2020年06月04日 (木) 00:44
長らく更新できなかった活動報告ですが、予告通り、久しぶりに書いていきたいと思います。
カーラマーラ編の一話目となる第698話『リスタート』が更新されたのが、2019年1月25日。そして現在、2020年6月……本当にここまで来るのに一年半もかかってしまいました。
元々、構想としてカーラマーラ編は長くなる予定ではありました。
記憶喪失のクロノがアッシュとして活動していくカーラマーラでの生活。それから、メインイベントである遺産レース編ですね。
このカーラマーラ編での一番の目的は、クロノがついに自分の国を得ることです。いわば国盗り、という一大イベントなので、そう簡単に一国を手中に治めるのは・・・というワケで、ザナドゥの遺産レースという、手段としては分かりやすく単純な、ストーリー的には色々と展開できる内容、として決めました。
カーラマーラという進んだ古代遺跡の国を手に入れる、というのは結構、昔から考えていたことですね。クロノが小さい村から、徐々に発展して魔王の帝国へ、という構想もアリといえばアリですが、アルザスの戦いが終わり、スパーダで『エレメントマスター』としての冒険者活動をメインとした展開上、村発展パターンは組み込めないなと、早々に断念した・・・様な気がします。
流石に七つの試練を越えた後に、小さな村から発展させていく尺もなければ、すでにダイダロス占領した十字軍がいるので時間的余裕もないとあって、現実的ではないですね。
もう一つ、初期構想を語らせてもらえば、カーラマーラという都市は、ザナドゥという成り上がりの冒険者ではなく、カーラとマーラ、という古代から続く使命を持った双子の姉妹が支配していて、クロノが魔王としての適性を遺産相続レースで示すことで、都市の支配権を譲り渡す・・・という展開を一番最初に考えていましたね。
この辺は古代と神代、それから魔王ミアの後の時代、古代後期から暗黒時代の始まりを迎えるまでに何が起こったのか、みたいな部分の設定を明かすつもりでもありました。
結果的に、欲望の黄金魔神カーラマーラという、神代の神に関する設定をやや開示するに留まってしまいましたが。※最後にこの辺についてネタバレ級解説アリ
古代の使命によって魔王を待っている、という存在に関しては他のところで使うことにしたので、カーラマーラ編はこれはこれで良かったかなと思います。
初期構想は色々とあったワケですが、個人的にカーラマーラ編はこれだけの長さをやっただけあって、私が書こうと思ったことは全て書ききったと思っています。本当に、長い間、お付き合いいただきありがとうございました・・・
ただ、今にして思えばそれも反省点でもあるかなと。
やはりカーラマーラ編の一番重要なのは遺産相続レースのくだりですので、その気になればアッシュの生活編をカットすることもできたワケですね。
記憶を失いレキとウルスラと出会った後、すぐに遺産レースが開始され、この状況を打破するにはレースに乗るしかねぇ! みたいなノリと勢いだけで始めてしまっても、さほど展開として問題はなかったのではと・・・
しかしながら、ゼノンガルトの『|黄金の夜明け(ゴールデンドーン)』、『シルヴァリアン・ファミリア』、オルエン、妖精ルルゥ、など、レースで関わるライバルに関して、事前にしっかり見せておけるのは、アッシュ生活編があったからこそでもあります。
いきなりレース構想だと、ゼノンガルトなどもいきなり登場して、凄さを説明した後に、勝負を決する、となんだかイマイチな感じに。うーん、こういうところは、漫画などの絵があるメディアなら、いきなり初登場でもインパクトある見せ方もできるので、そう悪くはなさそうですが、小説だとキャラの重みってのは積み重ねだと思うので、なかなか簡単にはいかないなと。
遺産レース編は、アッシュ編で事前にキャラ紹介と彼らの立場などが説明済みだからこそ、この尺とテンポで収まったのではなと思います。
長い前置きなりましたが、それぞれの話について詳しく解説していきましょう。
まずはクロノが記憶喪失になって、レキウルと合流する辺りのくだり。この辺は個人的には結構、気に入ってます。
なんか船襲ってきた子いるけど、関わらんどこ、と思うものの幼女の人質を見てすぐ考え翻してヒーロームーブする辺りが、一番クロノらしいかなと。単純な正義感と、自分にある力を分かった上で、実力行使に出られるのがクロノであり、主人公として必要な素養でしょう。
ウルスラがクロノが記憶喪失と見抜いて、このまま忘れたままなら独り占め、と企てるあたりも展開的にはスピーディで良かったかなと思います。
しかしながら、ここ以降の展開には、やはり私としても迷いが見て取れますね。
この頃、最も私を苦しめたのは、このクロノをどうやったら上手いこと遺産レースに参加させられるか、という理由付けです。
クロノは野心家でも何でもないので、ザナドゥの遺産ドーン!! とか言われても、ふーん、で終わってしまうんですよね。
だって『アッシュ・トゥ・アッシュ』で冒険者してれば安定収入なので、危険な橋を渡る要素が何一つありませんからね。十字軍と戦わねば、という使命を忘れたなら、クロノは安定志向でレキウルと子供たちの面倒見る生活に、一切不満なくやっていけたでしょう。
最終的には、シルヴァリアンに狙われ続けるという不安定な立場と、サリエルと遭遇したことによる危機感、大嵐による逃げ場潰し、と色々と複合的な要素でクロノを追い込み、オルエンに協力するという形で、レースの参加を決意させる流れにしました。
やはり、今でもこの辺の理由付けを作るのはなかなか苦しかったかなと。だからこそ、もう勢いでレース参加! という案が魅力的にも感じるわけで。なかなか、なにが最善だったのか、答えのでない難しい部分でした。
かなりの難産だったアッシュ編ではありますが、VS子殺しヒルダ、錆付き戦での虚砲お披露目、エミリアとの出会い、サリエルと遭遇でマジビビり、などなど、個人的に気に入っている場面は色々と描けたのは良かったです。
シルヴァリアンの刺客との戦い、特にヒルダ戦では、記憶を失ったクロノに対し、どんなに強くても全て救えるスーパーヒーローではないんだぞ、という現実を突きつける機会となりました。
カーラマーラ編最終話でクロノ自身がリリィへ語ったように、この理想のヒーローにはなれない、という無力感は結構、クロノを傷つけています。正義に燃える熱血さはあっても、残酷な現実を理解する理性もあるからこそ、自分の理想をそのまま貫けない、というのが今のクロノの心理状態ですね。
自分では全てを救えない、という諦めがあるからこそ、リスクを承知でリリィにカーラマーラを託す決断をしましたね。でもクロノ、お前が思っているよりヤベーにことなるから、その辺は覚悟しておけよ。
話を戻しますが、ヒルダ戦は黒の魔王らしいバトルだったなと思っています。普通に子供二人犠牲になってしまうところや、呪いの武器を速攻で寝取るところとか。
久しぶりに呪いの武器ストーリーも書けて満足です。
『蠱惑のクリサリス』の主、黄金の舞姫ファラーシャは、カーラマーラをはじめ、アトラス大砂漠周辺国家では、伝説的な女性です。ファラーシャゴールドスタジアム、など彼女の名前を冠したものは普通に色々と存在します。
真っ当な伝説として語られる人物なので、鉈先輩やヒツギと違い、明確にファラーシャという個人名も出しています。
伝説の踊り子、美女の代名詞、砂漠のシンデレラストーリーとしてアトラスではポピュラーなファラーシャですが、呪いの武器を生み出すことになるおぞましい後年の話は、あまり伝わっておらず、眉唾モノの話という扱いですね。多くの人々は、美しい踊り子が後に王となる超絶イケメンお貴族様と結婚してゴールイン、というハッピーエンドしか求めていませんので。
ヒルダに続き、殺し屋組みのトップエース、俺自身が呪いの武器だ、な錆び付き戦ですが、『虚砲(ゼロ・カノン)』の試し撃ちのためだけに作られた存在ですね。
いえ、一応、クロノ以外でも呪いの武器が存在しているというか、こういう奴もいるんだよ、という呪い業界の奥が深いところも見せたかったかなと。
『虚砲(ゼロ・カノン)』はクロノにとって初めての必殺技に足る黒魔法ですね。今までは鉈先輩に頼り切りだったから・・・でもシルヴァリアン戦で、やっぱり鉈先輩に頼るのが一番だったんだ、っていうのが明らかになるので、クロノが悪いわけではないです。
消滅、の効果は割と上々の反応だったかなと思います。クロノらしくないのでは、という意見もありましたが……まぁ、このテの能力は若干チート臭いところあるので、扱いが難しいとは思いますね。
その昔、『学戦都市アスタリスク』というラノベ原作のアニメを見ていました。主人公の使う武器の能力が、触れたものを消滅させる剣、みたいな感じだったので、設定的に派手に相手と鍔迫り合いみたいなことができない、というのが演出上、結構な制約になっている・・・という話を聞いたことあります。正確なところは分かりませんが。
ともかく、主人公の能力は強ければいい、というものではないんだなと感じた話でした。
その点、『虚砲(ゼロ・カノン)』は溜めが必要な大技なので、魔弾感覚でバラ撒くことはないので、まぁ大丈夫かなと思っています。必殺技は、ここぞ、という時に使うだけで十分ですよ。
エミリアについて。
正直、ほとんどただの思い付きで出した娘です・・・でもアッシュ編には、レキウルの他にメインになるようなヒロインが欲しいなと思ったのも事実です。
ゼノンガルトとエミリアの兄妹、という関係性も良かったと思っています。兄妹、というとやはり、ネロとネル、を連想させますが……リリィに負けて軍門に下ったゼノンガルトと、クロノに裏切られたと思ったショックで離れていったエミリア。これはネロとネル、それぞれのクロノとの関係性とは逆になった結末ですね。これで、ネロネルと同じように、兄貴が敵に、妹はヒロインに、となるのは面白くないと。
ゼノ兄さんについては後述するとして、エミリアについてはもう少し。
思えば、クロノとこういう風に対等な感じでお喋りできるタイプはかなり珍しいですね。強いて言えば、ニャレコやアテンに近い、でしょうか。
個人的に、クロノとエミリアの出会いである救出から第一階層脱出までのアレコレは、結構気に入っています。
ぶっちゃけ、この時にエミリアとお喋りしていた時が、クロノが人生で一番女の子と話して楽しかったんじゃないのかなと。
クロノを好きな女の子はこれまで沢山出してきましたけど、クロノって大体、女の子に対して遠慮がちだし、常に気を配って対応してきています。
白崎さんをはじめ、リリィもフィオナもそうですね。サリエルに至っては因縁もあって、今でも真っ直ぐ見つめるもの気後れするようなところありますし。
ネルは友達ですが、お姫様の肩書はどうしても意識しますし、受付嬢のエリナは仕事での付き合い+告白をフった気まずさも多少は。
レキウルは子供扱いなので。
リリィとの出会いはやはり特別ですが、それは「嬉しい」であって「楽しい」とはまたちょっと違うと言うか。エミリアは同い年の少女として、いわば同級生の女友達みたいに気軽にお喋りできる、楽しい関係性が築ける相手だった、という感じですね。
多分、クロノの心の安らぎとしてこれから最も必要な女の子だった・・・
ただ、エミリアにとってクロノはちょっと特別な存在になりすぎてしまったというか。
エミリアがアッシュに惹かれていく過程は、私としては結構急ぎはしたけれど、納得のいく流れにはできたのではないかと。アッシュのヒーロー性だけで、運命感じちゃうには十分過ぎたんですけど、エミリアにとって最も致命的だったのはリリィにどん底に落とされたことですね。この最悪に心が弱った瞬間に、クロノが最高のタイミングで駆け付けてフォローしてしまったが故に、というワケです。
主人公一人のためにアイドルヒロインがライブ、というのは、アイドルと恋仲になる系の話では割と定番というか、そんな印象のあるイベントですが・・・私にとって重要なのは、大人気アイドルが自分のためだけに歌ってくれる、という独占欲を刺激するシチュエーションではなく、あの大人気アイドルが全てを失った時、最後に残ってくれた愛する一人のためだけに歌う、という転落による落差によって生まれるロマンチックさ、ですね。
もうファンなんていらない、貴方だけいればいいの、みたいな?
そこまで思わせておいて、全て奪った憎い女とキスするクロノとかいう男・・・刺されても文句言えないっすね。
そんなエミリアがヤンデレベル上げてくるのはこれからですので。あの明るく真っ直ぐだったエミリアがすっかり拗れてしまった様を、上手に描いていきたいなと思います。
というワケで、エミリアにはちゃんと今後の出番というか、どういう役割をしてくれるのかという構想はありますので、彼女のことは覚えておいて欲しいですね。初恋拗れたエミリアの再登場にご期待ください。
初恋拗れたといえば、クルス少年も同様ですね。
クロノとリリィのキス放送によってNTR属性攻撃がクリティカルヒットして死んだエミリアと同じく、大好きだったけど諦めた女の子が遊ばれていただけだった、とこれまた違った角度でNTR属性攻撃を直撃してしまったクルス君です。多感な思春期にこの仕打ちは、ガチで脳が壊れてもおかしくない。
リリィはあのキス一つだけで、レキウルの二人からクロノを寝取り、放送を見せてエミリアから遠隔寝取りを、ついでにクルスにもダメージを負わせるという、トリプル寝取り+αという、甚大な被害を撒き散らしています。尚、本人は大変満足な模様。
クルスはエミリアと同様に、クロノから離れていったキャラになりますね。なんだかんだで、クロノと仲良くはできたけれど、明確に敵対へ傾いていったのは、この二人が初めてじゃないかと思います。長編なので、色んな人との関りが出ていく中で、こういう関係性が発生するのも良いのではないかと。
アッシュ編で、クロノがサリエルと遭遇するシーン。
色々と構成に苦労していたのは前述した通りですが、このシーンを組み込むのが一番苦労したと思います。
けれど、シーン単体としては、思いついた時には何とか入れたい、と思ったところでもあります。今のサリエルが本気でクロノに敵意を向けられたら、泣いちゃう・・・というのは、どうしてもここで描写しておきたかったので。
ここのシーンは、一回書き上げて、後にストーリー構成の改変に伴って、挿入する場所を変えたり、描写を変更したりしました。
具体的には、最初に書き上げた時は、クロノはカーラマーラの街中でサリエルと遭遇することになっていたのですが、最終的には、第一階層の学校拠点で遭遇と改変しています。
これは、街中で遭遇したら、クロノはより表が危険だと思ってダンジョンに引き籠ってしまうからですね。サリエルの捜査が第一階層に及び、さらについこの間まで自分がいた場所を探られているという事実(この時のサリエルは本当にクロノ捜索で、学校拠点を探して当てています)によって、これ以上は隠れ続けることはできない、と危機感を覚えてくれないといけないかったわけです。
ダンジョンで隠れるのが無理そうだからこそ、クロノもギャングであるオルエン相手に頭を下げて、子供達の世話を頼むに足る理由付けができました。
で、ここでオルエンに借りができるから、遺産レースでの協力も自然に成立できるようになりましたね。本当に、この辺は構成に悩まされましたよ・・・
さて、色々と苦労の跡が残るアッシュ編でしたが、どうにか書きたいこと、必要な伏線、キャラ紹介、を終えて、山場となる遺産レース編になります。
第一から第四階層までの攻略模様は、ぶっちゃけただの前座ですね。書けばなんだかんだでそれなりのボリュームにはなってしまいましたが。
このレース編において、というか、カーラマーラ編で私が最も書きたかったシーン、盛り上がるべき山場と定めたのは、リリィVSルルゥ、リリィVSゼノンガルト、クロノVS聖堂騎士、の三つの戦いです。
リリィ無双、すげ-書いてて楽しかったです。
ここからがカーラマーラ編の一番面白いところなんだ! と思って書いたリリィVSルルゥですが、ここの話から、反響が大きく、好評の声も感想で沢山寄せていただき、長い苦労が報われた気持ちになりました。どうやら、まだ自分の「ここが面白いんだ」という感性が、読者と乖離してはいないんだなと安心もできましたね。やはり、『黒の魔王』に求められているのは、こういう面白さでいいんだと。
それでは、それぞれのバトルについて解説していきます。
まずはルルゥについて。
リリィとは別な妖精姫・・・すなわち、半人半魔の妖精です。
彼女はヒロイン枠ではなく、カーラマーラの遺産レース編におけるライバルキャラとして作りました。普通の凄腕冒険者パーティを出すよりも、個性があっていいかなと。また、リリィ以外にも半人半魔の妖精が存在している、というのも個人的にはちゃんと出しておきたい設定でした。
リリィは生まれも特殊で、半人半魔なのも特別ですが、それだけで妖精女王イリスを継ぐに値する特別な存在ではありません。加護を授かった時にイリス自身が語ったように、クロノへの愛があるからこそ認められています。
なので、同じ生まれでありながらも、恋を知らずただ強力な加護の力を思うままに使うだけのルルゥは、イリスの力の本質を全く理解していない状態です。ずっと少女化していられる、という強みをもってしても、リリィに手も足も出ないのは当然の結末でした。
本編では語られてはいませんが、ルルゥは光の泉で迫害されなかったパターンです。
リリィは妖精たちの言いなりとなって森へ追い出され、泉にいないので幼女状態で長らく過ごしてきました。32年も。
一方のルルゥは、リリィと同じく妖精たちにハブられるような扱いはされたでしょうが、それに真っ向から反発し、泉に居座り続けて幼女状態に一度もなることなく、十年ほど過ごした感じです。
その後、泉での生活に退屈したのか、クイーンベリルを持って出ていきます。アーティファクト持っているので、泉から出ても、幼女状態になることはありませんでした。
ルルゥがずっと少女状態を維持できているのは、クリーンベリルがリリィの持っていたものより大きいということに加えて、ずっと泉に居座ったお陰で親和性も向上しているから、より強く恩恵を受けられる、みたいな設定もあります。
そうして、環境に恵まれたが故の強さを持ったルルゥは、その力のままに好き勝手生きてきたワケですが————ここでリリィと出会ったことが、人生で初めての挫折となります。
ルルゥは実年齢13歳ですが、泉を出た後の旅と、カーラマーラで賞金首になるに至るまでの大暴れによって、それなりに戦闘経験は積んでいます。実際に、一度は大迷宮も攻略していますし。ちゃんと格上と戦ったことくらいはありますね。
ただ、対等な力を持つ上に、敵意や殺意もなく楽しく戦ってくれたのは、クロノが初めてです。第四階層でのクロノ戦によって、ルルゥにとって初めて対等の友人・ライバルと認めるに足る存在と出会えた、という感じですね。だから、クロノに負けて悔し泣きこそしましたが、心情的にはかなりの満足感がありました。また戦いたい、また一緒に遊びたい、というような純粋な気持ちです。
その直後に完膚なきまでにフルボッコするのが、リリィの魅力であり、ここの話の面白さだと思います。
バトルというより、最早ただのイジメ。イキり倒すルルゥのことを、リリィは実際かなり苛立って見ていましたね。自分と同じ存在だからこそ、品がないのが許せない。ガキが、舐めてると潰すぞ・・・決して、13歳という若さを妬んでのことではありません。
初手『妖精殺し(リリィスレイヤー)』という対妖精におけるチートスキルを発動するリリィさんの本気ぶりといったら。
フィオナも相手が妖精と見て、リリィの意図は一瞬で察していました。なんだかんだ、この辺は親友ですよ。リリィの黒さも理解しているから、クロノよりフィオナの方が察しもいいですね。
ルルゥのクイーンベリルも奪い去り、リリィは自分の強化も出来たし、舐めた態度の後輩も躾けができたと、満足です。とてもクロノには見せられないよ!
そして、ある意味では遺産レース編のメインイベント。リリィVSゼノンガルトです。
いやぁ、ゼノンガルトは強敵でしたね・・・リリィとフィオナ、二人の絆の力によって勝ち取った尊い勝利です。仲間って、本当にいいものですね。
実のところ、ゼノンガルトはかなり強いです。ランク5冒険者としても間違いなく最上級の強さですね。あくまで、『黄金魔宮(ルール・オブ・ゴールド)』含んで、ですが。次元魔法使えるくらいカーラマーラの加護を強く得ていた、という状態は、使徒に近いですね。使徒ほどのチート能力ではないけど、本人の強さもあって、使徒に迫る実力となっています。
登場キャラの内、一対一で確実にゼノンガルトを倒せるのは、リリィとフィオナと使徒を除外すれば、クロノとレオンハルト王くらいでしょう。それだけ次元魔法(ディメンション)というのは強力です。伊達にイキってないですよ。
ただ、今回は本当に相手が悪かったとしか言いようがありません。自分を超えるレベルの次元魔法の使い手のコンビとか、パンドラ大陸広しといえど、まずいませんね。
ゼノンガルトは、ダイダロスの竜王ガーヴィナルと同じ魔王ガチ勢です。黄金魔神カーラマーラの加護を得ることで、幼い頃から成長チートしてきた彼は、自信家にして野心家。もしエレメントマスターがいなければ、聖堂騎士団も倒してカーラマーラを完全に支配できたかもしれません。
ただ、ガーヴィナルが敗れたように、十字軍には対抗しきれませんね。どう頑張っても大陸統一して魔王にはなれません。それでも、クロノと十字軍に対抗できる第三勢力として台頭できる可能性はありました。魔神カーラマーラも現世への影響を持ちつつあったので、ゼノンガルトの力もさらに増大しますし。
あわや天下三分の計になりそうなところを、リリィは未然に防いだ形になりますね。
魔神カーラマーラも消えた今、次元魔法も失い弱体化したゼノンガルトですが・・・彼については、前述した通り、これからも出番があるので、これ以上は詳しく語ることは控えておきます。
ただ、彼を実際に描き、VSリリィでの見事な散り様を経て、私としても結構、気に入っています。ゼノ兄さんの今後の活躍に、どうぞご期待ください。
ところで、ゼノンガルトのような実力者ではあるけど、同格の実力者を二人同時に相手した結果、一方的にボコられる・・・という展開はバトルモノではあんまり見ないかなと思います。
そもそも実力のある強キャラを出したら、その強さの魅力が活きるようなバトルを書きますからね。強さを説明した上でかませ、というスタイルはなろう、では定番中の定番ですが、それは大体、主人公側がよりチートなだけで、同格でもなんでもない、ただの弱い者いじめであることに変わりはないわけで。
強キャラVS強キャラコンビ、みたいなバトルだったら、なんだかんだで結構、拮抗したりする展開になりますが・・・相手が本当に同格だったら、二人同時に相手したら勝てるワケないですよね。一対一だからいい勝負できる力関係なのに、向こうが戦力二倍になったらどうしようもありません。
別にリアリティを追求したつもりはありませんが、ゼノンガルトがリリィとフィオナのコンビに完膚なきまでフルボッコになったのは、自然な結末だと思っています。戦いは数だよ兄貴・・・
結果的にボコることにはなったけど、戦闘前にかなりの中二発言を連発するゼノンガルトに対し、冷めた態度もとらず、それらの台詞に相応しい堂々の返しをするリリィは、男のロマンを理解してくれる素晴らしい女性ですよ。
ゼノンガルトも、ここまでワクワクさせてくれる相手は初めてでしたね。
遺産レース編において、主人公の一番の見せ場が、VS聖堂騎士ですね。
実を言うと、カーラマーラ編を書き始めた頃は、クロノ、『首断』持ってませんでした。ミサ戦のあと、そのまま放置という、他の呪いの武器と同じ扱いにしていました。
これは記憶喪失でゼロから再スタートするというコンセプトがあったので、鉈先輩というチート武器を持ってるのはいかんだろう、と思ってのことですが・・・すでに一度、「二度と手放すな」と怒られているので、やっぱり首断だけはクロノと一緒にしよう、と思い直しました。
まぁ、記憶がなければ、見るからにヤバい鉈、というのが分かるので、クロノも避けるだろう、という使わない理由も妥当なものが思いついたので、ほぼ当初の予定通り、武装ゼロの縛りプレイは実現しましたね。
その結果、土壇場で首断登場、という素晴らしい(自画自賛)演出に繋がったことを思えば、本当に良かったです。
しかし、クロノをピンチにさせるのは地味に大変でした。魔力が尽きた、ここぞ、というタイミングで聖堂騎士とかち合わないと意味がないというか、半端に力が残ってたら逃げることもできますし。かといって、適当なモンスターと戦わせて消耗させるってのもイマイチですので・・・ルルゥとの一騎打ちは必須でしたね。
ルルゥと戦わせることで、クロノに消耗を強いよう、というのはかなり早めに決めていたことですが、そのタイミングが地味に悩みました。
バトルの構成予定としては、
VSルルゥ
VS聖堂騎士
リリィ達と再会
VSデウス神像
となっているので、ルルゥと戦うタイミングは第四階層ラストにするか、第五階層転移直後にするか、決めかねました。
最終的には第四階層のボス戦代わりにルルゥと戦わせ、第五階層直後で聖堂騎士とかち合う、という構成にしました。
その結果、第五階層は強力なランク5モンスターのひしめく最高難易度エリアから、完全にスルーするだけの場所になりましたね。ここでのクロノの戦いは、リューリック倒せば十分なので、第五階層の攻略模様を書く意味がありませんから。
一応、第五階層にモンスターがいない理由は、遺産を継ぐ有力者は集まったから、もう充分、というかザナドゥも限界だから早く来てくれお前ら、という状態だったという設定です。第五階層のモンスは全てカーラマーラ由来の奴らなので、ザナドゥの意思とモノリス機能で操作可能だった、という面もあります。第一から第四までは自然のダンジョン化しているので、野生に生息している系のモンスターはモノリスで操作することはできません。
さて、魔力も尽き、体もボロボロになったクロノが首断を手にするまでのくだりは、地味にちょっと悩みました。けれど、結果的には納得のいく出来になったかなと。
クロノは基本、正義感で戦える男ですが・・・最後に追い詰められた時の爆発力が純粋な憎悪であり、それに呼応して力を与えられるのが呪いの武器である首断、というのはクロノらしいというか、黒の魔王らしい、いい感じに覚醒させられたかなと思います。いわゆる、テメーは俺を怒らせた、ですね。
土壇場で力が覚醒して逆転、って大体、仲間を思う気持ちとか、大切な人を守りたいとか、綺麗な感情で覚醒してるイメージあります。力が暴走系だと普通にキレたりでもしますけど。
でも私、ただの気持ちだけで力を得られるとか、キレて暴走すると凄い力が出るだとか、感情でパワーバランスが左右されるのはあんまり好きじゃないんですよね。別に正しい思いや清らかな心を持っているからといって、全ておいに優遇されるワケではないですし、キレたからといって気に入らないものを蹴散らすパワーが手に入るワケもありません。でも創作の世界では、主人公の気持ち一つで世界を左右するのは設定次第で幾らでも、なのでどこまでも都合よくできてしまう・・・だからこそ、覚醒して逆転したりするシーン一つとっても、納得できたり、できなかったり、素晴らしかったり、恐ろしく陳腐だったり、色々と評価が分かれてくるのだと思います。
そういうワケで、私はなるべく主人公にはあんま都合よく能力覚醒して逆転させるようなバトルはしないよう意識していますが・・・首断がクロノに魔力還元する辺りの能力は、割とあの場の流れで実装されたものですね。ま、まぁ、鉈先輩ならそれくらい・・・ねぇ?
実際、アッシュ状態では呪いの武器装備ナシという縛りプレイ状態ですし、首断はずっと影の中にはあったので、別にその気になればガシュレーにボコられるまでもなく返り討ちにすることもできました。なので、覚醒というよりは、元からある力が戻ったに過ぎない、という感じです。首断はただ、クロノが自分を必要とするまで、黙って待っていたのです。やかましいヒツギや、クロノのためにで勝手にやらかすリリィとは違うんですよ。なんというヒロイン力。伊達にリリィと同期じゃないですね。
割とあっさりケリのついたリューリック戦について。
ここはクロノが首断を手に目覚めたところがピークなので、あんまり粘られても、というわけでサクっと決着まではつけさせました。ただ、聖痕(スティグマ)の威力はちゃんと描写しておこないと、ただちょっと強いだけの雑魚、みたいになってしまうので、この辺はやれるだけはやりました。
実際、リューリックの使った技はどれも強力ですし、魔法としては上級以上の威力です。
バトル自体はあっさり、ですが、遺産レース編でクロノが戦う実質最後のボスでもあるので、顔出し自体はカーラマーラ編よりも前にしましたし、アッシュ編でもちょこちょこ出番もありました。
クルス少年とリューリックの出会いは、クルスの行く末を決めるためにも必要なシーンであると同時に、やはり同じ人間・信者同士だと、十字教徒は慈愛のある教えだよね、みたいなところも描きたかったからです。なので、リューリックはクルスを拾って面倒みて上げたように、これまでの十字教徒キャラらしい外道な言動をさせずに描いたキャラでした。
まぁ、別に善いことをしたからといって、それで許される世界でもないんですけどね。悲しいけどこれ、宗教戦争なのよね。
でもクルスにとって、クロノもリューリックもどっちも大きな恩のある人が、殺し合っている、という状況は結構好きですね。クロノとリューリックが互いに面識もなく、シンプルに敵対関係にあるから殺し合う、という当人同士に躊躇がないのも良いです。あくまで、そんな二人のどちらにも、恩を受けた人物がいる、というのが作品世界に深みを与えてくれる関係性になっているのではと感じます。
普通、クルスみたいな立場ってヒロインの役目ですよね。でも、「やめて、私のために争わないで!」とか言っちゃう系のヒロインって死ねって思いますよね?
カーラマーラについて。
そもそもの大目的、都市カーラマーラにあるオリジナルモノリスを確保せよ、というミアちゃんによるメインクエストは、魔神カーラマーラの復活阻止にあった、ということになっています。
魔神カーラマーラの登場で、これまで設定上でしか語られていなかった、神代は神が直接、人々を支配した時代だった、という部分が分かりやすく明示できたかと思います。王侯貴族の代わりに、色んな神様が人々を好き勝手にして支配したり弄んだり、あるいは守ったり甘やかしたりしていました。
魔神カーラマーラはそんな神代時代を思いっきりエンジョイした神の一柱であり、あの頃の楽しさが忘れられないバブル世代が如く、神代が終わった遥か後の現代に至っても、復活を目論んでいた、ということになります。
ミアがカーラマーラを指して、殺戮はしないから白き神よりはマシだった、と比較するような口ぶりをしているので、ミアが生きていた古代の時点でも、カーラマーラも白き神もパンドラに存在していた、ということになりますね。
そして『ゼロ・クロニクル』と呼ばれるものによって、神が人を支配する時代が終わった、ということも明言されています。
第771話『快楽と欲望の黄金魔神』での、ミアとカーラマーラとのやり取りで、今まで触れられなかった神代と古代についての設定がかなり明かされています。
ただ、考察しないと解答が出ない書き方で、この長い話の中からヒント漁って考察する人はまずいないと思われるので、ここで色々と解説していきます。勿論、771話の会話で確定できる内容に関してですが。
まずは、ゼロ・クロニクル、について。
最近ではモノリス呼ばわりで忘れかけていますが、パンドラ大陸において古代の石板モノリスは『歴史の始まり(ゼロ・クロニクル)』と呼ばれているが、アーク大陸では『歴史の終わり(ゼロ・クロニクル)』と呼ばれている(フィオナ談)、という設定が結構初期からありました。
つまり、パンドラでは神の時代が終わったことを、新たな時代だと呼び、一方のアーク大陸ではパンドラから十字教徒が追放され白き神の支配が失われたことを嘆いているわけです。
パンドラの『歴史の始まり』の『歴史』とは神ではない人の時代を意味する。
アークの『歴史の終わり』の『歴史』とは、白き神が支配した頃の時代を意味する。
こんな感じで、同じ言葉で別なことを指している、という設定になっています。
遥か昔、私がまだ『黒の魔王』を書くどころか、構想すらなかった頃、ミアちゃんが主人公やっていた作品のタイトルが『ゼロ・クロニクル』でした。ほとんど序盤だけで全く内容は書けてはいませんでしたが、色々とキャラとか設定とかはあったので、『黒の魔王』を書くにあたっての過去編というか、古代という歴史のストーリーを決定するにあたって流用しましたね。
詳しくは語りませんが、主人公ミアがその物語で成し遂げる目的が、神の支配を終わらせて、人の歴史をゼロから始めること、それが『ゼロ・クロニクル』という意味です。
何故、神の支配を終わらせなければならなかったのかというと・・・そんなのカーラマーラの発言と、白き神の行動を見ればお察しですよね。人にとってはほぼ災いでしかなかった神の支配に、反発しない理由はない。
ただし、ミアが生きた時代は古代であり、神代ほど神の支配が全盛ではありませんでした。
この神全盛期である神代を終わらせたのが、カーラマーラが最も恨んでいる『滅びの女神』と呼ぶ神です。勿論、この滅びの女神は、白き神と最も因縁が深い存在でもあります。
なので、ミアが主人公をやる話では、クロノにとっての魔王の神ミア、のように、ミアにとっての魔王の神が、この滅びの女神、となっています。この女神の加護を得たから、カーラマーラはミアを指して「滅びの女神の使徒」と言っています。
ちなみに、ミアは使徒のようなチート能力を授かった系ではなく、滅びの女神にチート育成されたタイプです。魔法学園とかに通って、「また僕なんかやっちゃいました」とか言うタイプ。ただし、妖精女王イリス(当時イリスさんじゅうに歳)の思い人である蒼真遥斗をはじめ、現役だった第一使徒アダムとかのチート野郎がゴロゴロいる時代なので、クロノ並みの苦労はありますよ。
ともかく、ミア自身が神の支配からの解放のために戦ったので、クロノを使徒のような扱いにしたくない、という強い動機があるわけですね。
白き神が規格外のチート能力を与えて十二使徒を任命するように、神様ルールを無視した行いは、再び世界に神の支配を及ぼす危険な越権行為になります。つまりミアの言う神様ルールは、神の支配時代に逆行しないための、重要な安全装置というわけです。
以上、かなりネタバレした感ありますが、
「諦めろ、すでに『ゼロ・クロニクル』は成った。神の時代は終わり、もうここは人の世界だ」
というミアの一言で、この辺まで考察できる余地があるんですよね。伊達にミアちゃんも中二台詞叫んでるワケじゃないですよ。ミアもカーラマーラも、古代の設定大放出な情報密度の塊の台詞の応酬でした。
それでは、いい加減、文字数も膨れ上がってきたので、今回はこの辺にしておきたいと思います。活動報告って、2万文字以内なんですけど、今だいたい1万5千文字です。
カーラーマーラという国を手に入れたので、ここからようやく、大きく十字軍との戦いを動かしていけます。クロノの新しい戦いに、リリィのカーラマーラ支配、などなど、どうぞこれからの展開をお楽しみに。
逆行地点は完全に冒頭(どこにでもいる普通の高校生時代)でもどこでも。持ってくのは力と記憶両方でも、記憶だけでも。以下適当思いつき
サリエル……いや白崎さん!? 黒乃くん?……ああまた逢えた! でもこの後……! ああ、頭痛の後に向こうの世界に……クソ、どうすれば!? /リリィも記憶あり。なんとかして転生召喚を防いだ黒乃と白崎さんは晴れて恋人同士にパターン → リリィ「なんでクロノがこないのよぉぉぉぉぉ!!」