「吸血少年との夏」小話
2021年04月09日 (金) 17:27
 誤字脱字報告ありがとうございました。

 初恋は実らないのも大変おいしいですが、玲央の初恋は多分実ります。
 ちなみに近所の男の子達の何人かは凜子が初恋の相手だったりします。凜子は一切気付いていません。

以下、再会前の話と再会後の話。


***玲央が10代後半くらいの頃の話

「お兄ちゃん。好きな人の血って、好きになるから甘くなるの?それとも甘いから好きになるの?」

 12も下の異母妹が、不意にそんな事を言う。
 ビジネス書を読む手を止めて玲央は考えた。
 あの夏休み、母親が電話越しに言った。

――『凛子さん』が好きなの?

 玲央は思わず答えていた。

――まさか!

 母親の前で認めるのは単純に恥ずかしかった。だけどそわそわ落ち着かなかった。恥ずかしさの他に少しの焦りと高揚感。
 その時は自覚はなかった。だけど凛子といるのは楽しくて、ずっと傍にいたいと思った。
 あの甘い香りを一度嗅いだ後に一層惹きつけられた事実も少なからずあるけれど。

「どっちが先かなんて分からないな。だけど好きになったから、全部甘く感じるのかもしれない」

 血だけじゃなく、肌やかさぶたさえも。
 あの時は確かに凛子の全てが甘く感じたのだ。
 妹は気のない相槌を打って、「よく分かんない」と一言。
 玲央自身も上手く説明出来ていないのが分かるから、甘んじて受ける。

「『凛子さん』の血舐めたら分かるかな」
「ダメだよ」
「何で?お兄ちゃんのじゃないじゃん」
「そうだけど。凛子さんのだけは絶対ダメだ」

 妹はほっぺを膨らませそっぽを向いた。そんな顔したってこればかりは死んでも譲らない。

 早く会いたい。
 だから大人になりたい。
 日々の遅さにもどかしさを募らせながら、玲央はひたすら勉強した。


*異母妹ちゃんはもう少し大きくなったら、兄の語る『凜子さん』像があまりに聖女すぎて、兄の妄想ではないかと疑うようになります。

*****
***故郷を離れて一人暮らしする凛子の隣室に、玲央が引っ越してきた


「凛子さん怪我したんですか?舐めていいですか?」
「ダメ」
「でもでも、僕が舐めたら怪我だってすぐ治りますよ。ねえ凛子さん凛子さん。お願いします。凛子さーん」
「ああもううるさい。おすわり!」
「わんっ」

 玲央が膝を抱えておすわりをした。凛子はギョッとしたが、褒めて褒めてと言わんばかりのキラキラした目を向けられて、思わず頭を撫でてしまう。

 ご近所であらぬ噂が立った。


*隣室に越す許可は凜子に渋い顔させながらももぎ取りました

*****
***押してダメなら胃袋から


 仕事を終えて夜遅く、ようやくアパートに辿り着いて鍵を差し込んだら、嗅ぎつけたように隣の部屋のドアが開いた。

「おかえり凛子さん!」

 凛子は思わず渋い顔をする。

「肉じゃが、凛子さんの分も作ったんです。良ければ食べませんか?」

 にこにこと差し出された保存容器に思わず唾を飲み込む。
 夕飯はコンビニで買ってきた。しかしそんな弁当よりも、目の前の肉じゃがの方が遥かに魅力的だ。
 腹が減りすぎて失せ掛けた食欲が俄かに蘇る。

「……じゃあ、遠慮なく」
「はい!気を付けて下さいね」

 凛子が扉を開けるまで待っていた玲央は、保存容器を渡すと追いすがる事なくおやすみなさいとだけ告げて引っ込んだ。
 構えていた凛子はすっかり拍子抜けだ。

 肉じゃがは母の味に似ていて、何となくしんみりした凛子だった。


*玲央は凛子母に弟子入りし、定期的に料理を習いに行ってます。



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