25.ストロベリー侯爵と、天使の娘。
2025年06月02日 (月) 07:37
これまでのお話
01.恐怖侯爵と激かわ娘。
02.恐怖侯爵はなにかを隠してる
03.恐怖侯爵と地下からの声
04.恐怖侯爵様の、愛娘と宝物。
05.恐怖侯爵に告ぐ。
06.恐怖侯爵と地下室の謎。
07.恐怖侯爵様の思惑がわからない。
08.恐怖侯爵様、告白する。
09.恐怖侯爵、ストロベリー侯爵になる。
10.ストロベリー侯爵は、意地悪な王子様。
11.ストロベリー侯爵、焦る。
12.ストロベリー侯爵、真実を告げる。
13.ストロベリー侯爵は甘えたい。
14.ストロベリー侯爵、私を溶かす。
15.ストロベリー侯爵、脱ぐ。
16.ストロベリー侯爵、幸せにんじんを食べる。
17.ストロベリー侯爵、元妻を見つける。
18.ストロベリー侯爵の、前妻に会う。
19.ストロベリー侯爵、決意する。
20.ストロベリー侯爵には、仕事がある。
21.ストロベリー侯爵は、限界です。
22.ストロベリー侯爵は、彼女を救いたい。
23.ストロベリー侯爵は、鍵を託す。
24.ストロベリー侯爵が作ったブランコの前で。


恐怖侯爵の後妻になりました。君を愛することはないと言ったのは、前妻を忘れられないからでしょうか。彼女が消えたのは、まさかあなたが……?

 
25.ストロベリー侯爵と、天使の娘。
「すごい泣き声が聞こえたんだが……大丈夫か?」

 私とシャロットが抱き合っていると、イシドール様がやってきてくれた。
 すっかり涙の上がったシャロットが、私の手を飛び出してイシドール様の元へと駆け寄る。

「ねぇ、パパ!」
「ん?」
「シャルね、ここにいることにきめたの! パパといっしょにいる!」
「……っ、本当か……?」

 あ、イシドール様、感極まって泣きそう。
 だって、ラヴィーナさんのところに行くと思ってましたよね。
 私も、そう思ってましたから。

 シャロットはそんなイシドール様を見て、太陽のようににっこーと笑う。

「だからね、パパ。レディアおねえちゃんとけっこんするのよ!」
「……え?」

 予想外ですよね。わかります。
 展開が早いのよ、シャロットは。

「パパ、レディアおねえちゃんのこと、すきでしょ? シャル、パパのことならなんでもしってるんだから」

 ドヤァッと胸を張るシャロットが、可愛らしい。
 私がふふっと笑うと、イシドール様はどういう状況だと言わんばかり首を捻らせている。

「それは……そうだが」
「レディアおねえちゃん、シャルのおかあさまになるって、いってくれたの。だから、おねえちゃんはパパのおよめさんになるの! はやくぷろぽーずしてくださいっ!」

 舞踏会ごっこの再来! 展開が早い!
 ってもう、結婚はしてるんだけどー!

「そうか、わかった」

 イシドール様は、静かに私のほうへと歩いてくる。
 その足取りは落ち着いていて、私の方がドキドキしてしまう。

「えっ……?」

 そのまま私の目の前で、片膝をつく。
 そして、私の手をとって──真剣な目で私を射抜く。

「イ、イシドール様……?」
「レディア……この世界で、君以上に、信頼できる人はいない。君以上に、優しくて、強くて、あたたかい人を、俺は知らない」
「えっ、あ、えっと……あの、それは……」

 待ってください、何ですかこの急展開。
 いきなりで、そんなに気持ちを切り替えられるものなんですか!?
 視線を逸らしたくなるけど、イシドール様の瞳がまっすぐすぎて、逸らせない。

「俺は……ずっと不安だった。君のような素敵な女性が、俺のそばにいてくれると思っていなかった。いつか、遠くに行ってしまうと思っていたし、そうすべきだとも考えていた。だがそう思うたびに、胸が締めつけられるほど苦しくなった」
「イシドールさま……」

 これ……イシドール様の本心だ。
 誰よりも優しい、イシドール様の、本音。

「最初、俺は君を救おうとしていた。だが、救われたのは俺の方だ。いつの間にか、俺は君から目を離せなくなっていた──愛してしまったんだ」
「あの、わ、えと……」

 どうしよう……声がまともに出てこない!

「レディア、どうか……俺の妻になってくれ」
「~~~~~~~~っっっ!!!!」

 息まで、詰まって……!
 イシドール様の言葉が、まっすぐ、まっすぐすぎるほどに心に届いて。
 私の中を甘く満たしていってしまう。

「ねぇねぇ、レディアおねえちゃん!!」

 そう言って、シャロットが私の袖をぱたぱた引っ張ってくる。

「はやくおへんじして! およめさんになるんでしょ!? さっき、シャルのおかあさまになるって言ってくれたもん!」
「シャロット……」

 イシドール様が、私の手をそっと取ったかと思えば──そのまま、やわらかく、丁寧に、手の甲に口づけを落とした。

 胸の奥が、ふわっと熱くなって──

 どうしてだか、泣けてきちゃう。

 そんなにやさしい仕草、反則ですから……。
 私のことを、大事に思ってくれてるのが、あの口づけひとつで伝わってきて……。
 もう、全身が震えて。
 
「俺の妻に、なってくれるか?」

 返事のできない私に、イシドール様の再度の問いかけ。
 私はなんとか、声を絞り出す。

「ありがとうございます、イシドール様……私も……ずっと、あなたと一緒にいたい……っ」

 私の返事を聞いたイシドール様は、一瞬だけ目を見開いて──そのあと、目がなくなりそうなほど、微笑んだ。

「……夢じゃ、ないんだな」

 低くてやさしい声。
 その言葉が、どうしようもなく胸に沁みる。

「夢みたいですけど……夢じゃ、ないみたいです……」

 そう言いながら、私はそっと手を握り返す。
 指先が触れ合うだけで、心までつながった気がした。

 イシドール様の瞳が、ほんの少し潤んだ気がして、私はどきっとする。

「レディア……ありがとう」
「私こそ……っ、こちらこそ……」

 頭の中がふわふわしていて、とんちんかんな返事を返しちゃったけど。
 たぶん今、私、信じられないくらい幸せな顔してる。

「やったぁーー!! けっこん、したあっ!」

 シャロットが、ぱんぱんっと手を叩いてぴょんぴょん跳ねる。

「パパ、よかったね! レディアおねえちゃんをみるとき、だいすきーっておかおしてたもん!」
「……そう、だったのか」

 イシドール様がちょっと照れてる。
 そんな顔も、可愛くて……頬が勝手に上がってしまう。

「あ! おねえちゃんじゃなくて、レディアおかあさま!」

 その言葉を聞いた瞬間、大きな波が、ざぷんって私を飲み込んでいくようで。

 ずっと望んでいた、シャロットの母親になれたんだなぁって……

 なんだか、すごく、胸がいっぱいで。

「パパ! おかあさま! ふたりとも、だいすきーっ!」

 シャロットが私とイシドール様の手をぎゅっと握って、満面の笑みを向けてくれる。

 ……ああ、もう。
 こんなの、幸せ以外の何だって言うの。

「私もシャロットが……シャルが、大好きよ」

 私の言葉に、シャロットは天使の笑顔が弾ける。

 世界で一番の、私の娘の最高の笑顔。

 新しい家族の形は、きっとまだ不格好で、始まったばかりだけど。
 でも私はもう、シャロットの“おかあさま”だから。
 そして、イシドール様の奥さんだから。

 初めて手に入れた、家族のぬくもり。

 ずっと欲しくて欲しくて、たまらなかったものが、今。

「シャル……イシドール様……っ」
「レディア?」
「おかあさまー!?」

 気づけば、私は泣いていた。

 うれしくて、うれしくて、これ以上ない幸せで。

「ありが、と、ございます……私……愛し愛される、家族が……夢、だったんです──」

 二人のおかげで叶った夢。
 本当に、本当に手に入れられるだなんて、思っていなかったの。

 イシドール様がそっと私の涙を拭ってくれる。

「もう大丈夫。君は、ここにいていいんだ」

 シャロットが、ぎゅっと私の手を握りしめて、にこにこ笑う。

「ずーっといっしょよ、おかあさま!」

 あたたかい手と手が重なって──私はようやく、居場所を見つけたんだ。
 これが、私の大切な「家族」。
 もう、ひとりじゃない。

 何があっても、ずっと、一緒に──




最終話は、なろうにて!

最終話.ストロベリー侯爵と、スミレの花。
よろしくお願いしますーーーー!!
ブクマ、評価喜びます!!!!!

こちらも投稿しています!
花嫁の替え玉でしたが、皇帝陛下に「美味だ」と囁かれています。

さらに今晩は短編も用意しています♪
くっ殺姫騎士×魔王のラブコメですので、そちらもぜひよろしくお願いします♪
「くっ、殺せ!」と叫びながら、姫騎士は魔王の溺愛に堕ちていく。
コメント全4件
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長岡更紗
2025年06月02日 18:44
◆彼方

三人ラブラブエンド!(まだあるw)
最終話も楽しんでもらえますようにー!
ここまで感想いっぱい、ありがとー!!
遥彼方
2025年06月02日 18:40
三人ともおめでとうーー!
続きは連載で……だね!
長岡更紗
2025年06月02日 09:53
◆雪乃さん

いっぱい出しまくってるにに、全部読んでてくれて本当にありがたいです!!
楽しみと言ってもらえて、めちゃくちゃ嬉しい♡
満開の花は咲くのか!?
お楽しみにしていてください♡
名木雪乃
2025年06月02日 09:10
次々すごい。ストロベリー侯爵の連載もお疲れさまでした。
今晩は楽しみがいっぱいです。
早く満開の花が咲きますように!