2011年11月04日 (金) 19:38
こんにちは、らいとてん、です。
「So what?」第33話を投稿し……て、一週間経ちました。
次回更新は11/20を予定しています。
来週に資格試験があるため、引き続きマイペース更新が続きます。
モニカ共々耳まで伏してお詫び申し上げます。
あ、伏せた耳をヴォルデがツンツン突いています。
いい年をして何をしているんでしょうか、銀狼騎士団団長ともあろうお方が。
モニカが耳をピクピクさせてあっちに行っていてー、
とコソコソした声で鳴いています。
いいのか? とヴォルデが彼女の耳に口を寄せて囁きます。
「実は今日、魔力の吸収過多で魔物化した牛を討伐したんだ。
これから団員達と思いつく限りの牛肉料理で宴会をする予定なんだが
……そうか、モニカは不参加か」
口元がニマニマしていますよ、団長様。
耳がピクピクしていますよ、モニカさん。
今後とも天然バカップルともどもSo what?を
よろしくお願いいたします。
***『第二王女とアルクィン』****
『おおきいの』は、人間が大嫌いだった。
彼は仔犬となった体を精一杯縮ませて、王庭の茂みに身を潜めていた。
濃緑に閉ざされた視界の向こうから、「御仔様ー!」と声を張り上げ、
彼を探す官吏達の声がしている。
ふるふると震える『おおきいの』は耳を伏せ、瞳を閉ざした。
(……魔の森に、温かな巣に、戻りたい)
前足に顔を埋めて、だって、と彼は思う。
(モニカ姉さんを、攫ったのは、人間だった)
(なのに、なんで、モニカ姉さんは人間なんかと盟友になったんだろう)
(最近『みみなが』と『ちいさいの』は、
盟友になった人間と遊ぶのだと忙しそうだし)
(『おなが』は女官達と湯あみとかブラッシングをしてばかりいる)
まだ王都に来て三日しか経っていないというのに、
兄弟達は次々と人間と盟約を結んでいた。
『みみなが』こと『バルトロ』は、
人間の王国に到着した日に、
謁見の間で第二王女に馬乗りになって盟約を結んだ。
『ちいさいの』こと『リーナス』は、
二日目に、
人間の戦いを見るために行った闘技場で訓練中だった第一王子を気に入り、
その場で盟約を結んだ。
『くろいの』など、
自分たちがこちらに来る前に、自分で盟友を選んでしまった。
まだ契約をしていない自分が置いていかれてしまうような気がした。
今まで自分達だけだった家族の輪に、人間が次々と入ってきた。
自分だけのものだった家族が、人間にとられた気がした。
みゅぅ、と『おおきの』は小さく鳴いた。
結局のところ、『おおきいの』は寂しかった。
兄弟達の中で一番大きな幼獣は、一番の寂しがり屋でもあった。
「御仔様ー!」
随分遠くから官吏が呼ぶ声がした。
まだ『おおきいの』を探しているらしい。
(そろそろ戻らないと)
はぁ、とついた溜息に銀のヒゲが揺れる。
自分は、はたして『御仔様』でもなく『おおきいの』でもない名を
得ることはできるのだろうか。
憂鬱な気分で『おおきいの』は匍匐前進で茂みから這い出た。
銀毛に絡みついた土や葉を口でくわえて取ろうとした彼の頭上に影がさす。
紫色の瞳をきょとんと丸くさせた彼を見つめていたのは、幼い少女だった。
「こいぬだー」
へ、と思った瞬間に抱き上げられ、むぎゅっと抱き上げられた。
何が起きたか分からない彼を胸に抱えて、少女は足取り軽く王宮へと向かう。
何かを楽しそうに口ずさみながら。
後に知った彼女のお気に入りの童唄は、仔犬と王様が骨付き肉を奪い合う
という、よく分からない内容だった。
契約を未だ成しておらず、魔力の込められていない人間の言葉の意味は分からなかったが、彼女が随分とご機嫌なのは分かった。
見上げた瞳は、兄弟たちと同じ紫色で、
太陽の光を受けて透明に澄んで輝いていた。
ご機嫌な少女の歌声と、
幼い子供特有の高い体温に、
抱きしめらたまま、ゆらゆらと揺れながら『おおきいの』は思う。
(人間の歌う鳴き声も、悪くない)
そのまま眠りに落ちた『おおきいの』は、知らなかった。
幼い少女が第一王女であることも、
第一王子と双子である彼女は、第二王位継承権者であることも、
彼女の天真爛漫な奔放さに自分が振り回されつつも、
エミリアだから仕方が無い、と自分が幸せそうに耳をへたらすことも、
何も知らず、寂しがり屋の幼獣は眠りについた。
春の日差しの中、温かなぬくもりに包まれて、
幼子の楽しげな歌声を耳に響かせながら。
コラボを頂きまして、ありがとうございます!
わーい、ナギさんが遊びに来たー、と幼獣達がわっさわっさと尾を振っております!
次回更新は、11/20を予定しています。
モニカともども、頑張ります!
遅くなりましたが、以下、返礼コラボです。
***『朋友、異界より来たる有り。また楽しからずや』***
あむあむと牛肉を食んでいたバルトロは、ふと視線を感じて顔を上げた。
そこにいたのは、最近できた異界の盟友だった。
名を、ナギという。
(お、また遊びに来たのか)
なぜか彼を見つめたまま動かない彼女に、バルトロは小首を傾げた。
(もう怯えている訳でもないみたいなのに、なんでこっちに来ないんだ?)
そのまましばらく考えた末に、まぁいいか、とバルトロは風の魔力を呼び起こした。
(良く分からないけど、餌で釣ったら来るだろ)
手近にあった牛肉とジャガイモのパイを浮かせると、そっと彼女の前に差し出す。
と、同時に、自分の前に骨付き牛肉が差し出された。
いつの間にか、目前までナギが来ていたようだ。
(これは、喰えってことか?)
差し出された肉に、バルトロは紫色の瞳を瞬かせた。
お互いに固まること暫し、一人と一匹は同時に笑いだす。
バルトロの笑いには、少しの照れが入っていた。
***
腹を抱えて笑う異界の朋友に、
バルトロは紫の瞳を細めて喜びの咆哮を上げた。
我が盟友が、遠く異界から遊びに来てくれた。
なんて楽しいことだろう。
彼女に楽しんでもらおうと、慣れない頭を絞った。
そうしたら、どうやら彼女も、自分を喜ばそうとしてくれていたらしい。
なんて、嬉しいことだろう。
彼女が、己の前で、怯えることなく、腹を抱えて笑っている。
なんて、幸せなことだろう。
***
ご機嫌なバルトロは、周囲から自分が気に入った料理を
次々と浮かび上がらせ、ナギの前に並べた。
仲良く料理を分け合い、時に料理談義に花を咲かせる一人と一匹に、
周囲の幼獣達は、目を合わせて、ふふっ、と小さく鳴いた。
満腹になった天狼一家と異界の竜の娘が、
王庭の大樹の下で昼寝をするのは、もはや恒例であった。
珍しく、そして、初めてだったのは、
竜の娘が枕に選んだのが、バルトロであったということだけだった。
満足そうに眠りに落ちる一人と一匹に、
周囲の天狼達は瞳を細め、彼らと同じ夢の世界へと旅立った。