新装開店
2013年02月03日 (日) 02:40
なんかRPG小説見ててこんなの書きたいと思って半年近く設定暖めてたので、ちょっとプロローグ書いてみました。

以前書いた、土下座Lv99の改変です。設定色々変えて人物そのまま、って感じで。






【レベルの上がらないRPG】



 ここはどこ? 私は誰?

 見知らぬ風景、そこに至るまでの記憶がまるで無いことに混乱し、思わずそんな言葉が出る。
 まさしく、気づけばそこにいた。
 そう言うとまるで一瞬でそこに移動したかのように聞こえるが、気が付く前の自分を思い出せないので最初からここにいたのか、それとも本当に一瞬で移動してきたのか、はたまた移動中気を失っていたのか、それすら分からない。
 分かっていることは一つ、何も分からないと言うことだけだった。

 さてはて、それを分かっていることとして良いものかは謎ではあるが、無知の知などと言うものがある以上これもまた知ではあるのだろう。
 見渡す限りに続くのは平原。青々とした緑が多い茂るそこは春にピクニックでもするのに最適なのかもしれない。
 まあ問題はどこまで見渡しても平原しか無いことだが。
「…………いや、ここどこだよ」
 声を出してみて、何故か自分の声に違和感を覚える。
 はて、一体何がおかしいというのか?
「…………うん? なんか声高くねえか?」
 ついでに言うなら視点にも違和感。どうして地面がこんなに近いのだろうか?
 つい、と視線を下げる、見えたのは自身の小さな足。

 …………小さな?

「はい?」
 両手を見る…………小さい。まるで幼稚園児のように。
 いや、待て…………これ、誰の体だ?

 A.自分のです。

「…………………………………………はあああああああああ?!」

 直後、自身の絶叫が草原に響き渡った。



 ……………………。


 ……………………………………。


 ……………………………………………………。


「と言う夢を見たんだ」
「夢っていうか…………それボクたちが会った時の話だよね」
 夢オチかと思った? 残念、現実でした…………残念なのは私か。
 と言うか、幼馴染の冷静なツッコミが痛い。具体的に言うと心が。
「ところで葵、いつまで私の上に跨ってる気だ?」
 現在の状況、私の寝ているベッドの上で跨る幼馴染(男)。
 まあ所詮五歳児同士、特に問題があるわけでもないが。
 私の言葉に幼馴染こと水瀬葵が私の上から降りると、私自身も上体を起こす。
「かーくん、ご飯だってお母さんが」
「ん、分かったから先言ってて」
 緑さんが下で待っているなら急がねばなるまい…………別段遅れてくることを気にするような人でもないが、だからこそ気が咎める。
 もぞもぞと布団をから抜け出すと、一つ欠伸をして葵が開けっ放しにしたまま出て行った扉を閉める。
 それからパジャマを脱ぐと、着替えを手に取り…………ふと下着一枚になった自身の体を見下ろす。

 見事にぺったんこ…………まあまだ五歳だから仕方ないのだが。

「…………けっこう慣れるものだねえ、こういうのも」
 下着をそっと捲り、眉を顰め、戻す。
 当初は戸惑っていたが、今では慣れたものだ…………あるはずのものが無いと言うのも。



「おはよう、楓ちゃん」
「おはようございます、緑さん」
 着替えを終え、階段を下りるとすぐ傍がダイニングだ。
 フライパン片手にキッチンから歩いてくる緑さん(葵の母親)に朝の挨拶をし、席へと付く。
「うーん、お母さんって呼んでくれていいのよ?」
 呟きながら困ったように頬を手を当てるその姿はとても五歳の子持ちとは思えないほど若い。
 と言うか実際まだ2○歳らしい…………一体何歳の時に葵を生んだと言うのか。
「残念ながら葵と姉弟になるつもりは無いので遠慮させてもらいます」
 しかし毎朝同じ台詞を言うのは止めて欲しい。
 私の言葉に、あらあら、と何か分かったように頷き。
「そうよね、どうせ葵ちゃんと夫婦になれば楓ちゃんも娘になるものね」
 ちなみに「おはよう、楓ちゃん」からここまでが毎朝のテンプレだ。
「五歳児に何を期待してるんですか、緑さん」
 当事者の葵はと言えば緑さんの作った朝食を食べるのに必至でこちらの会話に気づいていない。
「気が早いにもほどがあります」
「あらあら、じゃあその時になったら葵ちゃんと結婚してくれるのかしら?」
 ニヤニヤ、と言うよりはワクワクと言った感じの笑顔で尋ねてくる緑さんに、さすがにきっぱり嫌です、とは言えないので。
「…………まあ考えておきます」
 とだけ答えると、ふふ、と笑われた。
「そう、じゃあ考えておいて」
 笑顔でそう返す緑さんに、どこか照れくささを感じ、紅くなっているだろう頬を掻きつつ。
「…………はい」
 素直に頷いた。




 唐突だが…………転生と言うものを信じるだろうか?
 生まれ変わる、輪廻転生と言う概念は仏教のそれだが、私自身特に何かの宗派に入っていると言うことは無い。
 ならば何故そんなことを言ったのか…………?
 簡単だ。
 私が転生と言うものをしたから。
 前世の私はどこにでもいる日本人の男だったらしい。
 …………らしい、と言うのは私自身にあまり自覚が無い上に前世の自分自身のことに関する記憶がほとんど無いからだ。
 さきほども言ったあるはずのものが無い、と言うのは前世と比較した話だ。
 不思議なもので前世の自分の記憶など無いのに、生活の様々な時に妙な既視感や違和感を感じるのだが、それはきっと前世の自分との比較なのだと思っている。
 ただ今際の際に思ったことだけは覚えている。
 何が原因で死んだのか…………そんなことすら覚えていないのに。

 ただそれが最後の瞬間で、その時こう思ったことだけは覚えている。

 ああ………………まだ、死にたくない。



「で? 今日は何するつもりだ?」
 元気そうに私の前で胸を弾ませる葵にそう尋ねると、良くぞ聞いた、と言わんばかりに目を輝かせ振り返る。
「どーくつたんけん!」
 どーくつ…………どうくつ…………洞窟?
「ああこの間のか」
 三日前に見つけた(と思っている…………と言うか普通に聞けば誰でも知ってる)街の傍の森の中にある洞窟だろう、とすぐに気づく。
「そうそう! かーくんも一緒!」
 あそこなら対したモンスターもいないし、まあいいか。
「はいはい…………だったら準備してこい」
「はーい」
 どたどたどた、と家の中を走る音がする。
 と、同時に背後でくすくすと笑い声。
「悪いわね、楓ちゃん。いつも葵のこと見てもらって」
 緑さんが楽しそうにそう言うと、私も首を振って答える。
「いえ、私も面倒見てもらってますから」

 気づけばあの平原にいた。

 前世と比べ、変わり果てた、と直感するほどに変わったらしい自身の姿に呆然としていた私を拾いこれまで育ててくれたのは何を隠そう目の前の緑さんだった。
 当初は私の親を見つけようとしてくれていた緑さんだったが、一年経てど親は見つからず、だったら自身を親だと思え、などと言ってくるようになった。
 正直に言えば嬉しい…………だが、中途半端に成熟した精神がそれを拒む。
 これ以上は迷惑でしかない…………と。そう思ってしまう。きっと緑さんからすればそんなはずないのかもしれないが、どうしても意地を張ってしまっているのが現状だ。
 だが子供の身で独り立ちすることも出来ず、だったらせめて自身に出来る範囲で緑さんの助けになろう、と思い結局やっていることと言えば葵の面倒を見ることくらいだ。
 どうも私は緑さんに下手すると実の息子の葵以上に信頼されている節があり、何をするにも「楓ちゃんが良いと言ったなら」と言って葵を諭す。葵は葵で私に懐いているので私がダメだと根気強く諭すと大抵のことは諦める。

 こんなんで良いのかな…………と思ったりもするのだが。

「子供は子供らしく甘えればいいのよ」
 と言って私を抱きしめる緑さんには勝てないのだった。





 話は変わるが、この世界は少しばかり…………いや、かなり特殊だ。
 正直前世の知識にある世界とはまるで違う。
 一応は同じ地球だし、地名なども概ね同じ…………だが、決定的に違う部分がある。
 それは…………この世界の法則(システム)が前世で言うRPGのそれだと言うことだ。
「ステータス」
 そう呟くと表示されるのは自身の能力値を数値化したもの…………ぶっちゃけ、呟いた言葉そのままにゲーム風のステータスだ。

【パーソナル】
 浅葱楓(あさぎ-かえで) 5歳 女 レベル0

【ステータス】
 筋力12 敏捷11 体力15 知力39 魔力61 抗力39 命中18 回避10 器用29

【スキル】
魔法Lv.3
時属性魔法解禁
記憶継承C
生存適応EX
時間操作E


 因みに自分の名前と年齢はこれで知った。因みにこの世界には魔法とか普通にあるし、先もちらりと言ったが、モンスターとかもいて倒すと経験値になったりする。
 は、良いんだが………………。
 だが…………だ。
 色々とおかしな部分があるのだが、取り合えずこれを見て欲しい。

「クリック…………レベル」

 レベル0 EXP(経験値)365/∞

 分かるだろうか…………スラッシュ(/のこと)の左部分が分子、右が分母だ。
 因みに、この世界で生まれた人間は全てレベル1から始まる。
 分かるだろうか?
 因みに私と同じくらいの経験値を集めた葵はすでにレベル5である。
 分かるだろうか?

「…………あの、RPG風の世界のくせに、レベルが上がらないんですけど?」

 A.現実は非情である。





連載予定。
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 \(^p^)/オワタ