あけましておめでとうございます
2018年01月02日 (火) 00:24
改めまして、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
相変わらず更新が亀よりも遅いですが、今年も「里見水軍」を楽しんで頂ければと思います。

えーと、続きはもう少し掛かります。
ちょっと書きたいなーと思った事が浮かんでいてそっちに気が盗られているのもありますが……。あと仕事が忙しい。

即興ですが、小ネタを書いてみました。楽しんで頂ければ幸いです。

1.鍛冶師の意地

 安房国 館山造兵廠

「いや、確かに造れるかもと思ったけどさ」
「頑張りましたからな」
「ええ、全力で造りましたとも」

 目の前に鎮座するものを見て、実元は呆れた表情で言った。
 対して、鉄砲鍛冶師と木工職人らはみな濃い疲労の色が見えるものの、仕事をやり遂げた後の誇らしげな表情を浮かべていた。

 声を張る彼らの前に置かれているのは、里見家が主力砲として採用している三斤平射砲によく似ていた。左右に頑丈な木と鉄で造られた大きな車輪に隠れるように、中央の台座にはちょこんと小さな鈍い黒色に輝く砲身が乗っかっていて、そこから伸びる架尾が地面についている。
 
「砲身は角炉と大槌で製錬した鍛鉄です。要は鉄板を筒状に丸めて水車の大槌でドカドカ叩いて馬鹿でかい鉄砲を造ったという訳ですわ」
「(まさか本当に造るとは思わなかった……)」

 実元は内心呟いた。
 事の始まりは、実元が鉄砲鍛冶師に鉄製の大砲を造れないかと持ち掛けたのが始まりであった。
 青銅砲の鋳造に必要な銅と錫は全て輸入品であり、かなり値が張る。また青銅は鋳造しやすいが、鉄に比べて摩耗しやすく熱に弱い。そのため熱で砲身が簡単に歪まないよう、分厚く鋳造する必要があり、重くなってしまうのだ。
 鉄は九十九里浜周辺に砂鉄鉱床があるため、自給は出来る。また耐久性も高い。青銅砲よりも軽く出来上がる。

 なので鋳鉄砲の開発を進めていたが、これが上手くいかない。どうしても耐久性に難があり、試射の際に砲身が断裂したり、暴発してしまうのだ。
 どうやっても失敗してしまうので、実元ももう諦めていた。ただ、その時に「そういや戦国末期に鍛鉄の大砲を造ったとかあったな」という事を思い出し、駄目で元々と鉄砲鍛冶師に話をしたのだ。

 これに彼らは大いに奮い立った。
 当然、今までに三斤の砲弾を撃ち出す大砲など造ったことが無い。だが鋳物師が散々自慢する大砲の製作が出来る。それに、実元も「無理しない程度に」と出来なくても構わないという態度にいたく|矜持《プライド》を刺激されたのだった。

 かくして、彼らは鉄砲鍛冶師の中でも選りすぐりの者を出し、新しい三斤平射砲の開発に取り掛かったのだ。
 開発には幾多の困難を極めた。どうやって砲身の強度を確保するのか、時には必要な鉄と燃料が無くなって一時的に操業が止まってしまったり、時には犬猿の仲の職人が言い争いし、後に和解し共に切磋琢磨して開発を進めるなどドラマティックな話が合ったのだが、ここでは割愛する。

「はい。まず何といっても特徴は軽さです。青銅砲よりも口径が短く、水平で試射したところ射程はやや下がりましたが、代わりに砲弾も円弾だけでなく、霰弾も使用可能です」

 霰弾は中空の鋳鉄に火薬と鉛玉を詰めた砲弾だ。これは大砲で撃つ焙烙玉みたいなもので、火縄信管で起爆するようになっている。
 
 また砲身を載せている前車にも改良が加えられている。従来のは水平射撃が主体で、またノウハウが無かったことと砲撃時の反動による損傷を防ぐために仰角は抑えられていた。
 しかし、経験と技術の蓄積により、頑丈で軽い砲架の開発が進んでいた。また戦場で柔軟に運用できるよう仰角を大きくとれるようになっている。

「そいつは良いな。分かった。取り敢えずこっちでも試験するが、構わないか?」
「勿論ですとも。ただ、結果が良かったならば――」
「わーってるよ。ちゃんと報奨金を出すさ。楽しみにしておくといい」

 ワッ、と職人たちが湧く中、実元は思わぬ産物にこれで製造コストがちょっとでも減る、と心の中でガッツポーズをしていた。

 その後の試験が行われたが、結果は良好。軽い事から馬の負担も少なく、また柔軟に使える事から砲兵たちからの評価は高かった。
 鍛鉄砲は青銅砲より生産に手間がかかるものの、値段も青銅砲より少し安く、材料の鉄を自国で生産でき、また連続砲撃が可能で耐久性が高いことから陸軍では青銅砲と入れ替わる形で徐々に普及していく事になる。

コメント全1件
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退会済
2018年01月02日 07:50
明けましておめでとうございます。

鍛造砲ですか…
なんと言うか、日本の職人らしい発想ですよね。
未知の技術や材料を入手出来ないなら、既存の方法極めれば良いんじゃね?見たいな…

更新いつまでも待たしてもらいます。