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2018年08月23日 (木) 18:36
 お疲れ様です。

 「桃姫伝」25話 更新しました。

((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル
 保健室のベッドを仕切るカーテンを開けて、ガクブルした。そこだけ天上の冷房設備が過剰に効いて、夏も盛りの時分に極寒だったのだ。しかも、バチィと目が合った。授業をさぼって生まれたヒマを、保健室のベッドで持てあましているアジア系金髪美女の生徒が、もきもき、もきもき、と氷を口の中で噛んでいた。つやのある黒い瞳に、瞬間、引き込まれる。結晶を模した控えめなイヤリングが、あごの動きで微かにゆれていた。手には、氷入りの紙コップ。時間が寸刻停止してから、はっとする。「……なに、しているの?」尋ねると、すごい剣幕(けんまく)で氷を噛むのをやめてしまった。ああ、これは、聞くな、しゃべるな、だまっていろ、というサインだと思ってカーテンをしゃららんと閉じた。見なかったことにした。
 さて、するとでも自身はどこで休もう。絶賛、熱中症で体育の授業を抜けてきたばかりなのだ。横になりたいが、只今ベッドはふさがっていて……あ、ベッド2つあるじゃないか。もう片方は空いているはずだ。しゃららん。再びカーテンを開けると、冷気が頬をさわった。アジア系金髪美女が、氷を、もきもき、もきもき、と食べていた。たぶん、氷は保健室に置いてある冷蔵庫にあったんだろう。
「こおり好きなの?」
 聞くと、かなり間が空いてから、口の中の氷を片付けたアジア系金髪美女が「べつに」といった。
「じゃあ、なんで食べてるの?」と続けてみると「噛むものがないから」という。ならガムでも買ってくればいいのに、なんて真っ先に浮かんだ言葉を飲みこんで「おなかすいているの?」と聞いた。
アジア系金髪美女は無言をつらぬき、訳すと【うるせえ。いちいち突っ込んでくんじゃねえ】みたいな、しかめ面だった。悩んだ末に出した答えを口にしてみる。
「……アイス、買ってこようか?」
アジア系金髪美女は無言で、その間を訳すと【引き換えに、お前はわたしにナニを求めようとしてんだ、コラ】みたいな、訝しむ顔になった。
 あわてて「たかだか数百円で大げさな。そんなことで恩着せがましくするほど、小さい人間になりたくない。それに、ボクは自分がアイスを食べたいんだ。もし、バレてしまった時、一緒に先生の怒りを買ってくれるなら、矛先が分散されて助かるだろう? うぃんうぃん。そう、キミの為じゃない。ボクがボクの為にやる。でもこれは、キミの同意を得ないとできないことだから」とまくしたてた。「モナカでいい? それともいっそ、おにぎりがいい?」
 アジア系金髪美女は、読めない表情でぼうっとしていた。
 やがて「べつに」とつぶやいた。
 「やっぱ、いらない?」と確認すると「そうは言ってない。モナカでもおにぎりでも、べつに両方でもいい」。そういうことか。「そんじゃ、両方買ってくるよ」

 それから、何度か保健室で彼女を見かけた。そこは彼女のお気に入りの場所だった。いつもガンガンに冷房が効いていて、会うたびに、もきもき、もきもき、と氷を噛んでいた。ボクは、善意でないことを前置きしてアイス等々を買ってきた。彼女の方も「べつに」スタイルを変えることもなく、食べたり、食べなかったり、気まぐれに過ごしていた。
 彼女が一度聞いてきた。「なんでいつも、そんな風なの」。
 それはこっちのセリフだろうと思ったが、考えるふりをしてから「ぐうぜんウサギの飼育委員になった生徒が、エサをあげる感覚」といった。彼女は怒ることもなく「飼育委員じゃないでしょ」と普通につっ込んでくる。また考えるふりをしてから「理由にならない理由があるから」と言ってから、「よくわからない」と話をごまかした。

 ある日、めずらしくアジア系金髪美女が「アイスを食べたい」とお願いをしてきた。「熱でもあるんじゃないの」と聞くと「かもね」とささやき返し、おでこを寄せてきた。ボクが身じろぎするよりさきに、こつんとおでこがくっつく。そして、キスされた。本当にびっくりした。
 キスに、じゃないんだ。くちびるがめちゃくちゃ冷たかったからだ。
 ファーストキスの感想はとにかく「うっわ冷たい」。凍ってひっついたんじゃないかって心配したくちびるが、ぺりぺりとはがれると、目を左右にふり、一間をおいて、「ありがとうね」って。
 しどろもどろに「どうも」とか「うん」とか返した気がする。
 その後、彼女は保健室に現れなくなった。
 親の事情で引っ越したんだそうだ。
 今でも、あれは現代に迷い込んだ雪女だったと思っている。


 ぱくっ、もきもき(´・ω・)  ……((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル

 でわまた(*'▽')
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