落書き。「泉の門番」
2015年10月17日 (土) 22:53
羊毛で作った帽子をかぶった男は天界の門番をしていた。門番は口の周りに黒々とした立派なひげを生やした厳つい大男で、六尺もある棒を持っていつも門の前に立っている。
門の内側は若返りの効果のある泉があった。そして泉の水は霊薬の材料となる。
泉に訪れる人はまばらだった。来るのは年老いた仙人。仙人は泉の水で万能薬を作り、ついでに若返るのだ。

あるときずっとだれも訪れない日々が続いた。何年も続くので、みんな泉のことを忘れてしまったのかもしれない。
若返えりの泉の水がずっと気になっていた門番は、泉の水を使ってみたくなった。もう何年も人が来ないのだ、忘れ去られた泉の水を門番が少々頂いても構わないだろう。

門の中に入って泉を覗き込んだ。いつもかぶっている帽子を取ると、男の頭にはほとんど髪の毛が無かった。門番は若禿げだったのだ。若くして髪の毛を失った男の外見は、帽子をかぶっていた時に比べると老いて見えた。男はそれが悩みの種であった。黒々とした自慢のひげは男を威風堂々と見せている。そこに豊かな髪の毛さえあればもっと己に自信が持てると常々考えていた。
水面に映る自分の姿から目を逸らし、水をすくって頭に掛けた。ふさふさになるようたっぷりかけると、顔までびしょ濡れになった。
頭がむずむずして、門番はおそるおそる頭を触ってみる。すると手のひらにずっと忘れていた感覚、髪の毛の感覚があった。門番は喜んだ。

ばさり、と地面に何かが落ちる音がして、門番は地面を見た。地面には黒々とした毛が落ちている。頭を触ると髪の毛はしっかり生えている。この毛は何の毛なのだろうかと門番は顎に手をやって首をひねろうとしてあっと叫んだ。
顔の下側を覆っていた立派なひげが無くなっていたのだ。つるりとした皮膚は子供のような手触りをしていた。泉の水は掛かったところを若返らせていた。若返った頭皮は髪の毛を生やし、若返った顔の肌はひげが生えない。
ひげが無いと立派な男として認められないだろう。
門番は悲しみにくれた。


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みつに問題です。「羊」「帽子」「天界」の3つの言葉を含め、5ツイート以内で悲しい話を書きなさい。 http://shindanmaker.com/5279
※すぴばるで過去に呟いたのをちょっと加筆したので5ツイートの文字数を超えてます。
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