2012年04月26日 (木) 15:49
そろそろネタバラシしていきますよー!本格的にネタバレしていくのは、次回からですね。こうご期待…!?
『椿~』と『植生』を読み返していくと、何だか齟齬…と言うか、矛盾点が出てきています。どちらかと言えば基準を『植生』に持って行きたいと思っているので、近いうちにまた『椿~』の細かい点を修正していきます。と言っても、話の筋は変わりません。今の所の変更点は、各キャラクターの年齢云々です。
たくさんのご感想ありがとうございます。
まさかのあゆ批判(きよたんとナイスカップル)をたくさん頂き、作者としても多いに笑わせていただきました。ありがとうございます。
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「お久しぶりです、鈴木様。社長よりこちらでホテルまでお送りするよう言われておりますので、どうぞお乗り下さい」
にっこりと笑って黒塗りのレクサスの後部座席を開けて、腰を折って清仁に挨拶をしたのは織田社長の第一秘書の男。
清仁よりも年上で、多分40代半ばくらいだろう。彼とは数えるほどの面識はないが、辣腕と業界内では評判の男で、秘書の席に身を置いているのはもったいないとありとあらゆる業種から引き抜きの話をもらっているのだが、本人はそのいずれも受けてはおらず、未だ織田社長の元で仕事をしていると聞き及んでいる。
そんな男が自分に頭を下げている光景を、会社の入り口の真ん前でやっているのを見て驚くのも当然だと言える。今も、退社していく社員の好奇の視線があちらこちらから飛んでいる。
上昇志向の高い清仁にしてみれば、もらったオファーを吟味し最終的には会社を辞めてでもいい方を取るだろうと断言出来る。それをしない秘書の気がしれないと思ったが、流石に本人からそう言った込み入った話を聞けないだろうし、そもそも織田社長の第一秘書を勤めているのだからこの男も一筋縄ではいかないはずだ。
実際今隣にいるあゆには見向きもせずに、清仁だけに視線を向けている。それも表情では笑んでいても全く目が笑っていないのを見ると、ほとんど自分達の関係は知っているのかもしれない。
まあ織田社長に呼び出された時点で、どういった話になるかはあたかた推測出来ているので今更ジタバタしても仕方が無い。
溜め息を尽きたいのを我慢して、かさりと音のする胸ポケットを確認するように手を置いた。
昼休みにいったん自宅マンションに戻って離婚届を取りに行き、その場で空欄箇所に署名捺印し、それを封筒に入れてスーツの内ポケットに入れて、荷物のない殺風景なマンションを後にした。
離婚届に自分の名前を書く瞬間、躊躇いが無かったと言えば嘘になる。
あの仰々しい結婚式で、神に誓った結婚は僅か半年で決裂してしまった。理由は自分の浮気だが、それを責めた怜子のあまりにもあっさりとした豹変ぶりに驚く前に、彼女は離婚届を置いて出て行った。話し合う、合わない以前に彼女は自分の前から姿を消したのだ。
今になり冷静に考えてみると、持ち込まれた見合いの好条件に舞い上がり、怜子自身を全く見ていなかった事がわかる。あゆと付き合っていたのもあるし、単に政略的な結婚だとどこかで自分に都合の良い様に言い聞かせていたように思えるし、それで彼女に対してあんな冷淡な態度も取れたのだろう。
だからこそ、記憶喪失になった怜子が激変したことに頭が付いて行かず、今までとなんら変わらずにあゆとの生活を選んだ。
今更後悔したって遅いし、怜子とあゆを天秤にかけたら俺は間違いなくあゆを選ぶ。
「帰るのか、鈴木。って、凄い車だな。今からどこかお偉いさんとの会食か?」
面白そうに呼びかけられた声に振り返ってみると、そこにいたのは笑顔の赤城さんだった。まあ運転手付きのレクサスが会社のど真ん中に停まっていれば誰だって驚く。赤城さんにまでこんな光景を見られるのは流石に気まずいと思い、悪いと思ったが適当に挨拶を返し、さっさとあゆを車に乗り込ませようとしていると、織田社長の秘書の男が「赤城…?」と声をかけた。
あゆを車に乗せ、俺も乗ろうとしていると、赤城さんが車の近くに寄って来た。どこか厳しい顔をした赤城さんの目は、何故かいつも以上に冷たく見える。そして赤城さんの目的は俺ではなく、車の横に立って自分の名前を呼んだ彼らしい。彼は俺が乗り込んだ瞬間に、さっさとドアを閉めたので彼等の会話は聞こえなかった。
「松浦……久しぶりだな…」
「赤城。お前、帰って来てたのか。」
「つい最近な。で?なんでうちの鈴木と田辺を?」
「詳しいことは話せないんだ。悪いな」
「相変わらずだな、お前も。あの男も」
「………そのうち、な。機会があったら連絡する。じゃあ」
「ああ」
あゆと二人で何を話しているのか気になったものの、直ぐに話は終わったのか早々に助手席に乗り込んだ彼は運転手にTホテルまで行くように告げ、そのまま赤城さんに見送られる形で会社を後にした。
「あの。うちの赤城と、お知りあいなんですか?」
「その質問にはお答えしかねます」
「……その答えって、暗にイエスって言ってるように聞こえるんですけど…違うんですか?」
「田辺くん、止めないか」
俺が軽く注意すると少し機嫌を損ねたようなあゆは、ぷいっとそっぽを向いた。どこか子供っぽい素振りにイラッとしたものの、今はとりあえず敵中の真っ只中だ。欲しいものを得る為には墓穴は掘られない。
「知りたいですか?」
「はい?」
「私と赤城の関係ですよ」
「え、いや…別に…」
「知りたいのなら教えてさしあげます。彼が当時付き合っていた彼女との間を破局に追い込んだ張本人なんです。私はね」
静かに車がホテルに停まった。
記憶喪失の件も気になりますね!織田社長が何を考えてるのか…れいこさんも何で結婚したのか…もう気になることが山積みです!
ワクワクしながら次回作を待ちます!