コラボ、完結しました
2021年11月13日 (土) 21:10
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「お見事お見事……!」
 パチパチパチと空っぽの拍手が広いオークション会場に響く。
 俺はぐるりと視界を巡らし、がらがらの客席を捉える。数分前までは仮面で素顔を隠した老害共で埋め尽くされていたが、俺がターゲットの出品と同時に舞台に躍り出て主催者関係者を残らず始末した時には既に会場から逃げ果せていた。
 そりゃそうだ。ただでさえ叩けば悪事悪行の証拠が飛び出るようなご活躍を積み重ねている連中が、さらに後ろめたい裏オークションに面白半分で参加したところ、俺のような品行方正を絵にかいたような正義の味方によって主催者が目の前で消されたのだ。次は自分の番かと慌てて逃げるのは至極真っ当だろう。
 だがしかし、主催者がどうなろうと知ったこっちゃないとばかりに会場に居残った物好きが紛れていたらしい。
 それも、二人。
「一体いつから隠れていたんだね? 会場入りは私が一番乗りだったと思うのだが、君が入ってきていたのには気付かなかったよ。なあ、グランドロフ君」
「……ワシが来た時にはもうおったぞ。ゾイ、貴様の二つ前の座席に座っておった」
「おっと、これは私の間抜けが露呈してしまったようだ! アハハハハ!」
 ゾイと呼ばれた、モノクルにちょび髭の白髪交じりの薄い茶髪の妙に細長い体形の、まるで蟷螂のような印象を受ける初老の男。そしてその横にいるグランドロフと呼ばれたのは、ゾイとは真逆、背丈は子供ほどしかないが横に異常に巨大な筋骨隆々の虎髭男。
 実際に目の当たりにしたのはこれが初めてだが、事前に入手していたオークション参加者名簿で確認済みだ。その時には「こんな所に姿を現すはずがない」と頭の片隅に押しやっていたのだが、まさか本当に来ているとは流石に驚いた。
「魔王連合序列四十三位、咆哮の魔王ゾイ・ローア。並びに五十四位、釛床の魔王グランドロフ・グラッハか」
「おお! 新進気鋭の餓蛇の魔王ハクロ・タツミヤ君に名を覚えてもらえていたとは嬉しいなあ! なあ、グランドロフ君!」
「はっ、若造が」
「アッハッハ! 失礼、ハクロ君。彼は新参者の君が自分より序列が上なのが気に入らないらしい。申し訳ないね、友人に変わり、私から謝罪させてもらうよ」
「…………」
 なんか聞き捨てならんセリフが聞こえたんだが?
「おい、誰が何だって?」
「ん? 何がだい?」
「なんで俺が魔王に数えられてんだ? こんな善良な小市民つかまえて何言ってやがる、ふざけんなよ」
「おやおや? グロル君が嬉々として教えてくれたんだけど、違ったのかい?」
「…………」
 頭が痛くなってくる。
 俺も名前だけは聞いたことがあるが面識はない、魔王連合の中でも序列上位のグロル・ハーメルンが勝手に俺を魔王認定して連合に組み込んだらしい。ふざけんなよマジで。
 いや、それについてはこの際、捨て置く。
 問題は眼前――オークション会場に紛れ込んでいた魔王二体をどう対処するかだ。
 これが十把一絡げの魔王であれば、さっさと逃げるなり打ち倒すなりするのだが、この二体が揃って並び立つとなると、話はややこしくなる。
 咆哮の魔王ゾイ・ローア――武器商人の末路。世界を武器と闘争心で満たし、戦乱を巻き起こし、最後の一人となるまで戦わせる。そして生き残った最後の一人を殺すことで世界を滅ぼすという、魔王連合の中でもかなり奇特な存在。
 そして釛床の魔王グランドロフ・グラッハ――鍛冶職人の末路。こいつは鍛冶を極め、至高の一振りの剣を打つことを目標としている。ただし、その素材は世界そのもの。たった一振りの剣を造るための試作品の為に滅ぼされた世界は数知れない。
 そんな連中がこのオークション会場にわざわざ足を運んだ理由は、神剣でありながら幾人もの魂を喰らってきた曰く付きの双刀が目当てと見て間違いない。
 そしてその双刀は、俺の背後のガラスケースに飾られたままだ。
 今日俺は、魔術師連盟が目を付けていた裏オークション開催者を始末し、さらにこの災禍をもたらす曰く付きの神刀を回収するという依頼を受けて来ている――という名目で、単純にこの神刀が面白そうだからちょろまかしに来ているのだが、この二体の魔王もこの神刀が目当てと見て間違いないだろう。
 さてどうするか。
 流石に魔王二体が相手となると分が悪い。オークション主催者は一人残らず始末したことだし、刀は諦めてさっさと離脱し、連盟に報酬をたかるというのも手ではある。だが、武器商人と鍛冶職人の魔王に、この神刀を渡してしまうと後々碌なことにはならないだろう。
「……ふう」
 覚悟を決めるか。
 一歩。
 俺は大きく踏み込み、二人の眼前まで迫って拳を振るう。
「って、うおっ!?」
「はんっ!!」
 ゾイは慌てた様子でとっさに避けようとして尻もちをつき、それをフォローするようにグランドロフがどこからともなく取り出した大鎚で俺の拳を受け止める。

 ドカン!!

 拳と鎚がぶつかったとは思えない爆音とともに、俺たちを中心に衝撃波が生じて無人の客席が宙を舞う。
「は! はは! ワシの大鎚を真正面から受けて打ち負けんどころか、こちらが押されちまうとは丈夫な皮だな! 剥いで鞘の素材にするのも悪くないか!」
「やれるもんならやってみろよクソジジイ!」
「ちょ、ちょっと待った!」
 いったん離れて様子を窺おうとしたところ、慌てた様子でゾイが俺たちの間に割って入った。なんだ、殺し合いの仲裁をしようなんて、本当にこいつは変な魔王だな。
「ああもう、グランドロフ君! 今日はそういうつもりで来たわけではないだろう! すまないね、ハクロ君。重ね重ね謝罪をさせていただきたい」
「おい、ゾイ、こんな生きのいい素材を目の前にしてそりゃ――」
「いいから、グランドロフ君。ここは――私に任せてくれないか」
「――ッ」
 一瞬、ゾイの瞳が怪しく光った。それに射抜かれたようにグランドロフは溢れ出ていた殺気を無理やり押し込められたかのように体を強張らせ、ふん、と負け惜しみのように鼻で笑って大鎚をどこかにしまった。
「いやあ、悪かったね。気分を害してしまったな」
「それは別にどうでもいい。だがあんたら、本当に何しに来たんだ。あの刀が目的じゃないのか」
「いやいや。確かに興味がなくはないんだが、本当の目的は――君だよ、餓蛇の魔王ハクロ・タツミヤ君」
「その呼び方やめろ」
 思わず反射的に口を挟んでしまったが、気にする風もなく、ゾイは言葉を続ける。
「私たちは君に用があって、遠路遥々この標準世界ガイアまで足を運んだのだよ。君に用があって、世界魔術師連盟にこの裏オークションと神刀の情報も流したんだ」
「…………」
 魔王の情報に踊らされてんじゃねーぞ、あのオッサン。いや、分かってて俺に又流しした可能性もあるか、あの狸なら。
「なんだよ」
 俺は仕方なく、話の続きを促す。
「ごく最近台頭し始めた、千の剣、と呼ばれる魔王を知っているかな、ハクロ君」
「千の剣?」
 寡聞にして知らん。俺が勝手に魔王連合に組み込まれていたらしいことも今日知ったくらいだ。
 そう答えると、ゾイは愉しそうに愉しそうに、嗤った。
「千の剣の魔王。名の通り、幾千もの剣を手指の如く繰る異能の持ち主だ。まだまだ若いが、私の見立てではそう遠くない未来、魔帝の座に着くかもしれない魔王だよ」
「…………」
 魔帝、というのは何となく聞いたことはある。と言っても、魔王連合のトップではあるが、連合に属する魔王に対して王政を布いているわけではない、というくらいの知識しかないが。
「その次期魔帝候補君がどうした」
「フフフ……その千の剣の魔王を、私たちで育ててみないか?」
「……は? どういうことだ」
 頓狂な提案に、俺は思わず間抜けにも質問に質問で返してしまった。
 しかしそんなことでゾイは気を悪くせず、魔王とは思えない寛大な心で改めて答える。
「先ほども言ったが、千の剣はまだまだ、若い。いや、魔王としては幼いと言っても差し支えないだろう。その零に等しき魔王を、我々が育てる――最高の鍛冶職人たるグランドロフ君と、最高の武器商人たる私、そして鍛冶職人と武器商人の二つの顔を持つハクロ君でだ。千の剣を操る魔王を将来の魔帝に、だ。実に、実に愉しそうではないか」
「…………」
 俺は何も答えなかった。
 唆られたからではない。
 恐れたからでもない。
 ゾイからの提案に、愉悦も、恐怖も、侮蔑も、何の感情も抱かなかった。
「興味がないな」
 ただ、その一言に尽きる。
 そしてゾイは、俺の返答に、
「そうか」
 とだけ、呟いた。
「まあ私も、すぐに色よい返事が聞けるとは思ってはいなかったよ。もし興味出たら、ここに連絡してくれたまえよ」
 言うと、ゾイは懐から名刺入れを取り出し、何か未知の金属でできた名刺を俺に向かって投げた。
「君が千の剣育成計画に合流してくれるまで、とりあえず計画は凍結するとしよう。フハハ、ではハクロ君、色よい返事を待っているよ」
「……ふん」
 投げられた名刺に一瞬気を取られた瞬間、声だけを残して二体の魔王は霞のように姿を消した。
 本当に、俺をその育成計画に引き込むためだけに来たらしく、オークション会場には魔王の気配は微塵も残されていなかった。それを確認した後、俺はため息交じりに踵を返し、舞台に昇る。オークション関係者の躯が転がったままの血生臭い舞台の上に、幾人もの魂を喰らってもなお神々しい輝きを放ち続ける神刀が鎮座している。
「誰がンな計画に首突っ込むかっつーの」
 俺は渡された金属の名刺で、神刀が収められたガラスケースを切り裂く。
 すると神刀の聖気にあてられたのか、魔王の名刺はぐずぐずに腐敗し、跡形もなく崩れ去った。おっと、これじゃあ連絡したくてもしようがないな、仕方ない仕方ない。
 俺はガラスケースから二刀一対の神刀を無造作に取り出し、魂を食われる前に早々に封印を施してオークション会場を後にした。





























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「いえーい。みんな大好き須々木沙咲ちゃんだよ」

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「というわけでコラボ小説『無黒語』はこれにて完結。約4年に渡ってお付き合いいただきありがとうございますと言っておこうかな」

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「最後の活動報告ということで特別に瀧宮ちゃんのお兄さんが最後の方で話しに出した神刀にまつわる短編を掲載させてもらったよ」

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「これはさらに後々のお話である吾桜紫苑先生著Noir et Rouge 〜Encore〜1:とある世界の邂逅へと繋がるお話だよ」

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「まあ蛇足の蛇足ということで暇潰しになればいいなと思うよ」

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「さてさて。まああまり長くなるのも良くないだろうということで。またの機会があったら会うのを楽しみにしているよ」

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「それじゃあ。またね」
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