2012年05月01日 (火) 11:03
大型連休、いかがお過ごしですか。北東北にもようよう桜前線が到着しまして、ただ今満開です。
ただ、私はというと、花粉症のために外に出たくなく、むしろインドア全開で執筆作業をしております。
短編を書きたいなーと思っているのですが、話を纏めきれないという悪循環に陥っており、未だ手付かず…。ぬあー…。
さて、タイトルどおり、次回からネタバレが始まります。プレタイトル『逆襲の怜子』、お楽しみに。
感想くださっている方々、ありがとうございますー!
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呼び出されたTホテルというのは、国内屈指の超有名老舗ホテル。来日する海外セレブやオスカー俳優などの直接指名もさることながら、やはりここが有名なのは、スタッフのさり気ない心遣いだと俺は思っている。
現に今こうして姪の夫である俺と浮気相手のあゆが、このホテルをいつも利用しているであろう織田社長を前にしても、気の利いたスタッフ達の表情は全く微動だにしないほどのポーカーフェイス。
とは言え、腹の中では邪推されていることだろう。何せ、俺の結婚式はこのホテルで挙げたのだから。
「元気そうだね。怜子が病院に運ばれたと連絡があってから、それまでは全くのご無沙汰だったから…3、4ヶ月ぶりかな?」
「そうなりますね。私のほうも忙しかったものですから…」
「ま、そうだろうね」
そっけなく言葉を切った織田社長の隣は空席で。だが、もうその場に座る人物は既にわかりきった事。今更動揺することもないだろう。
どうせこの場は俺が浮気したことに対する糾弾の場でしかなく、その腹は当に括っている。惜しむらくは結婚することで得るはずだった役員の座だが、今の職場でも十分に働き甲斐はあるし、給料も同期の連中から比べたら貰っている方だとの自負はある。
それに赤城部長が数年の後、上級役員に選任される算段がついている中で、次の部長の座は俺が最有力だと言われているのも知っている。ただ、今回のこの離婚でその考えは改めないといけない。何故なら、あれだけ派手に結婚しておきながら、僅か半年で離婚。しかもその離婚の原因が、部下との男女関係では正直シャレにならない。
百歩譲って上層部が個人の価値観だと判断して何のお咎めがなかった場合でも、あゆに対する周りの評価は今までとは全く違うものになるだろうし、最悪の場合、俺もあゆも本社勤務から外され、左遷される可能性だってあるのだ。
それを踏まえれば、早まったとしか言い様が無い。
だが、自己保身だ何だと言われようが己の身は誰だって可愛いに決まっているし、それを否定されたとしても俺の考えは変わらない。ただ、そうなるとあゆと別れなければいけないとなると少し話が変わってくる。
あゆと付きあったことに後悔はないし、むしろ後悔と言うのであれば結婚相手を違えた事を後悔している。怜子と結婚したのは単に、甘い蜜の如き役員の座であって、決して怜子という人間と結婚したかったわけではない。見合いをしてからたった2、3ヶ月で結婚まで踏み切ったのも、自分のポテンシャルがどれだけ上がったのか期待していたからだろう。必ずしも愛情などではない。
こう言うと、怜子の気持ちを踏みにじった最低な男だと自嘲するしかない。俺という人間は、常にこうして人の好意を踏みにじって生きてきたのだろう。だが、35年も生きてきて過去をやり直す事は出来無いし、これから先の人生でなんとかその性格を矯正していくしかないのかもしれない。
あゆと一緒に。
「遅れてごめんなさい。道路が渋滞してて、車が全然前に進まなくて」
「ああ、私達もこれから食事にするところだったんだ。むしろ丁度良かったよ。怜子が着物着たのを見るのは久しぶりだな」
「今日ちょっといい事があったからね。久しぶりに一張羅の友禅着てみたの。どう、似合う?」
「こうして見ると、どことなく多恵子ちゃんに似てきたなあ」
「お母さんに似てきたって言われてもねえ。最近メタボって来たから、甘いもの控えるように言ったんだけど、伯母さんが美味しいスイーツ差し入れたりするからー」
「ははっ、それはいかんな。和也にも悪いし、私から言っておこう」
伯父と姪が話しているのに、俺とあゆには全く話しかけない彼等に腹が立つ。一応この場は俺達夫婦の問題を話し合う場ではないのか。理不尽にも腹を立てた俺に対し、あくまでも冷静だったのは織田姓の二人だった。
ただ、怜子が着物姿で来たのには驚いた。今まで和装なんて見合いの席でもしていなかったし、結婚式の正装でしか見た事がなかったので、若い女には感じられない年相応の色気と艶さが怜子にはあった。思わず見惚れそうになるのをなんとか堪え、俺はおもむろに懐から封筒を取り出した。
「これにサインしておきました」
「あら、ありがとう。じゃ、これに署名捺印してね」
「…は?」
「きよたんとー、あゆたんのー、婚姻届~♪」
ワインを注ぎに来ていた給仕の手がびくっと震えたせいで、ワイングラスが床に落ちた。
あらあらと若干慌てた顔の怜子に対し、あくまでも笑みを浮かべたままの織田社長。その二人の顔を凝視していて身動きの取れない俺等の、全く楽しくない食事会の始まりのゴングが鳴ったのだった。
やっぱり野心はあっても男の方がロマンチストっていうオチ?
しかもたぶん怜子さん他にもイロイロ考えてるよね〜きっと…赤城さん絡みのことでも……
続き楽しみにしています!