続き『どりょう』
2012年05月18日 (金) 22:36
あと数話で終わります。
終わらせます。

さて、今回の話はちょっと怜子のエゴが満載です。元々エゴの固まりみたいな女なんですけど、あくまでも怜子の特異な考え方です。
私自身は子供に対してああも否定的ではありませんし、不妊カップルの方にはご不快の内容もございますので、読む際は注意してください。

『子供を持つ事に対して否定的』
『子供嫌い』

これらのキーワードが内容に含まれますので、苦手な方は今回ご遠慮願います。


次もきよたん視点にします。

* * * * * *

織田社長に呼び出された食事の場は、見事なまでに彼とその姪によって支配され、俺とあゆはと言えばほとんど一言も口を挟めなかったと言っても過言ではない。途中さすがに引っかかった箇所などもあり、そこは口を挟んだけれども、結局の所彼等の独壇場であったのはほぼ間違いないだろう。

まんまと敵中に丸腰で突っ込み、ほぼ自殺行為じゃないかとどこかで苦笑している自分を感じながら、それでも怜子の話を聞くしかなかった。


「いいじゃない。離婚したからって言っても伯父の会社に役員待遇で招かれるんだし、愛しのあゆちゃんとも結婚出来る。しかも、可愛い予定のジュニア付き!ついでに言うと、今まで住んでたマンション。あそこにあるものは全部きよたんの方で持ってていいよ。もちろん、マンションは賃貸じゃないから今までどおり住んでもいいのよ。あそこ子供育てるには持って来いよねー。公演とか近いし、幼稚園も側にあるし。あとね、慰謝料もろもろの請求はしないから安心して」
「…一つ、聞いていいか…」
「あら、何かしらー?」
「なんで俺と結婚したんだ」
「なんだ、そんな事が聞きたいの」


ふっと笑んだその顔は、どことなく意地が悪そうに見えた。と言っても、彼女自身を良く知るわけではないので、あくまでも約一年の付き合いの中での勘というものでしかないのだけれど。


「私ももう30越したし、結婚やら子育てやら、いい加減周りが煩かったのよね。一応バツイチだったら一度は結婚したんだって見られるし、私は元々結婚する気も子供を産む気も全く無いからそれで都合がよかったのよ」
「最初からそれが狙いだったわけか!?そんなことのために俺を利用したのか!?」
「そうよ。それの何が悪いの?」


悪びれもせずに言い放った元妻はいかにも涼しそうな顔でワインを飲んでいるし、隣にいるあゆはあゆで俺が解るほど怒っている。いや、あゆだけじゃない。俺だって頭にきている。
当たり前だ。
初めから全部怜子の仕組まれた計画の中で踊らされていた俺達。その計画は、計画者本人にしか融通がきかず、他者の心情は全くと言っていい程鑑みられていないものだ。
自己中もここまでくればいっそ天晴れだと思うけれど、それに自分が巻き込まれたことに対して怒りがわくのも当然のことだろう。

織田社長が言っていた、引きぬきたいほどの人材だと言われた事には素直に喜びを感じた。そして、その俺を姪の夫にすることで自社の役員として迎え入れてくれる準備もしてくれていたことにも、今更ながら頭が下がる。こうして怜子と離婚するに至ってもなお、俺を役員として起用してくれるらしい。どれだけ懐が広いんだと思う一方で、この腹黒い怜子の伯父だという事が俺の危険信号を黄色に灯しているのも事実。
あの人は確かに役員にしてくれるだろうが、名ばかりの役員だとか地方に飛ばされるような役職に就くくらいだったら、多少居心地の悪い思いをしても今の会社に残った方がいいのではないか。
その方が、生まれてくる子供のためにもいいはずだ。

…子供のことは、あゆから何も聞かされていなかったので正直驚いた。確かに避妊していても出来てしまうこともあるし、心辺りもある。離婚する今となっては、早々にあゆと籍を入れてしまわないといけないだろう。


「あんた、最っ低!!清仁を弄んだだけじゃないの!」
「言っておくけど、弄ぶほど一緒にいたわけじゃないわよ。あなた知ってるわよね?いつもいつも一緒にいたんですもの。残業した夜も、休みの日も、出張の日も」
「…っ!」
「私はね、いっつもご飯用意して待ってたわ~。だけど、『飯は食ってきた』だの、『疲れてるんだ』だの、『一人にしてくれないか』とか言われてたの。その理由は、あゆちゃん。あなたでしょ?あら、やだ。私すっごい可哀想じゃない?」
「な…っ、黙りなさいよ!何が可哀想!?全然可哀想じゃないわよ!」
「家事全般をやってくれる住み込みの家政婦みたーい。ひょっとしたらそんな風に言って笑ってたんじゃないのかしら?」


ぐっと言葉に詰まった俺達を見て、「あら当たっちゃった?」と笑った彼女はメイン料理を美味しそうに頬張っている。それがミディアムレアの和牛ステーキだったので、余計に生々しい。
見てきたかのように正確なので、盗聴器でも仕掛けられたかと思ったのだがさすがにそんなことはしていなかったようだ。


「でもー、子供産むんだぁ。偉いねえ」
「……どういうこと?」
「私絶対いやー。十月十日も自分の身体の中に人間を入れてるなんて。人間保育器よねえ。」
「その言い方…!」
「あゆちゃんってさ、一人っ子でしょ。今まで自分より小さな子の面倒みたことある?」
「…ない、けど…」
「私ね、妹が二人いるんだけど両親が共働きで忙しかったら、必然的に私が妹達の面倒みないといけなかったわけね。もー、あの子達のワガママったら本当うんざり。気に入らないことがあればギャーギャー喧嘩するわ、言う事聞かないわ、食べ散らかしたり嫌いな食べ物をあちらこちらに投げ散らかすわ…。おまけに『おしっこー』だ、『もらしちゃったー』よ。もう冗談じゃないってのよ」


カトラリーを動かし綺麗に肉を切りながら、昔の事を思い出しているようだ。しかめっ面の表情を見る限り、思い出したくない類の事であることは間違いないだろう。


「その時に痛感したのよ。私は絶対子供なんていらないってね。自分の時間を子供に取られるなんて真っ平御免だし、わざわざ子供っていう面倒なものを背負い込むなんて本当勘弁してって感じ。ガキの成長みて何が楽しいのよ」
「…あんた、それでも女なの?自分の子供が可愛くないわけ!?」
「可愛い、可愛くないの問題じゃないの。振り回すとわかっているのに、刃物持たせるバカはいないでしょ?それと同じ。愛情を与えてやろうと思わないのに、なんでわざわざ?あゆちゃんさ、女って無条件に母性あるって本気で信じてる?そんなのあるわけないじゃない。それに世界中の女に母性があったら、こんなに虐待で死んでる乳幼児っていないと思わない?」


なんて素敵な理想論、と吐いてワインを一口飲むと、給仕が食べ終えたメインディッシュを下げた。
ここまで怜子一人だけ高級フレンチのフルコース料理の堪能している状況だが、俺は全く食欲が無いために、カトラリーにすら手がついていない。
普段であれば、あゆと二人で一流ホテルの高級フレンチをワインを飲みながら堪能したであろうが、如何せん状況が状況。隣のあゆも怒り心頭で食欲どころの話ではなさそうだ。
だがあゆは妊娠しているらしいし、これ以上興奮させてはいけないだろう。そう思った俺は、デザートの皿が来て喜んでいる元妻に話しかけた。


「話はわかった。ただ教えてくれ。俺と見合いで最初に会ってから、今の今まで別人みたいだったわけはなんだ」
「んー………まあ、きよたんが伯父の会社での役員っていう美味しいおまけがついてきたのと同じく、私にも得るものがあったってことよ」
「得るもの?」
「まあ、お互い持ちつ持たれつってところよね」


季節のフルーツを存分に使ったデザートを食べ終えた彼女は「はー、美味しかった」と呟くと、グラスに手を伸ばしている。それを見ながら俺は不思議な感覚に陥った。
あれだけ大人しい性格をしていたのなら、黙っていても結婚相手はいたはず。織田社長の姪ともなれば、それこそ引く手数多だっただろう。それが目を掛けられていたとは言え、自分のような一般人との結婚は今更ながらに疑問点が沢山上がる。
そう言えば、彼女は笑いながらあっけらかんと答えてくれた。


「だって、イイとこのお坊ちゃんだなんだってなると簡単に離婚出来ないし。ましてや会社関係ってなると、伯父の査察が入るのは目に見えてるしねー」
「………じゃあ俺は…」
「きよたんが一番後腐れなさそうだったから。あ、勿論あゆちゃんと付き合ってるっていうことも事前に調査済み。それで別れて私と結婚、そのままでいれたら私も多少は結婚生活を続けようかなー考えたんだけどー。手は出さない、彼女と別れてもいない、おまけに妊娠でしょ?そんな男となんで夫婦でいなけやいけないわけ?」
「あんた、あたし達のこと知ってたわけ!?」
「会社にはうまぁ~く隠してたみたいだけどね、調べは付いてたわよ」


ではあの見合いの席で、すでに俺とあゆのことは怜子に知られていたことになる。と言う事は、改めて怜子の手の平で踊らされていたことになるではないか。
あんな記憶喪失だなんて、嘘までついて…!


「お前、俺の事なんだと思って…っ!」
「黙れ、男のクズ野郎」
「っ!!」
「大人しい性格してるからって浮気してもいいわけ?洗濯はしない。料理もしない。ゴミも出さない。お風呂の水も抜かない。買い物も行かない。更に言えば、愛人相手に性欲発散させるどころか、心情的にも愛人に向いているんだもの。そんなあんたにいいところなんて、一片たりとも無いわ!」


俺とあゆにキツイ一瞥をくれたあと、怜子はそのまま店を後にして出て行った。
その去り際一言だけ残し、しっかりと離婚届を袂に入れて。



「女の嘘には騙されてあげるのが、男の甲斐性よ。き・よ・た・ん☆」
コメント全4件
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かんな
2012年05月30日 09:55
いやはや。
きよたん撃沈の巻。笑
怜子さんの事を詰るだなんてお角違いなんじゃ…。
自分が玲子さんにしてきた事を思えば、怒れないでしょ(・_・;)

さぁて、赤城部長と怜子さんはいつになったら再会出来るのか!?
楽しみにしてます( ´∀` )
にゃんみ
2012年05月19日 06:42
あっぱれ!
の一言に尽きますね〜
きよたんもあゆちゃんもチェスの駒でしたね〜
他人の事は酷い扱いするくせに自分達が同じ扱いされたら腹立てるなんて身勝手過ぎ〜(笑)
利用しようとしたくせに…(フフフ)
この先は赤城さんが中心かしら?
それともまだ何か?
愉しみにしていますね!
きよたんとあゆ、今、ものすごく「騙されたのはこっちだ」などと憤っているんでしょうね。

でも、そんなばかっぷるには『「お互い様」だからね。理解しろ?』
これ以外の言葉がかけられません。
二人に怜子さんを責める権利はこれっぽっちもありませんよね。


怜子さんがこういう人だと言うことは、途中から気が付いていましたが……体を張ってネタを作り、それを作品にして稼ぐ作家と言う職業が天職ですねとだけ申し上げさせて下さい。

さ、残るは赤城氏関連ですね!
布禾稀
2012年05月18日 23:10
「怜子さん、大好きです!」
その一言に尽きます。
初めましてで、行き成りこの投稿ですみません。
読んでいたらつい・・・余りの格好よさに言いたくなりました。