書籍版・戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。10巻記念SS 見え始めた光明
2025年03月26日 (水) 09:05
Side:織田信秀

 一馬らの婚礼まであと二日、三郎の婚礼以上の慶事となるほどの賑わいがある。

「お騒がせして申し訳ございませぬ」

 騒がしいことを守護様に詫びるために参上したが、ご機嫌は悪うないらしい。

「慶事の祝いは賑やかなほうがよかろう。わしも楽しんでおる」

 数日に一度は顔を合わせるが、武士としては大人しすぎると思えるほど穏やかなお方だ。かつてと比べると憂いがない日々ということもあろうが。

「そなたも面白き男よ。主でありながら家臣のようでもある。己が家を傾けても久遠を守るのか?」

 守護様からは左様に見えるのか。まあ、間違いではない。

「傾けるほどの家ではございませぬ。所詮は清洲三奉行だった父上が残した家。なにかあっても某が父上に叱られれば済む話」

「その覚悟こそ、そなたの強みであろうな」

 斯波家では出来まいな。だが、織田ならば出来る。久遠と共に生きるか、死ぬか。破戒僧ばかりの坊主を信じるよりはよかろう。

「その齢で夢を見て日々を生きる。羨ましい限りじゃ」

 夢か、それはそうであろう。一馬らと生きると夢のような日々だ。夢から覚めるように、いつか消える日々かもしれぬが……。

「わしも夢を見たいの。そなたらと共に」

 守護様……。

「叶うことでございましょう。守護様は我らの主でございますれば。もう少し申せば、我らは共に生きることを望む者は拒みませぬ」

 此度の婚礼はただの婚礼ではない。わしの覚悟を諸国に示すもの。地獄のような乱世に挑む決意を以て迎えるのだ。

 そう、これはわしの戦なのだ。一馬らと共に日ノ本に挑むための。

「面白いことになりそうじゃの」

「はっ、退屈だけはしないかと」

 一馬と会うことで守護様はお変わりになられた。諦めにも似た心情であったはずが、胸の内に光明があるようにお見受けする。

 一馬よ。やはりそなたはこの乱世を収めるために天が遣わした使者なのかもしれぬな。

 守ってやる。あやつの見据える世がくるその日まで。

 必ずな。


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