2023年03月25日 (土) 19:39
調査と把握のし直しを進めているのだが、「このはと」世界において大日本帝国海軍とアメリカ合衆国海軍は明確に「フロム・ザ・シー」と「エア・シー・バトル」という二つの戦略ドクトリンに基づく艦隊運用を行わざるを得ない方向に舵を切っている。
これは航空母艦という代物が「艦隊決戦」から「沿岸航空支援」という運用方法の転換を余儀なくされたことによる。その原点はバルカン戦役における欧州派遣艦隊のアドリア海において戦訓を得たことによると言っても良いだろう。
陸上兵力の上陸支援、上陸後の航空機による近接支援、艦砲射撃による沿岸抵抗拠点の粉砕、海上封鎖の四点がこのバルカン戦役において確立されたと言っても良い。
複葉機による攻撃であったとは言えども、100機単位で敵地上空に進出し、地上部隊と連携しつつ抵抗を排除していくことは文字通り史実44年頃からアメリカ合衆国海軍のドクトリンそのものであり、戦後に至って冷戦時代には「フロム・ザ・シー」として確立された。
史実のポスト冷戦時代においては地上においては「エア・ランド・バトル」が確立されるが、海上においては「エア・シー・バトル」が構想され、ポスト「フロム・ザ・シー」を担うドクトリンとして確立されつつある。
その「エア・シー・バトル」は基盤を「フロム・ザ・シー」が担うが、時代と時流に即した変化を遂げ、多段階構想となっている。
海幹校戦略研究2011年12月を基礎にまとめてみると以下のようなモノとなる。
■第1段作戦
a. 米軍及び同盟国軍は先制攻撃に耐え、基地及び兵力の被害を局限する。
先制攻撃の兆候を捉え、空軍機は一時的に中国のミサイル攻撃圏外の飛行場(テニアン・パラオ、サイパン等)へ避退する。この間、海軍及び同盟国のイージス艦は、地上の部隊とともに前方基地のミサイル防衛に当たり、潜水艦は、対潜水艦戦等の任務に従事するため所要の海域に展開する。
本構想上のネックは、敵の大規模な先制攻撃に在日米軍及び自衛隊施設が耐え得るかという点にある。そのためには、米軍が避退できる時間的余裕をもってミサイルによる先制攻撃の兆候を察知し得るシステムを構築するとともに、グアムや日本にある所要の指揮通信システム及び主要基地の抗たん性、回復能力の向上、さらには基地施設の分散化が求められる。
b. 中国軍の戦闘情報ネットワーク(Battle Network)を盲目化する。
JASBCにおいては、戦闘の鍵を握る緊要な目標を捕捉し、攻撃すること
(Scouting Battle)が戦闘の中心となる。作戦の重心は、敵の戦闘情報ネットワークを盲目化し、戦闘情報ネットワークの優越を獲得することにあり、本作戦における緊要な目標は、中国のアクセス阻止戦略のアキレス腱となる遠距離情報偵察・攻撃システムである。
作戦は宇宙・サイバー空間及び水中を含んで遂行され、地上施設への精密爆撃やサイバー攻撃、電磁攻撃、さらには水中通信網の破壊等によって敵の宇宙監視システム、衛星破壊システム、OTHレーダー及び情報通信網等を無力化する。
c. 中国軍の遠距離情報偵察(ISR)・攻撃システムを制圧する。
敵のミサイル脅威に対抗して空母を含む海軍の重要目標の行動の自由を確
保するため、空軍は敵の宇宙配備型洋上監視システムの盲目化を図るとともに遠距離打撃兵力によって敵の情報通信網及び攻撃システムを無力化する。加えて、陸上基地の被攻撃機会の低減を図るため、スタンドオフ兵器や長距離精密爆撃によって敵の地上配備型遠距離水上監視システム及び弾道ミサイルの発射基を破壊する。海軍の潜水艦及び空母艦載機(航続距離の長いステルス機を運用している場合)等は、空軍による敵の防空システムの攻撃を可能にするため、敵防空システムの偵察及び攻撃支援を行う。
d. 空、海、宇宙及びサイバー空間を制圧し、維持する。
各種作戦を継続する。この際、空母艦載機は空中給油機や支援機の活動を可能にするため、UAV等の敵偵察機及び戦闘機を攻撃する。
■第2段作戦
a. あらゆる領域において主導権を奪回し、維持する作戦を実行する。
日本の防空及びミサイル防衛機能を強化するとともに、制空権を東シナ海から琉球列島まで拡大する。さらに、弾道ミサイル撃破及び遠距離情報偵察・攻撃システムの制圧作戦等を、スタンドオフ及び突破型の攻撃を併用して継続する。航空機による水上打撃戦及び琉球列島ラインのバリアを中心とした対潜水艦戦を継続的に実施する。
b. 「遠距離封鎖(distant blockade)作戦」を遂行する。
中国が輸入する石油の約80%はマラッカ海峡を経由している。米軍及び同盟国は、南シナ海からインド洋にかけてのチョーク・ポイントにおける封鎖を企図し、空軍は、ステルス爆撃機による機雷の敷設等によって海軍の対潜水艦戦や封鎖作戦を支援する。
c. 作戦レベルにおける後方支援態勢(兵站)を維持する。
基地機能を維持するため、同盟国を含む地上部隊は、基地被害の早期復旧を図る。また、通商ルート維持のため、同盟国及び米海軍は、対潜水艦戦を中心として重要航路及び港湾の防護にあたる。
d. 工業生産量(特に精密誘導兵器)を向上させる。
これを前提に考えると、「このはと」世界におけるアメリカ合衆国海軍に迫られている内容に概ね合致すると言っても良いだろう。
第一段階作戦の以下の項目はそれぞれ「このはと」世界においてその性格が変化するが、基本的な本質は変わらない。
■敵のミサイル脅威に対抗して空母を含む海軍の重要目標の行動の自由を確保するため、空軍は敵の宇宙配備型洋上監視システムの盲目化を図るとともに遠距離打撃兵力によって敵の情報通信網及び攻撃システムを無力化する。
→遠征艦隊の行動の自由を確保するために、超重爆によって内陸地域などの航空基地を粉砕し、航空偵察を含む敵航空戦力の行動を制限する。
■陸上基地の被攻撃機会の低減を図るため、スタンドオフ兵器や長距離精密爆撃によって敵の地上配備型遠距離水上監視システム及び弾道ミサイルの発射基を破壊する。
→地上戦力の展開地域への攻撃を防ぐため、遠征艦隊の艦砲射撃及び航空攻撃、超重爆による敵抵抗拠点及び橋頭堡となる根拠地を破壊する。
第二段階作戦についても既存の戦略と戦術に基づいた時刻戦力の優性維持、敵兵站線を日干しにする、自国戦時生産力の工場を図ると言ったものだ。
特に大事なのは第一段階作戦の部分であり、これを支えるためにフィリピン及びグアム、その後方根拠地であるハワイの基地能力の向上と敵からの攻撃への抗堪性の確保が重要となる。
また、アラスカ経由での海上及び航空輸送における重要な拠点となるカムチャツカについてもその重要性を増すことになるが、真っ先に狙われることから、いざ戦時となった場合は展開している航空戦力などをアッツ・キスカなどに後退させる必要性がある。
ここで重要なのは海軍戦力は必ず航空戦力と共に展開し、地上部隊の支援をしつつ仮想敵国の海上戦力及び航空戦力に対抗するということである。
史実現代における「エア・シー・バトル」は支那に対する戦略であるが、「このはと」においてもこの概念を適用するにあたって適当な戦場はやはり極東地域に限定されると言っても良い。
仮にアメリカ合衆国の仮想敵国を大英帝国やドイツなどとしてだが、アメリカ合衆国は欧州において前進拠点を有していないことから適用するのに適切な戦場であるとは言えない。
仮に適用する条件を考えた場合、西アフリカないしアイスランドなどを前進拠点とする必要があり、その場合、そもそも海軍戦力のみでこれらの地域を確保することが必須条件となる。
よって、大西洋戦域を考えた場合、航続距離10,000km以上の超重爆を用意する必要がある。また、そうでないならば、地上支援用の航空戦力を満載した航空母艦をダース単位で建造する必要性が生じる。
また、その特性上、艦上攻撃機(雷撃機)の必要性は低下し、逆に艦上戦闘機及び艦上爆撃機の需要が高まる。特に地上支援と制空権確保のため、艦上戦闘機は爆戦仕様が標準とされるだろう。
艦上爆撃機についても小型爆弾を複数装備するか、対地ロケット弾の装備を求められ、よって、大型爆弾の搭載は求められないことになる。また、その運用から翼及び胴体下面には装甲を貼ることで対空射撃に耐えることを求められるのではないだろうか?
ここまで考えたとき、アメリカ合衆国は航空母艦の建造を再開する可能性は高いと考えるが、その場合、エセックス級をダース単位での建造ではなく、ミッドウェー級(アングルドデッキにあらず)を数隻建造する方向性の方がより合致すると判断出来よう。
あれは例外だと思った方が良い。というか、瑞雲や晴嵐も含めてだけれども、あんなのを水上機の一般常識に加えると駄目だと思うよ。あれを標準だと思い込むと艦隊シリーズに突入する。