2017年09月13日 (水) 00:42
耳です! そう、あくまで耳ですからね?
「ディアーナ、これは何かな?」
アイナは凄く穏やかな微笑みを浮かべ、背筋が凍り付くほどの怒気を孕んだ声で問い掛ける。その手には巧妙に存在を隠されていた映像記録用の魔導具が握られていた。
「ニャッ!? え~と……それは……なんと言うか」
大量の汗を掻き、視線を彷徨わせ、しどろもどろな態度のディアーナ。彼女にやましい事があるのは確定的に明らかだった。
だが次の瞬間、ディアーナは事態を打開する為に強攻策に出る。
「アイナ様が可愛すぎるのが悪いのですニャ! なので私がアイナ様の恥ずかしいお姿を後世に残すため盗撮という手段を講じてしまったことは仕方が無いことのですニャ!」
逆ギレと自分の行動を無視した全力の責任転嫁。
さすがは付き合いの長いアイナとディアーナ、発想がよく似ている。
ペットは飼い主に似るというやつだろうか。
「ほう、私が悪いと?」
「そうなのニャ!」
「言いたいことはそれだけかい?」
刹那、アイナが手にしていた魔導具が木っ端微塵に砕け散る。
「ニャアアアアアアッ!?」
慟哭の叫びを挙げる、ディアーナ。
とても大げさな駄エルフである。
「ディアーナ、今日という今日は反省してもらうよ。ちょっとそこに座りなさい。嫌って言っても無駄だけどね」
そうアイナが告げた瞬間、どこからともなく出現した緋色の鎖がディアーナの身体に巻き付き、そのまま使用者の意思に従い、近くにあった椅子へと拘束する。
鎖の正体は高ランクのアーティファクト、縛鎖グレイプニル。北欧神話に登場する神喰らう大狼を捕縛した魔法の鎖と同じ名を持つそのアーティファクトは、名前だけでなく性能においても神話クラスだと言っても過言ではなかった。
「ちょっ、アイナ様!? 一体何のつもりなのニャ!」
廃スペックハイエルフな自分でも抗えない束縛にディアーナは動揺する。
そんな彼女の背後に回り込んだアイナは、その長耳に顔を近付けて囁いた。
「何って、お・し・お・き、だよ。ふぅ~」
「ひゃうっ!?」
長耳に吐息を吹きかけられ、ディアーナは飛び上がらんがばかりに身悶えた。
そんな彼女のことなどお構いなしに、アイナの柔らかな指の腹がツーッと長耳の上をなぞっていく。
「そ、それはダメですニャ。はぅ、び、敏感だから……止めるのニャ」
「ふふっ、お前の弱点はまるっとするっとお見通しだ!」
だが懇願むなしくアイナの蹂躙は止まらない。
小さな手が容赦なくモニッと長耳を掴んだ。
その瞬間、まるで雷に打たれたかのようにディアーナの身体が震えた。
「くっ、んんっ、ひぐぅ」
頬を上気させたディアーナは下唇を噛み締め、必至に声を押し殺して、その暴虐的な衝撃に耐える。
「フハハハ、どうだ!」
モニんモニん。
果たしてアイナは知っているのだろうか?
エルフの長耳が心を捧げた相手から受ける感度、そして快感が跳ね上がる性質を有していることを。
さらに上位種であるハイエルフともなれば、それは通常種のエルフの比ではないということを。
いや、知るはずがないのだろう。
「ディアーナ、反省するなら許してあげるよ」
などと言われても、当の駄エルフさんは正気を保つのが精一杯であった。
涙を浮かべ、内股すり合わせているのに気付いてあげて欲しい。
いや、それは不可能というもの。
何故なら今日もアイナのポンコツ具合は絶好調だったのだから。
「強情だね。だったらこれならどうかな?」
そう言ってアイナは小さな舌を突き出した。
当然ディアーナから見えない。
だが廃スペックハイエルフなディアーナは、自らの身に起きようとしている出来事をつぶさに感じ取っていた。
「ま、って……今は……ダメ」
弱々しくディアーナは請う。
それがアイナの嗜虐心を刺激すると、心のどこかで理解していたとしても。
むしろ彼女は期待していたのかもしれない。
「ペロ~、からのはむはむ」
舌を這わせるだけに飽きたらず、アイナは長耳を歯噛みした。
「ふにゃッ────」
その瞬間、あまりの衝撃にディアーナは意識を手放した。
だけど彼女の顔はとても幸せそうな表情をしていたのだった。
「これに懲りたら、ちゃんと反省するんだよ?」
勝ち誇った笑みを浮かべるアイナ。
何故それが逆効果だと気付かない。
そしてお前にはこの言葉を贈ろう。
おまゆう、と。