作品はあなたのためにあります。
レビュー作品 岩長姫の話
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九州のご朱印ガール必見!
投稿日:2018年9月23日
 この文章は元々、日本神話を題材にした同一作者の連載小説『願わくは』の後書きで、本文に登場した神様の紹介をしていたのを、別個の作品として独立させたものです。  あくまでメインの小説の副読本のような位置づけであり、とり上げる神様の順番は本編における登場順で体系的ではありませんし、個々の記事の情報量もそれほどでもありません。  ただ、やけに充実しているのが、その神様がどこにまつられているかという情報。特に南九州の神社についてはかなり詳しく書かれています。九州地方で神社巡りをなさるかた、特に祭神に関してきっちりリサーチしてから参拝に臨まれるかたには、垂涎ものの文章となることでしょう。  もしもこの作品で日本神話に興味をもたれましたら、ぜひ『願わくは』のほうもお試しください。けっこう面白いですよ。
 蕗(ふき)小人ということで、もう皆様ご期待どおり、コロポックルが大きく絡む物語です。舞台は当然、北海道。内容は、コロポックルに強引にせがまれて、主人公が彼の住みかを探してあげる、というもの。  ここでコロポックルと同等かそれ以上の存在感を放つのが、主人公の相棒であるヤタガラスです。感想欄では彼の動作がいちいち可愛らしいと絶賛されています。 人間の姿をとって雪道を主人公と歩く → コロポックルに足にしがみつかれ転倒 → もっていたあんまんが雪道に投げ出されショボーン → のちの主人公の回想「カラスに弁当を持って行かれた子供のような顔をしていたな、カラスなのに」  こんな感じです。  この作品は、共通の登場人物をもったシリーズを構成する1本です。とはいえ、冒頭(プロローグの直後)で主人公の立場や力について簡単に説明されるので、この作品から読み始めるのでも問題ないと思います。
レビュー作品 雪空の蕗小人
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 ストーリーは、神様を信じることのできない高校生の主人公が、シャチの精霊である女性(超美人!)と出会い、「身の回りにあるもの全てについて、それが神様なのかもしれないと思って暮らしたほうが、人生わくわくするのではないか」と提案され、少し心境を変化させる、ただそれだけ。  なのですが、言外に表現された空気感のようなものがすごいです。一言も文字で書き表されていないのに、要所要所で、背後を涼風が吹き抜けていくかのような感覚を覚えました。  あるいは、おとぎ話をすなおに信じることが許された最後の時間を、心ゆくまで楽しもうとするような儚さ。そういったものを想起させてきます。  プロの作品でも、そんなものにはなかなかお目にかかれないと思います。
 内容はタイトルの通りで、特に私のほうからつけ加えることはありません。物書きさん目線だと、作品の全容を簡潔明瞭に表した題名のお手本、という意味でも興味を持たれるのかもしれませんが。  この作品、何が面白いかというと、魔法あり魔物ありのファンタジー世界から現代の日本に転生した主人公の感性のズレなんですよね。我々の世界にあって異世界に無い大抵のものを、異世界のものに変換して認識しちゃうんです。 制服のボタン → ギルドの紋章 不良 → ゴブリンのようなモンスター  こんな具合で。 「テルマエ・ロマエ」で現代にタイムスリップした古代ローマ人のカン違いも相当なものでしたが、ぶっ飛び具合ではこちらがさらに上をいっています。笑えますよ。  決して夜中に読んではいけません。声が外に洩れます。  牛乳を飲みながら読んでもいけません。PCが壊れます。
 この作品は、一言でいえばアーサー王伝説のリテイルです。しかし単なるifやラノベ化ではなく、同じくブリテンに伝わっていた全く別系統の伝承を接合して、より広大で重層的な世界観を構築しています。  例えば、作品の主人公はマーリンの弟子(?)に当たる魔女ですが、彼女の名前がヴァルプルガ。そう、ワルプルギスの夜の語源となった聖女です。ちなみに発音はワよりもヴァが正確。ヴァルプルガは本来アーサー王とは無関係ですが、ここで両者の間に接点が生まれます。  また彼女は、作中においてゲッシュなど、ケルト神話でドルイド僧が用いた魔術をガンガン行使します。実は、アーサー王はケルト神話の系列といわれるものの、作中でマーリンやモルガン・ル・フェの使う魔法がドルイド魔法だと明言されることはありません。  このように、アーサー王を中心にイギリス中の物語をくみ込んで奥行きを増した点が、作品最大の魅力だと思うのです。
 この短編は、「猿蟹合戦」や「はなさかじいさん」といった日本昔話を、1本の物語につなぎ合わせていくような構成をとっています。  玉手箱を開けた浦島太郎は、尽きていく命を何に使ったのか。鬼退治を成し遂げたあと、桃太郎の一行にはどんな運命が待っていたのか。鶴女房を失った老爺は、過ちを教訓に生かすことができたのか――。回答の一例が、この作品では示されています。  終盤近く、物語は日本昔話の枠を突き破って、中国の古典とも交わります。蟹をいじめた報いをうけた猿が、仏の導きでとんでもないスーパーヒーローに生まれ変わるのです。  この作品だけで完結しない、昔話同士の連関がもたらす無限の広がりと奥ゆき。このレビューではその壮大さを半分も書き表せません。ぜひ、ご一読を。
レビュー作品 新訳御伽草子
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 あらすじにもあるように、人間など全く意に介する必要のないくらいの力をもった竜が、人との交流を通して、生きがいや守るべきものを見出していくお話です。  個人的にこの作品の最大の魅力と思うのが、竜と行動を共にするミーシャという少女の存在。非力で戦闘には一切貢献しませんが、その気になれば自分を一瞬で灰にできる竜に対してさえ、なれなれしく、時に強引に構ってきます。  キャラ単体としての魅力はさることながら、物語とここまでパズルのピースのようにガチっとはまる適材適所性を有するキャラは、ここ数年ほとんど見てきませんでした。 「ジジィ主人公、しかも人外なんて……」などと言わずに、ぜひ読んでほしく思います。特に、当方も含めキャラの魅せかたに悩んでいる者には、得る所が大きいと確信します。
レビュー作品 老竜の願い
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 日本神話を元にした作品ですが、あらすじにもあるように、ストーリーはオリジナルです。全体の雰囲気として、『古事記』や『日本書紀』では脇役的な立ち位置だった、カグツチやサクヤビメといった国つ神たちにスポットライトが当てられています。  私が舌を巻いたのは、群像劇ふうの構成である点。文章は常に第3人称説述体で、登場人物の誰かの視点から語られるわけではないのですが、かなり多くのキャラについて、行動の動機などが十分に提示されています。  本レビュー時はまだ、せいぜいライトノベルの文庫本の5分の1程度の分量しか進んでいないのですが、にもかかわらずすでに、タケミカヅチやイワナガヒメなど7柱くらいの神様が、それぞれの思惑を秘めて行動を開始しています。果たして誰のもくろみが達せられるやら。
レビュー作品 黄泉平坂物語
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 あらすじにある宿曜道とは、インドから日本に伝わった、天文・暦・占いの体系です。平安時代には、中国・道教の陰陽道に対し、インド・仏教の宿曜道といった感じで、陰陽師に拮抗する影響力を保持し、かの『源氏物語』にも登場します。  この作品では、その宿曜道の使い手(本文中では用いられませんが、宿曜師といいます)たちが、数百年前に挑んだある戦いを、ふしぎな女性が語ります。  史実だと、宿曜道は戦国時代には武士たちも活用し、現在も密教系の寺院に伝えられています。対してこの作品では、宿曜道はすでに命脈を断たれたことになっています。それがなぜなのか……は、読んでからのお楽しみ、ということで。
北海道警察には超常現象に対応する部署があって、そこに所属するアイヌのシャーマンの血を引く女刑事や、新たに配属された神主の資格を持つ主人公が妖怪退治などを通じて事件を解決していく、というストーリーです。 それだけ申しますと漫画のような軽いタッチのものが想像されますが、こちらはドラマの脚本として書かれたというだけあり、かなり真面目な作品です。特に、江戸初期から幕末、明治に至る北海道の歴史につき緻密なリサーチがなされ、それらを主要な登場人物の経歴に反映させることにより、彼らの背負うものが明確になり、1つ1つの行動をとっても説得力がまるで違うのです。 刑事もの、歴史もの、ファンタジーのいずれかがお好きなかたでしたら、十分に楽しめるのではないかと存じます。逆に、それくらい幅広いジャンルに訴求し得る作品など珍しいのではないでしょうか。
イギリスの『アーサー王』、フランスの『ローランの歌』と並ぶ中世ドイツの騎士道叙事詩『ニーベルンゲンの歌』を、なんと近代的な軍隊の整備された世界に展開させたハイファンタジー。不思議と、両者がほどよくブレンドされ違和感の無い作品に仕上がっています。設定がきちんと作り込まれているからだと思料いたします。巷には、神話に出て来る神や武器の名前だけ適当に拝借して作中のそれらに付けたような軽薄な作品が溢れ返っている中、本作は元ネタの特色を作中に、ミリタリー要素と矛盾しない範囲で見事に反映させています。この点が当方には衝撃的でした。
マハーバーラタはインド神話の叙事詩で、神々の血を引く5人の王子が王国を取り戻すため従兄弟たちと戦うお話です。一撃で無数の将兵を焼き払う神器や空飛ぶ戦車が見られ、一部では北欧神話のラグナロク共々人類は遥か昔核戦争で1度滅亡したという説の根拠に援用されます。 その無数の英雄の中で最も人気が高いものの1人が、太陽神の子カルナです。本作は彼の生涯に焦点を当てたマハーバーラタの翻案です。 しかし、単なる焼き直しにあらず。 原作は紀元前から語り継がれ、人々の感情のポイントも、駆使されるロジックも、現代の日本人には量れない面が多々あります。しかし本作では、各キャラの心理が詳細に、かつ我々も共感し得る形で描かれています。結果、彼らがより生き生きとした人間に映ります。 原作は世界一長い叙事詩で容易には読めませんから、本作で部分的にでも触れてみてください。既に読まれたかたもまた違った魅力を見出せます。
冒頭などを読みます限り、世界中の神々が、自ら選んだ人間に力を与え、自身の代理人として戦わせる、というストーリーのようですね。本レビュー時はまだ、エジプト神話の神々の代理人しか登場していませんが、そのうち日本神話や北欧神話のそれも出て来ると思います。 世界中の神話から要素を取り入れた作品など、需要はありそうなのにもかかわらず、「なろう」ではほとんど見つかりません。恐らく膨大な資料が必要になるからでしょうが、その意味でも本作の存在は貴重です。 文章も書き慣れている感じがして、淀みなく読めますし、スピーディな戦闘場面でも何が起こっているか頭の中に容易に浮かびます。設定の壮大さからしてかなりの大作になることが予想されますが、うまくまとめてくれそうな気が致します。
当方は異世界転生と伺いますと、転生後の世界で理由も無く最強の力を手に入れて我が物顔で振る舞うようなストーリーを連想いたします。しかし、本作はそうではないのです。あらすじの通り、本当に無力なニワトリからのスタートです。それでも、機知や偶然を味方につけてそれなりの功を上げ、少しずつですが力をつけていきます。ある意味、昨今の異世界ものに対する皮肉。現実の厳しさを教えるかのよう。 しかし、読んでいて辛くならないためのケアが周到になされているのが本作の凄いところ。テンポの良いギャグや掛け合いのおかげで、深刻さが大きく緩和されているのです。完璧超人には感情移入ができない、かといって主人公があまり辛い目に遭いすぎるのも嫌。そんなかたにはうってつけの1本ではないでしょうか。
短編だとは思えないくらい世界観が重厚です。一言主神や審神者など、いかにも神道的なタームがちりばめられているのですが、それらが有機的に関連し合い、短い作品の中に1つの体系が矛盾なく出来上がっています。この世界観に基づいて長編の和風ファンタジーを書くことも十分に可能と思われます。もちろん、「設定ばかり羅列して肝心の物語はおろそか」などという事情と本作は無縁です。また、これだけの大風呂敷を広げておきながら、30分程度で読める分量にきちんとまとめられているのもポイントです。
レビュー作品 陰媛
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北海道は本州や沖縄と並ぶ一大シャーマン文化圏で、彼の地の文学には、元々シャーマンに乗り移った神が下した託宣が語り継がれたものが多く含まれている、と伺います。 本作は、あらすじを読みます限り、そのような文学的伝統と現代のリアルな世界観とを重ね合わせた結果生まれた着想に基づいた作品であろうと思料いたします。上記のような事柄を念頭に置いて読みますと、予備知識なしで臨むのよりも数倍興味深いものに感じられるかと存じます。 まだ始まったばかりで肝心のオッサンは登場していないので、当方もこの程度のことしか申せません。ここから先に注目いたしましょう。
漫画をそのまま文字にしたような短編。読みかたが特殊なため最初は戸惑いますが、すぐ慣れます。 あらすじにもある通り、主人公が思いを寄せる女の子には別に意中の相手がいて、自身よりも彼女の希望を優先させる主人公の前に恋の女神が舞い降りるお話。結末をここで明かす訳にはいかないので、「どんでん返し」とだけ申しておきます。 アイラスが可愛いです。
序盤、最近はやりだという異世界転生ものの定石のように進んでいくんです。しかし本作は短編。異世界で冒険などしている紙幅はない。衝撃の結末は……、ご自身の目でお確かめください。 文章があり得ないくらい上手いです。ハルヒよりも断然読み易く感じました。創作指南本なんかによく書かれている「模写」という行為をこの作品について行いたいくらいです。 ガールズラブ要素はありますがそんなに過激ではありません。性的な描写は皆無です。
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