2022年12月22日 (木) 17:24
なにかで、味噌の蛋白質は、純粋蛋白というものだという科学的な説明を見てから、つとめて、みそ汁は欠かさぬものにしているが、すこし腹のぐあいがわるいと、どうもあの一椀も残してしまう。
日本人の中には、味噌通という者がいて、みその講釈はなかなかうるさい。名古屋の人は三河ミソ、越後人だと越後ミソ、信州は諏訪ミソ、上方の白ミソといったふうに、鮎の産地に次いで、ミソのお国自慢もよく聞かされることである。
だが、私たちのように、郷土をもたない人間には、これといって、かくべつ吹聴したいヒイキ味噌もない。で、自然、諸家の説に服すしかなく、おかげで諸国のみそを遍歴したが、この頃では、浅草二天門の老舗が取次いでいる四種類のみそを、交互に更えて、用いている。
だいたいが、佐渡みそ、越後みそ、仙台みそ、田舎みその四種である。田舎みそなんていうのは、元来、無いはずだから、これは各地の長所を交ぜ合せた味噌のカクテルなんだろう。わが家ではいま、この田舎みそを用いているが、これがなかなか捨てがたい風味なので、永井竜男氏と、みそ汁の話が出たついでに、送ってあげる約束をした。純粋な下町ッ子である永井氏の好みに合ったか否か、まだそこは聞いてないが、由来、東京の下町人は、みそ汁には、やかましい卓説をもっていたものだ。けれど、この頃の人の好みは知らない。わが家の例に見ても、若い子たちがもっぱら言うのは、ポタージュやコンソメについてである。みそ汁のみそのごときは、何でも同じだと思っているらしい。