『東方妖狐録』変更点のお知らせとプロローグの紹介
2013年09月25日 (水) 01:13
 とりあえず妖狐録もようやくまとまった気がしてきたので、そろそろ投稿開始しようかなと思っております。

 その前にまず、皆様に(私が把握している限りでの)変更点のお知らせを。

〇変更点
  ・鬼子母神の存在(一応復活の余地はあるのですが、妖怪の山の頂点という設定はなくなりました)
  ・夜々の重度のオタク設定および百合(ことあるごとにアニメや漫画のネタを連呼する夜々ちゃんは消失しました)
  ・そもそもの夜々のキャラ設定(今まではテンションの高い、少女という名のオヤジでしたが、もうちょっと乙女チックでおとなしいキャラになった気がします)

 私が把握しているのは以上です。
 皆さまが読んで「ここ明らかに変わってるだろ」という点が数多く出てくるかもしれませんが、それは読んでからのお楽しみということで。

少し急ぎ足な形となってしまい申し訳ございません。ここからは今現在書きあがっているプロローグを載せますので、ぜひ読んでみてください。そして感想、意見ください。

それでは


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001 目覚めは森にて


 生まれたころから、私の人生は決められていた。
 だから、この結果は必然だ。
 何しろ私自身も、それを望んでいたのだから。
 文句なんて何一つない。
 結末には不満があるが、その程度。
 あの日々に比べれば、どうということはない。
 ただ、安らかに眠ればいいだけだ。


 私は捨て駒だった。この激痛から逃れるための。
 痛い。苦しい。
 恨み言なんてない。私だって可能なら同じことをしているから。
 恨みはない。だけど。
 終わってほしいと切に願う。
 地獄なんて見飽きたから、あの世なんていらないから。
 早く、早く。
 ……ああ、今日も苦痛は続く。


◇◆◇◆◇◆◇

「……ぁ……あ?」
 夢、だった。
 何か、苦しくて、悲しくて、よく分からない、夢だった。
 どんな夢だったのか、思い出そうとして、できなかった。意識の覚醒とともに、その記憶は薄れていったから。
(まあ、いいや)
 少しためらって、諦めた。
 忘れた夢なんてそう簡単には思い出せない。そのうち、偶然思い出すのを待つしかない。
 だから、夢のことは諦めよう。
 今は、別のところに目を向けねば。
「……ここ、どこ?」
 視界の端から端まで、木々がうっそうと生い茂っていた。
 樹木の種類なんて知らないが、幹の太さを見るに、樹齢は数百年を下らないだろう。
「ここは、山?」
 目に見える程度に、地面には傾斜があった。どこかは知らないが、山の中。
「だとしたら、まずいな」
 木々の幹に生えるコケを含め、この森は人の痕跡があまり見られない。暮らす動物たちは野生のものばかりだろう。
 もし、ここでクマなんかが出てきたら、ひとたまりもない。
 私は武器なんて持っていない。非力な少女。服装も戦闘なんて度外視の、地味な普段着。
 野生の生物にかなう要素がない。自力も年季も違いすぎる。
「早く、ここから出ないと」
 そんなのは嫌だから。獣に食われて、こんなところで死ぬなんて。
(こんなところで、か)
 こんなところで死んだら、どうなるんだろう。
 死体がもしも見つかったとして、きっとこんな場所だ。時間もたっているだろう。
 肉はあらかた食い尽くされて、残った肉片には蛆がたかっていて。
 死体は原形なんてとどめていないだろう。残っているのは骨くらい。
 警察は、きっと身元不明の死体とか、そういう風に処理するんだろうな。
 身元不明、不明……身元?
「あ、あれ?」
 身元、身元。
 そう、身元だ。私がだれかだ。
 誰だ?
 私は誰だ?
 名前はわかる。|夜々(やよる)。それが私の名前。
 それはいい。けどそれ以外は?
 分からない。私がどこのだれで、何をしてきたのか、まったくわからない。
 脳みその中をひっくり返す。覚えてるものをすべて掘り起こす。
 ダメだ。あるのは目覚めた後のもののみ。過去のことなんて何一つ残っていない。無理に思い出そうとしても、頭が痛くなるだけだ。
「ああ、まずい、まずいよ」
 迷子に記憶喪失。最悪だ。
 もしかしたら死ぬかもしれない状況下で、ここがどこかもどこに行けばいいのかも分からないときた。
 混乱し、パニックになりそうになる頭をどうにか鎮める。ただでさえ絶望的なのに、ここにパニックなんてくわえたらもう終わってしまう。
「まずは、ここを出ないと」
 それでどうにかなるとは思えない。だが、何かしら行動を起こさないと、私の心は途端に崩壊してしまいそうで。
 だから、目標を立てた。
 まず森を出る。どうしようもない難関だけど、ここをどうにかできないなら他もどうにもできない。
 そして交番に駆け込む。森林の死体ならともかく、生きている人間の身元捜索くらいはやってくれるだろう。
「じゃあ、出よう」
 まずは傾斜に沿って山を下りよう。方位磁石もなければ太陽も見えないから、咆哮は分からないけど。山を下りるくらいはできる。
 そう考えて、一歩、踏み出して。

「そこのお前、何者だ」

 鋭い、猟犬のような声を聴いた。
 ああ、人に出会えた。そんな喜びは、しかし直後に現れた剣で吹き飛ばされた。
 剣。日本刀の幅を広くしたようなそれ。ギラギラ輝いて、刃先は首なんてあっさり飛ばせそうなほど鋭くて。
 それが背後から、気が付いたら伸びていた。わずかに、皮膚が切れる痛み。感触が確かなら、刃は首にあたっている。
「え?」
「何者だ。答えろ、侵入者」
 侵入者。彼女はそう言った。私をそう呼んだ。
 侵入したのか、私は。この場合は、誰かの土地に、だろうか。
 この山は、もしかして誰かの私有地だった? それで、私のことを侵入者と。
 記憶がないから、それの真偽はわからない。背後の誰か、おそらくは女性の言動が信用できるものなのか、私にはわからない。
 と、思考にふける私のことを、とぼけているとでも勘違いしたのか。
「答えないのか? ならばその首」
 貰い受けると言わんばかりに、刃を少し引いた。紙の端で指を切ったような、鋭い痛みが走った。
「ち、ちが、違う」
 声がうまく出ない。舌がうまく機能していない。呼吸も荒い。
「私、侵入者じゃ、ちがう。気づいたら、ここにいて」
「だんまりの次はいいわけか?」
 言葉。氷を連想する冷たさとともに、私の背筋を悪寒が走る。
 心臓が早鐘を打つ。首筋が、本当に切られてしまったかのように痛い。
 心の底から恐怖が湧き上がる。ああ、これが殺意っていうものなのか。
「違う、違う、違う私は、記憶が、なくて、何もわからなくて、迷子で、気付いたらここにいて、それで、それで」
 ああ、ああ。言葉がうまくまとまらない。言いたいことだけ泡のように湧き出して、処理できない口はとぎれとぎれに単語を呟くのみ。
「……ふむ」
 それでも、何か伝わるものがあったのか。
 背中の悪寒は薄らいだ。彼女の言葉にも、少し温かみが見えた気がする。
「迷子、迷子のか。この山で迷子とは。そのうえで記憶喪失。ここの妖怪とは思えないし、また八雲殿のいたずらか、はたまたた勢力からの密偵か。とにかくいち白狼天狗が判断すべきことではないかもしれないな」
 何かを彼女は言っていた。何かはわからない。悩んでいるのはわかったが。
「……ふむ。君」
「は、はい」
「その話、真か?」
 悪寒が、再び膨れ上がる。嘘なら殺すと物語る。
 どうして嘘をつけるだろう。この状況で。私のような小娘が。
「嘘じゃ、ない。違う。本当に」
「わかった。信じよう」
 涙さえ浮かんできたとき、彼女はそう言って、あっさりと刃を引いた。悪寒は消えている。
「あ、あれ?」
「君。これから私の上司、天魔様に会っていもらう。いいな?」
 頷いた。否定なんて選択肢はおそらく私にはないだろう。これが唯一、私が生きていける選択肢だと、本能が語ったから。
 頷いて、頷いて。何度も何度も、首が痛くなるほど頷いた後、『天魔ってだれ?』なんて疑問が湧いたが、問いかけるタイミングはすでに逃していた。
「よろしい。ではついてこい。侵……名前は?」
 言葉にはすでに冷たいものはなくなっていた。堅物の印象を受ける声だけど、その奥には優しさが感じられる。
 証拠に、今彼女は言いなおした。侵入者と呼びかけて、修正した。
 きっと、先ほどまでのものは業務用のものなのだろう。ならば納得だ。警備員か何かの仕事をしているなら、口調が厳しくなるのは当然だ。悪漢に優しくしても徳はないだろう。
「私は、夜々と申します」
 言って。ああ、振り返るのを忘れたと気付く。失礼なことをしてしまったか。
「私は白狼天狗の犬走椛だ」
 気にした様子はない。よかったと胸をなでおろして。
 白狼天狗って、何?
 そう疑問に思って、振り返って。


 白い髪、白い犬耳、白い尻尾。
 見たこともない服に剣と盾を手に持った、コスプレ少女がそこにいた。


 変わった制服ですね?
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